1. TCFDが提唱する気候関連リスク・機会の開示
TCFD提言では、気候変動によるリスクおよび機会が企業にもたらす財務的影響についての情報開示を求めています。
気候関連のリスクは移行リスクと物理的リスクに大別されます。移行リスクには、脱炭素経済への移行に関して生じる政策遂行、技術の陳腐化、マーケットの変化やレピュテーションリスクがあります。物理的リスクには台風や異常気象など資産の毀損(きそん)などの急性リスクと平均気温の上昇や海面上昇などの慢性リスクがあります。
また、気候変動に関連したビジネスの機会として、資源やエネルギー源の効率的な利用によるコスト削減や低炭素製品やサービス需要増加による売上増加、新規市場の拡大やレジリエンス計画による市場価値向上などを例示しています。
さらに、エネルギー、運輸、素材・建築物、農業・食糧・林業製品の四つのセクターを気候変動の影響を強く受けるセクターとして、推奨する開示項目を補助ガイダンスで明らかにしています。
2. TCFDのシナリオ分析ステップと検討のポイント
TCFD提言では、企業の気候関連問題に対するレジリエンスを評価するためシナリオ分析の実施を推奨しています。TCFDはシナリオ分析の解説書であるTCFD Technical Supplementを公表し、下記の通り六つの検討ステップに沿って進めることを推奨しています。
【Step1:ガバナンスの整備】
シナリオ分析にあたっては、経営層の理解を獲得し、事業部を巻き込んだ体制を構築し、分析の対象範囲(地域、事業、企業)を特定し、時間軸を決めます。
【Step2:リスク重要度の評価】
企業が直面する気候変動リスクと機会を列挙した上で、起こり得る事業インパクトを定性化します。リスク重要度の評価はセクター別、サプライチェーン別に細分化して評価することが有用です。
【Step3:シナリオ群の定義】
企業に関連する移行リスクと物理的リスクを包含した複数のシナリオを想定し、いかなるシナリオと世界観が企業にとって適切かを検討します。
【Step4:事業インパクト評価】
それぞれのシナリオが企業の戦略的・財務的ポジションに対して与え得る影響を評価し、感度分析を行います。事業インパクトを試算するためのロジックを作ることが重要です。
【Step5:対応策の定義】
事業インパクトの大きいリスク・機会について、自社対応状況を把握し、必要があれば競合他社の対応状況の確認の上、適用可能で現実的な選択肢を特定します。
【Step6:文書化と情報開示】
TCFD提言の開示推奨項目におけるシナリオ分析の位置付けや、各ステップの検討結果につき、読み手の視点に立って適切に開示し、企業価値向上につなげることが重要です。