第1章
BEPS 2.0 – 第2の柱
国内法整備が進むBEPS2.0合意
BEPS2.0第2の柱は2023年に具体化され、現在、多数の国・地域が経済協力開発機構(OECD)/G20包摂的枠組みに加盟する138の国・地域間で合意を形成するための国内法を検討、提案または議論しています。2022年12月、EUは満場一致でミニマム課税指令(Minimum Tax Directive)を採択し、すべてのEU加盟国は、2023年末までに第2の柱の国内法への移管が義務付けられました。同じく12月、韓国では第2の柱に沿った法律が制定されました。 英国と日本では法案が公表され、スイスでは国民投票による承認が必要な国内導入に向けた憲法上の措置がとられており、その他多くの国でも導入に向けた準備が進められています。
Angusは、「国内での活動が飛躍的に増加する中、グローバル企業は、自社のフットプリントに関連する国・地域の動向を監視し、変化に対する準備を今すぐ開始する必要があります」と述べています。包摂的枠組みのモデルとなるグローバル税源浸食防止(GloBE)ルールは、関連する解説および合意された行政ガイダンスとともに、国・地域が国内法の基礎として利用されることを目的としています。第2の柱の設計では、年間売上高が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業(MNE)に対して、15%の最低実効税率が導入されます。ある国・地域における多国籍企業グループの所得に対する実効税率が、合意された規則に基づいて計算された15%を下回る場合、「トップアップ税」を課す権利が多国籍企業グループと関係のある国・地域に割り当てられ、まずは当該低税率国・地域に、次に本社所在地(または低税率事業体の中間親会社の所在地がある国・地域)に、そして多国籍企業グループが事業を展開しているその他の国・地域に優先的に割り当てられることになります。これらのルールは、一般的に2024年から開始する課税年度から適用される予定です。Angusはまた、「第2の柱の連動ルールシステムは、たとえ企業の本社所在地がグローバルミニマム課税制度を導入していなくても、他の国・地域が導入すれば、国内外での事業に影響を与えることを意味します」と付け加えています。
これらの世界的な改革は個別に実施されるのではなく、むしろ重要な相互作用を伴います。設計をめぐる世界規模の交渉は、各国・地域が立法プロセスを開始している現在でも進行中です
EY EMEIA Tax LeaderであるRocio Reyero Folgadoは、「柱となる2つのルールの複雑さと、発効までの短い期間がコンプライアンスに重大な課題をもたらしています。トップアップ税の適用規則には、多大なデータ収集と計算が必要です」と述べています。2022年12月下旬、包摂的枠組みは、セーフハーバーを満たす国・地域について、多国籍企業が包括的かつ詳細なGloBEルールの計算を行わずに済むようにする暫定セーフハーバーを公表しました。暫定セーフハーバーは多国籍企業の国別報告書(CbCR)に依拠しており、暫定セーフハーバーの適用を受けるには、特定の適格財務諸表を用いる必要があります。企業は、この暫定セーフハーバーが利用できる最初の年にある国・地域で利用しなければ、利用する権利を失います。Reyero Folgadoは、「企業は今すぐ暫定セーフハーバー適用の検討を開始し、自社の国別報告書(CbCR)が適用要件を満たしていることを確認する必要があります」と述べています。
第2の柱は、包摂的枠組みが現在開発中の標準化されたGloBE情報申告書の提出を想定しています。申告書には、税務部門が用いる財務報告システムで管理されていない可能性のある情報を含め、国・地域ごとに200以上のデータポイントが含まれる可能性があります。データの正確性と可用性が鍵となるため、多国籍企業は、これらの新しい要件に照らして自社のシステムとプロセスを見直し、今後のコンプライアンスと報告を促進するにはどのような変更が可能かを特定する必要があります。
企業は今すぐ暫定セーフハーバー適用の検討を開始し、自社の国別報告書(CbCR)が適用要件を満たしていることを確認する必要があります
