2022年7月29日
海外赴任者の所得税の本社一元管理の必要性

海外赴任者の所得税の本社一元管理の必要性

執筆者
EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

EY 行政書士法人

グローバルネットワークを最大限に活用し、クライアントの海外人事戦略とその実行・運用を支援します。

EY Immigration Corporation

藤井 恵

EY Japan ピープル・アドバイザリー・サービス/グローバルモビリティリーダー EY税理士法人 パートナー

兵庫県出身。趣味は映画鑑賞、旅行。

2022年7月29日
関連トピック 人材・組織

海外出向者に関する税務問題について、出向者コストを本社負担した場合の寄附金リスクと同等に、重要で対応策を検討すべきは「赴任先国における個人所得税の申告・納税漏れのリスク」です。対応策はあるのでしょうか。

本稿の執筆者

EY税理士法人・EY行政書士法人 税理士・行政書士 藤井 恵

15年にわたり、日本から海外または海外から日本への赴任者・出張者の税務、給与、福利厚生、リスク管理など、グローバルモビリティに関する総合的なコンサルティングサービスを企業に提供。主な著書(共著)に『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』(清文社)『すっきりわかる!海外赴任者・出張者・外国人労働者雇用』(税務研究会)などがある。

要点
  • 海外赴任者の任地所得税はどのように管理すればよいだろうか。
  • 本社一元管理のメリットと一元管理を行わない場合のリスクについて、明確にして導入を検討する必要がある。

Ⅰ はじめに

海外出向者に関する税務問題について日本本社にとって最も関心が高いのは、出向者コストを本社負担した場合に当該コストが日本で寄附金としてみなされるか否かという点ではないでしょうか。しかし、この問題と同等かそれ以上に重要ながら日本の経営者の関心が非常に低く、そのリスクすらあまり認識されていないことが多いのが、海外出向者の「赴任先国における個人所得税の申告・納税漏れのリスク」です。

そこで本稿では、海外赴任者の任地での個人所得税について、海外赴任者の報酬の特徴や管理方法について解説するとともに、申告漏れのリスクを減らすために有効な手段を紹介します。

Ⅱ 海外赴任者の報酬の特徴

通常、海外赴任者には、日本本社が定めた海外勤務者規程に基づき、海外勤務に伴うさまざまな手当、福利厚生が支払われています。この中には会社から本人口座に直接振り込まれるもの以外にも、会社が支払った医療費や子どもの学費などがあります。具体的には次の通りです。

<現金で支給されるもの(本人口座に入金されるもの)>

  • 基本給
  • 手当
  • 賞与
  • 支度金、着後手当 等

<会社が本人を介さず、ベンダー等に直接支払うことがあるもの>

  • 語学研修費(本人、帯同家族)
  • 医療費
  • 海外旅行保険等医療関連保険料
  • 一時帰国時の航空運賃
  • 任地での自動車関連費用
  • 書籍、通信教育費用
  • 荷物運送費用
  • 国内残置荷物保管費用
  • 教育費(小学校、幼稚園等の学費)
  • 赴任国の税金 等

海外赴任者に対しては、支払う手当や福利厚生の種類が非常に多いことや、その支払い元や最終負担先が日本本社であったり、現地法人であったりすることが特徴です。さらに、支給方法も本人口座への直接振り込みもあれば、サービスベンダーに会社が直接払う場合や本人が払う場合などもあり多岐にわたっています。日本国内で勤務を行っている場合と比べて、非常に複雑な状況になっているといえます。

Ⅲ 日本本社が日本のベンダーと契約し、現地所得税申告業務を一元管理

日本の本社がグローバルな会計事務所の日本拠点と契約、そこから会計事務所のグローバルネットワークを使い、個人所得税の申告等を行うのが一番手間が少なく、かつ申告漏れも発生しにくくなります。外資系のグローバル企業では最も一般的な方式で、日本企業でもこの方式が増えつつあります。この方式ですと本社側でさまざまな情報を集約することができます。

この方式の場合、本社担当者は日本にいるコーディネーターとやり取りするだけでよく、本社担当者は申告に必要な書類をコーディネーターに渡せば、コーディネーターが各地の事務所に送付することになります(または指定された場所にデータを置く形もあります)。

