2024年4月1日
税務部門で生成AIを利活用するために必要なことは?

税務部門で生成AIを利活用するために必要なことは?

執筆者 EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

2024年4月1日

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2022年にサービスの提供が始まったChatGPTを始め、生成AIの性能向上が続いています。

特に専門的な職能が必要とされる経理・税務分野についても、英語ベースの性能検査で、各種資格試験の合格水準を超え始めています。今後、日本語を含む多言語ベースでも性能は向上していくでしょう。今回は、現時点までの生成AI、特にChatGPTの動向とビジネス用途での可能性や留意点、課題について探っていきます。

要点
  • 生成AIが英語ベースの会計・税務試験に合格し始めている。学習データ範囲の限界や誤った事実生成など課題はあるものの、それらを制御する技術も生まれ始めている。日本語ベースでも税務業務の対応も今後可能になっていくだろう
  • 生成AIはアイデアの検討や情報整理など日常業務でも活用可能に。今後追加開発によって外部知識を活用することが実現していけば、税務業務における実用化も拡大する
  • 税務部門での利活用については、社内関連部署との連携・計画策定が重要。法務リスクを回避するためにも政府のガイドラインを参照し、自社ルールを策定する必要がある

税務部門でもGPTを軸に生成AIの利用は拡大していく

ChatGPT(以下、GPT)は、2023年6月に公表されたGPT-4を用いた検証で、米国公認会計士(USCPA)4科目について平均正答率が84.3%となったほか、米国公認管理会計士(CMA)、公認内部監査人(CIA)、米国税理士(EA)の各試験でも平均正答率80%超を記録し、いずれも合格水準に達しました。これは必ずしも会計・税務実務で発生する業務への利用可能性を示すわけではありませんが、タスクを特定し一部分を担わせるといったことが、知識問題についてはすでに現実化しています。これは日本語ベースでも将来的に、それ以上の性能に達し得ることを示しています。

一方、ビジネス用途で利用する場合、開発時点までの知識に限定された学習データ範囲の限界、実在しない出来事や誤った情報を生成し回答する幻覚(ハルシネーション)問題、不適切な回答の拒否、回答形式を事前に指定することが必要であるといった留意点が挙げられます。ただ、こうした課題はいずれ制御技術によって解消され、日本語ベースの税務業務をはじめ、GPT活用を軸に生成AIの利用は今後広がっていく状況にあります。

多岐にわたるアイデア出しや問題点の検討にも利用可能

生成AIについては、API(ソフトウェアの一部機能を共有する仕組み)などを活用しなくても、そのままで高い能力を発揮することを実感している人は多いでしょう。当然ながら、税務部門の日常業務でも活用は可能です。例えば、GPTは、特定のテーマや問題点に関して「どのようなアプローチが考えられるのか?」といった多岐にわたるアイデア出しや提案をしてくれるので、それらを参考に具体的なアプローチを検討できます。

また、生成AIは与えられた情報やテーマに基づいて関連する情報を提供する能力もあります。このほか、会議でのアジェンダのリストアップや論点整理、議事録のほか、文章の要約、重要な情報の抽出など資料の整理と要約でも効果的に活用することができます。これを応用すれば、今後税務判断についても限定的な範囲で行うことも可能になるでしょう。

生成AIの開発手法はどんどん進化している

では、税務業務に特化したGPT開発にはどのような手法があるのでしょうか。まず公的文書など外部知識を参照するときに利用できるファインチューニング(追加学習)という手法があり、これによってGPTが事前学習していないデータでも応答が可能になります。

特定のビジネス目的でGPTを開発する場合は、その出力形式を制御する必要がありますが、これを解決するためにプロンプトエンジニアリングを利用することが考えられます。これはプロンプトの入力時に入力・出力の例を記述することで、GPTに望ましい出力(形式)を生成させることが可能となります。

ファインチューニングとは別に、データベースから外部知識を文章検索して関連データを抽出する文章生成(RAG)という手法があります。これはファインチューニングと比べ、精度が高く、類似度検索という技術を用いることで、より効率的に外部知識を参照できる点が特徴となっています。

また、社内向けにチャットボットを活用している企業は多いですが、税務領域でも事業部や子会社が担っていた税務相談業務を本社税務部門に集約し、税務相談にチャットボットを利用しているケースもあります。

さらに、印紙税法上の課税文書に該当するかどうかを判断するには、文書内容の読解が必要となります。これまでは経理・税務担当者が判定し、実質判断の暗黙知も蓄積されてきましたが、課税当局による不備の指摘も多い領域でした。しかし、これもGPTを活用することで、作業の効率化に加え、判定作業の標準化、可視化が可能となります。

AIに対する基本的な考え方や仕組みを整備する必要がある

こうした生成AIを効果的に税務業務で取り入れるためには、単に技術を導入するだけではなく、戦略的な検討が必要です。

まずはワークショップを開催することで、税務業務の課題や問題点を明確にし、AIで解決できる点や期待効果をリストアップすることが必要です。

次に生成AIの社会共通利用に関して、税務部門が能動的に予算確保する必要はありませんが、税務部門独自の活用を考える場合は、その予算の項目、プロセス、確保するためのアイデアが重要になってきます。税務部門では新規の予算確保が難しい場合が少なくありませんが、現在ではDXに取り組む企業も多く、税務での活用もハードルが低くなっておりますので、社内関連部署と連携・計画策定しながら進めていきましょう。

また、税務で生成AIを活用するには、データの準備・整理が成功へのカギとなります。税務回答事例、税務申告関連、外部データなど種類別に整理するほか、アクセス制御および法務面での検討を含むリスク対応も重要になります。

特に主要な法的リスクとしては、著作物の利用、個人情報の取り扱い、秘密情報の取り扱い、誤った情報の利用に関する法的リスクが考えられます。政府も「新AI事業者ガイドライン(案)」を公表しており、新ガイドライン策定後は、それに沿った生成AIの利用が求められていくでしょう。

今後、企業はAIに対する基本的な考え方や仕組みを整備する必要があります。生成AIルールを策定するステップとしては、例えば、ルール適用対象となる組織・サービスの特定、当該サービスの評価、関連する法令・ガイドラインや社内規定の整理、生成AIルールの作成といったステップが考えられます。その際も、税務業務を対象とする生成AIルールを検討し、税務部門のメンバーが特に留意すべき点に焦点を当てた社内教育を実施していくことが重要になっていくでしょう。

 

※旬刊『経理情報』2023年11月20日号に掲載された記事をリライト

サマリー

税務部門でAIを適正に利用するためには、管理体制やルールを構築することが不可欠です。AIの信頼性や正確性などを担保するためにも、AIを開発・利用・運用するときの活動をコントロールする基本的な考え方や仕組みを整備することが必要になります。現状、法令に規定はなく、どのような社内ルールを策定するかは、各社の判断に委ねられているため、政府のガイドラインなどを参照しながら、社内教育を行っていく必要があります。

この記事について

執筆者 EY 税理士法人

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