BEPS 2.0のもうひとつの柱である第1の柱には、グローバルでの事業所得に対する課税権の各国・地域の市場への配分を拡大することを目的としたネクサス(課税根拠)と利益配分に関する新たな規則、および基本的なマーケティング活動や販売活動に対する新しい固定収益システムが含まれています。 この複雑な技術的作業は包摂的枠組みでも継続されていますが、第1の柱は第2の柱とは異なる軌道をたどっています。EY Asia-Pacific Tax Policy LeaderであるMatt Andrewは、次のように述べています。「第1の柱の協議文書が、包摂的枠組みではなく事務局文書として公表されたことが示しているように、交渉は難航していると思われます。この点で、多くの国・地域による採択は差し迫っているわけではありません。もし第1の柱が採択されなければ、各国・地域は独自のデジタルサービス税を導入し続け、その結果、コンプライアンス要件が多様化する可能性があります」。 第1の柱の取り組みの成果はまだ明らかになっていませんが、これらの議論は、今後数年間で何らかの形で世界的な税制改正を促進すると予想されます。
第2章
透明性の促進
新しい透明性に関する措置にはこれまで以上に多くのデータが必要となる
第2の柱の情報要件は、政府やその他の利害関係者が企業に要求する、新しく進化する透明性のより大きな波の一部です。デジタルプラットフォームによる報告や暗号資産に関する新しい制度の導入は、共通報告基準の拡大とともに、経済の多くが税務当局間の自動的情報交換の範囲内に入ることを意味します。これらの制度は、EUにおける義務的開示制度(MDR)の完全施行と相まって、税務当局に相当量の新しい情報を提供することになるでしょう。アルゼンチンもまた、国際取引に関する新しい義務的開示制度を創設しました。さらに、多くのラテンアメリカの国・地域でも、受益者登録や関連する報告要件を設けています。
透明性に関する進展のうち最も関心を集めているのは、EUの国別報告書の開示指令かもしれません。この指令は、2024年6月22日以降(場合によってはそれ以前)に開始する最初の会計年度から、大企業が支払った所得税やその他の税務関連情報を公開することを求めており、EUに拠点を置く多国籍企業とEUで事業を行うEU外に拠点を置く多国籍企業の双方に適用されます。
欧州以外に目を向けると、オーストラリアでは、2023年7月から開始する会計年度から、国外に本社を置く企業を含む大規模な多国籍企業に国別の税金および事業データの公開報告を義務付ける予定です。企業は、その他の国・地域がこれに追随するかどうかを注視する必要があります。EY Global Government Tax Leader and UK Tax Policy LeaderのChris Sangerは、次のように述べています。「英国では、すでに国別報告の公開を義務付ける法律が成立していますが、現在は政府による発動を待っている状況です。 これまで英国政府は先陣を切ることに抵抗を示していましたが、EUとオーストラリアが先行すれば、英国もすぐに追随する可能性は十分あります」。
また、世界中でサステナビリティや気候に関する新しい報告要件が設けられています。EU、英国、日本、インド、韓国では、温室効果ガス排出量、気候に関する誓約、目標の進捗状況など、環境サステナビリティ指標に関するさまざまな報告が行われているか、まもなく行われる予定です。気候報告の義務化に関する米国証券取引委員会の提案に対する採決は、2023年初頭に予定されています。
政府からの要請にとどまらず、顧客、従業員、投資家からも、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)要因に関連するより多くの情報の開示に対する要求も高まっています。EY Global Sustainability Tax Leader兼EY Americas and Global Tax Policy Network LeaderであるCathy Kochは、「まだ義務化されていないかもしれませんが、より持続可能な事業へのニーズの高まりに対して、自社がどのように取り組んでいるかを共有することは、事実上必須となっています」と述べています。
まだ義務化されていないかもしれませんが、事実上必須となっています
第3章
グリーントランスフォーメーション
透明性と税の交差点にあるサステナビリティ