申告や納税に関する不明点、赴任者からの質問があれば、その都度日本にいるコーディネーターに日本語で確認することが可能です。そのため、海外拠点数や赴任者数が増えても、本社担当者の手間は大きく変わらない点が特徴です。この方式を採用すると、管理も情報集約もしやすく、申告・納税漏れも生じにくい状況になります。

一元管理を行うメリットをまとめると次の通りです。

一元管理を行うメリット

<本社側のメリット>

① 赴任前

  • 人当たりコストの試算実施で現地法人との費用負担を事前に決定可能
  • 任地の優遇税制を事前に把握、優遇税制利用に必要な赴任スキームを構築可能
  • 日本側で日本および任地税務ブリーフィング実施、赴任者に説明責任を果たせる
  • 赴任国が違っても、会計事務所に対し、その都度海外赴任者制度を説明する必要が少ない
  • 両国の制度を考慮して、赴任タイミングを決定することでトータルの税負担を減らすことができる

② 赴任中

  • 不明点は日本語で確認可能であるため、申告漏れリスクが低減
  • 税務調査を受けた際、内情を把握した専門家へ依頼することで対策を講じやすい
  • 本国、各国担当者がリアルタイムで情報を共有可能
  • 業務ナレッジの蓄積可能(本社担当者が変更の場合も安心)

③ 帰任後

  • 帰任後に発生する任地所得や所得税にも最後まで対応できる
  • 必要に応じて日本側の申告手続きも依頼可能

<現地法人側のメリット>

  • 本社側で契約するので、現地法人側で契約書チェック・管理・更新業務の必要がない
  • 本社側で契約しているため、ローカルプロバイダーよりも、日本本社の状況(赴任者規程や赴任者に支払われている手当等)について把握していることから、何度も同じことを説明する必要がない
  • 日本側の情報をタイムリーに入手することが可能

<赴任者にとってのメリット>

  • 赴任者の個人的な問題(相続・贈与・株式報酬関連・退職金)も日本と赴任国双方において適時に相談が可能
  • 本社側の専門家が赴任者規程を熟知した上で、対応策を取ることが可能

Ⅳ 今後、どう進めていけばよいか

全拠点を一元管理できる方式に一気に変更する場合、一時的にはさまざまな変化があり大変ですが、落ち着けばその後は非常にスムーズです。結果として一番合理的な方式と考えられます。一方、本社側で一元管理しないことにより生じる事例は次の通りです。

一元管理を行わない場合に起き得る事項

<赴任前>

  • コストを考慮しない人選の結果、自社のサービスや製品価格に影響し、競争力が低下する
  • 準備不足で優遇税制の活用ができない
  • 海外勤務の煩雑な事務処理に赴任者から不満が出る(業務に集中できない等)
  • ローカルプロバイダーは日本の税務に詳しくないため、日本と任地との二重課税の調整がうまくできない

<赴任中>

  • 申告漏れで、高額なペナルティーが発生(延滞税を含めた額の負担)
  • 一元管理されていないなど、税務調査時、情報収集で多大な時間が発生

<帰任後>

  • 任地および日本での所得税申告漏れ・源泉徴収漏れが発生する可能性
  • 任地のローカルプロバイダーの場合、日本の税務の視点に立ったアドバイスが難しい
  • 上記の結果、任地の税務には対応できても日本側の取扱いに課題があり、ペナルティーを受けるリスクがある

Ⅴ おわりに

一元管理体制がとられていないとさまざまなリスクが生じる可能性があります。一元管理をせずに、現地法人に委託するスタイルを継続される場合は、所得税申告が正しくなされているか、定期的にチェックすることをお勧めします。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2022年8月・9月合併号 People Advisory」をダウンロード

サマリー

海外出向者に関する税務問題について、出向者コストを本社負担した場合の寄附金リスクと同等に、重要で対応策を検討すべきは「赴任先国における個人所得税の申告・納税漏れのリスク」です。対応策はあるのでしょうか。

情報センサー2022年8月・9月合併号

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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