Kochは、次のように述べています。「税務は、企業のグリーントランスフォーメーションにおいて、要件を満たすことだけでなく、トランスフォーメーションを容易にする機会をつかむという大きな役割を担っています。世界中の政府が気候変動に関する誓約を行い、その誓約を支援する政策を策定しています」。インセンティブや助成金、規制や税金はすべて、政府が用いる政策手段です。こうした措置は、財務上の機会と課題を生み出す可能性があり、また、記録保持や開示の要件を生み出す可能性もあります。企業は、環境への影響を把握して社会的・法的義務を理解し、融資や資金調達の選択肢を活用する必要があります。
グリーントランジションの促進
EY Americas Vice Chair of TaxであるKevin Flynnは、次のように述べています。「企業は、政府のインセンティブを調査・計画することから始め、サステナビリティに取り組むことで、長期的価値を創出する機会を得ています。2022年米国インフレ削減法には、再生可能エネルギーの奨励、電気自動車技術の導入促進、建物やコミュニティのエネルギー効率の改善など、気候・エネルギー関連の規定に3,690億米ドルという前代未聞の資金が盛り込まれています」。2月、欧州委員会は、欧州のネットゼロ産業に対するインセンティブを含む気候中立への迅速な移行を支援するパッケージである「グリーンディール産業計画」を公表しました。また、カナダは、クリーンテクノロジーやクリーン水素製造に対する投資税額控除を提案しています。
企業は、サステナビリティに取り組むことで、長期的価値を創出する機会を得ています
しかし、第2の柱のグローバルミニマム課税制度の施行により、税制優遇措置の効果や、それらを提供する政府の決定が大幅に変更される可能性があります。ヘッドライン税率が低い国・地域では、優遇措置によって企業の第2の柱の実効税率が15%を下回る可能性があるため、優遇措置の恩恵が打ち消される可能性のあるトップアップ税が企業に課せられる可能性があります。このため、各国政府が第2の柱に照らして、優遇措置に対するこれまでのアプローチを見直すことにつながるかもしれません。EUも、グリーンディール産業計画を策定する際に、この潜在的な複雑性に対処する必要があります。
台頭するエネルギー税と環境税
また、各国政府は、新しい税金を通じて、より持続可能な行動を促しています。例えばEUは、2023年10月1日からEU炭素国境調整メカニズム(CBAM)を実施する暫定合意に達しました。CBAMは、排出集約型製造の第三国への移転による炭素リーケージを防止するために設計されたメカニズムであり、基本的に輸入品に適用される課税です。また、英国も独自の炭素国境調整に関する協議を開始する予定です。
超過利潤課税は、従来のエネルギーセクターに影響を与えるもうひとつの選択肢です。エネルギーに係る利益に課される税金であり、多くの政府によって議論され施行されています。EUは、2022年と2023年にエネルギー企業の余剰利益に対して EU 加盟国が少なくとも33%の税率で課税する、エネルギー企業の利益に対する事実上の超過利潤課税である一時的な「連帯税(solidarity contribution)」を採択しました。インド、マレーシア、英国もエネルギーセクターに超過利潤税を課しており、他の国・地域も同様の措置を検討しています。
コロンビア、イタリア、スペインでは、2023年1月1日から適用されるプラスチック製包装税が可決されました。ニュージーランドも気候変動対策としてさまざまな新しい準税を導入し、2025年1月1日から特定のセクターに適用されます。
しかし、日本やキプロスなどの一部の国・地域では、すでに不安定な経済への影響を懸念し、環境税の拡大実施の計画を延期しています。
第4章
歳入施策の拡大
各国政府は課税ベースの拡大や新しい税金を通じて歳入増を確保
経済に悪影響を及ぼすことなく歳入を増やすには、政府による慎重なバランス調整が必要です。法人税率は、一部の国・地域を除き、全体的にかなり安定しています。韓国とトルコは法人税率を3%ポイント、南アフリカは1%ポイント引き下げる一方、英国は6%ポイント引き上げました。一部の国・地域では、課税ベースの拡大による歳入増を模索しています。本調査の回答者の約15%が自国・地域における法人税の課税ベースの拡大を見込んでおり、源泉徴収税、ハイブリッド防止規則、移転価格規則の変更の可能性が最も一般的と考えています。また、一部の回答者は、自国・地域における付加価値税(VAT)ベースの拡大を見込んでいます。
また、各国・地域は、前述の環境税に加え、新しい税金を通じた全体的な課税ベースを拡大しています。カナダとコロンビアは、飛行機やヨットなどの一部のぜいたく品に課税する制度を導入しました。カナダは、銀行と保険会社に対する法人税率を1.5%ポイント引き上げました。トルコも同様に、金融セクターに対する法人税率を、標準税率より5%ポイント引き上げました。アルゼンチンでは、国際的な物価の上昇により特別利益を得た企業に対し、将来の税金と相殺できる「超過利潤所得税予納制度」を一時的に施行しました。
第5章
2023年の税務係争
永続的な圧力を背景にした新たな税務係争の課題
調査回答者は、2023年に税務執行がより厳しくなるとの見通しを示していますが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、多くの税務当局が税務調査や訴訟プログラムを遅らせたり一時的に停止したりしたことを考えれば、当然のことともいえるでしょう。2023年は、本格的に税務当局の活動が再開される最初の年となります。
Coronadoは、「税務調査件数の増加や調査の厳格化、税務当局からの情報提供要請の増加(詳細化)、税の透明性に係る制度や新しい税務ガバナンス要件の継続的な拡大など、納税者が対処しなければならない永続的な税務執行の圧力が数多く存在します」と述べています。回答者の半数以上が、2023年は国家レベルの税務当局による企業納税者に対する情報提供要請が増加することを予想しています。EY EMEIA Tax Policy and Controversy LeaderであるJean-Pierre Liebは、「こうした圧力の結果、企業がより積極的にグローバルな税務係争管理アプローチを採用する必要性は、2023年において増加はしないまでも、継続するでしょう」と述べています。
本調査の回答によると、2023年の税務係争は、前述の透明性の向上に加えて、3つの大きなテーマによってけん引される可能性が高いことが示されました。
納税者が対処しなければならない永続的な税務執行の圧力が数多く存在します
より厳しさを増す税務執行環境全般
回答者の半数以上が、2023年には自国・地域の税務執行の水準が上がり、税務調査件数が増加すると予想しています。特に、移転価格に関する執行強化は2023年も続くでしょう。回答者のほぼ半数が移転価格に関する執行強化はすでに行われており、 回答者の5分の1が行われる可能性が高いと回答しています。また、回答者のほぼ60%が、新型コロナウイルス感染症に係る支援策や景気刺激策に関するプログラム自体は終了していても、自国・地域の税務当局が当該プログラムに対する税務調査を2023年に行うと予想しています。
2023年は税務部門が第2の柱に対応するための準備期間となる
多くの国・地域で2024年にグローバルミニマム課税制度が施行される予定であるため、企業は、係争防止と税務調査への対応を念頭に置きながら、新しい報告要件に対応したシステムとプロセスを導入する必要があります。現地での新規則の実施状況の違いを監視することで、係争が発生する可能性のある領域を特定することができます。
納税者と税務当局の関係の変化
2023年、一部の国・地域が、企業の納税申告書内の計算だけでなく、その計算が行われた税務ガバナンスの枠組みもテストする新しいプログラム(一部は必須、一部は任意)を採用する可能性があります。これには、企業の全般的な租税政策、税務管理の枠組み、採用されている税務ガバナンスアプローチに対する企業の取締役会や経営幹部の関与度合いを検証することが含まれています。
企業は、税務当局がこれらの新しいプログラムを用いて、納税者のリスク評価やリスク格付けを行うことを十分に認識する必要があります。税務ガバナンスの有効性の立証に苦労するような企業は、コンプライアンスへの介入が増加し、税務部門の貴重な時間とリソースが奪われることになるでしょう。逆に、強固な税務ガバナンスを構築している企業は、コンプライアンスへの介入が減り、プログラムによっては、追加的な特定の便益を享受することが期待できます。
第6章
地域別の税制措置と動向
地域別の検証により明らかになる世界的な動向
Americas(北・中・南米)で進行中の税制改革
Americasでは、回答者の半数近くが、2023年に自国・地域で包括的な、あるいは大規模な税制改革が行われると予想しています。ブラジルでは、OECD加盟に関する進行中の議論を成功させることにコミットしているため、OECDの主要ガイドラインに沿った取り組みが行われていることが主な要因となっています。2022年、ブラジルは独立企業間原則(arm’s-length principle)を採用し、おおむねOECDが定めた基準に従った新たな移転価格規則を導入しましたが、その施行が今後の焦点となりそうです。2023年には、法人税率引き下げの可能性も含め、ブラジルのさらなる対策と改革が期待されています。また、税務規定を含む可能性のある気候・環境政策への再注目も期待されています。
チリは、法人税率の引き下げと広範な法人税の改正、個人所得税と富裕税の引き上げを含む包括的な税制改革について協議しています。また、調査回答者は、2023年にはコスタリカとエクアドルで包括的な改革が行われ、ドミニカ共和国でも大規模な改革が行われると予想しています。なお、コロンビアは2022年に最低税率15%を含む包括的な改革を行いましたが、必ずしも第2の柱に沿ったものではありませんでした。
Americasの納税者に対する税務執行環境は、多様で複雑なものになるでしょう。この地域では、回答者の4分の3以上が、2023年に自国・地域における税務執行の水準が上がると予想しています。回答者は、ラテンアメリカの税務当局が特に関心を寄せている領域として、租税条約上の便益、潜在的な租税条約の誤用、および居住性・恒久的施設に関するルールを挙げています。
Asia-Pacific(アジア太平洋地域)では、適用、執行および税務ガバナンスが最重要視されている
Andrewは、「韓国は、2022年12月に第2の柱に沿った新しいグローバルミニマム課税制度を制定したことで世界の注目を集めましたが、この地域で急速に導入を進めているのは韓国だけではありません」と述べています。日本ではGloBEルールを導入するための法案が公表され、3月中には成立する予定です。オーストラリア、マレーシア、ニュージーランドでも、第2の柱に関する公開協議が行われました。2月に公表されたシンガポールの予算書には、2025年に第2の柱に関するルールを導入する計画や、GloBEパラメーター内でインセンティブ制度を適応する計画が含まれています。EY Asia-Pacific Tax LeaderであるEng Ping Yeoは、次のように述べています。「Asia Pacificは、常にインセンティブ政策の先駆者と見なされてきました。地域内の各国政府は、第2の柱の結果としてインセンティブ措置の再定義に注力しており、納税者は、既存のインセンティブに関する潜在的なリスクだけでなく、新たに生じる機会についても検討する必要があります」。
納税者は、インセンティブ遵守に関する潜在的なリスクだけでなく、新たに生じる機会についても検討する必要があります
Asia-Pacificの回答者の3分の2が、2023年に自国・地域で税務執行の水準が上がり、税務調査が増加すると予測しています。2023年には、インドネシア、フィリピン、シンガポールにおいて、新たな措置を伴う犯罪税法の新規制定や拡充に関連する活動も予想されています。
EY Asia-Pacific Tax Controversy LeaderであるMartin Capliceは、次のように述べています。「税務における優れたガバナンスを推進する現在の取り組みは、Asia-Pacificの多くの税務当局に受け入れられています。実際、オーストラリアのトップ1,000社に対するCombined Assurance Reviewプログラムは先進的な取り組みとして評価されており、この地域の他国の税務当局のプログラムの参考にもなる可能性があります」。ニュージーランドはオーストラリアよりもやや簡便的なアプローチを採用しており、オーストラリアで事業を展開している大企業50社に対して、10項目のアンケートへの回答を毎年求めています。中国と日本で進行中の税務ガバナンス制度に加えて、シンガポールやマレーシアなどの他の国・地域でも、自主的なプログラムの導入が進んでいます。
EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)での連携強化
EY Global International Tax and Transaction Services Policy LeaderであるMarlies de Ruiterは、次のように述べています。「EU加盟国は、2023年には、第2の柱に関する指令のフォローアップ作業、CBAMやいくつかの透明性に関する取り組みの正式採択など、充実した税務アジェンダを備えることになります。またEUは、2023年にEUの競争力を高める方法を含む追加の取り組みを行うという、非常に野心的な計画を立てています」。EUグリーンディール、新たな所得課税の枠組みであるBEFIT(Business in Europe: Framework for Income Taxation)に関する取り組み、税務目的でのシェル事業体の悪用を防ぐための指令案(UNSHELLまたはATAD III)、源泉徴収税手続きなどに関して、さらに多くの作業が行われると予想されています。EY EU Tax Policy Hub LeaderであるMaikel Eversは、「重複する活動が非常に多いため、企業はいくつかの条項だけでなく、状況全体を監視する必要があります」と述べています。
中東・北アフリカ地域でも、湾岸協力理事会(GCC)加盟国の一部で付加価値税(VAT)が導入されるなど、実質的な租税政策の開発が行われています。アラブ首長国連邦は、独立企業間基準を含む OECD原則にほぼ準拠した移転価格規則を含む法人税を導入しました。またバーレーンは、石油・ガスセクター以外にも広く適用される法人税制度の導入の可能性について協議しています。
EMEIAでは、回答者のほぼ半数が、2023年に自国・地域における税務執行の水準が上がると予想しており、執行活動の減少を予想している回答者はいませんでした。移転価格は依然として税務当局による精査の主要課題となっており、特に、知的財産のオンショア取引、高価値サービス、リスクの処理、販売業者の営業利益率、金融取引に焦点が当てられています。この地域の税務当局が要請する移転価格文書の水準は拡張されており、EMEIAの回答者のほぼ半数が、税務当局はすでに納税者に以前よりも多い詳細な情報提供を要請していると回答しています。
また、地域全体にわたる新しく進化した犯罪税法もあります。これには、フランス税務当局のような新しい歳入権限プロセスが含まれており、納税者が高額の税金の罰則に直面している場合、自動的に犯罪捜査も行われる場合があります。英国は企業刑事犯罪制度を積極的に活用しており、ドイツは新しい犯罪税法を検討しています。
第7章
今後の見通し
今、企業には自社のストーリーを語る準備と心構えが求められている
各国・地域が独自の税制を優先しながら抜本的な多国間税制改革を実施しているため、企業は事業を展開するすべての国・地域での活動を監視し、対応する必要があります。Angusは、「変化への適応には時間がかかり、各国・地域が新しい規則をどのように導入するかについての詳細が明らかになるにつれ、モデル化が重要になります。企業は発効日が来るまで待つのではなく、必要な準備と変更を早急に行いたいと考えるでしょう」と述べています。
近い将来必要とされる無数の報告書、フォームおよび開示など、企業にとって信頼性が高く、一貫性があり、比較可能な情報を作成する必要性が高まっています。Rickerは、「透明性への注目の高まりは変革をもたらしますが、数字だけでは企業の全体像は見えてきません。企業は、利害関係者が実際の数字の意味を理解できるように、これらの数字の裏にある背景を説明する準備を整える必要があります。自社の税務ストーリーを積極的に伝えることが非常に重要です」と結論付けています。
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サマリー
広範に及ぶ世界的な税制改革は2023年に最終形になりつつあり、企業は今すぐ積極的に準備する必要があります。そして、より多くのデータが要求・共有・開示される中、企業は自社の税務上のストーリーを語る準備を整える必要があります。