第1章
未来の税務係争部門の構築
グローバルなフレームワークを利用することで、より効果的なリスクへの対処と軽減が可能になります。
税制改正は異例の速さと規模で実施されており、企業のリーダーにとって、さまざまなトレンドが収束する地点を見据えて税務部門と事業の体制を十分に整える機会はわずかしかありません。しかし、調査の回答からは、待ち受ける困難な課題にどのように先手を打つかについて、確信が持てないとの心境が読み取れます。今から3年後に起こる係争は現在とは全く異なるものとなるため、予想することは困難です。EY Global Tax Controversy LeaderでありTransfer Pricing LeaderであるLuis Coronadoは、「税務リスクと係争管理戦略を一新し、新たな戦略を導入することが極めて重要です。そうすることで、今日導入した特定のストラクチャーや実行した取引に関する膨大かつ詳細なエビデンスを数年後に税務当局から要求されたときでも、すぐに回答を提出できるよう準備を整えることができます」と語っています。
税務リスクと係争戦略を一新し、新たな戦略を導入することが極めて重要です
それでは、税務責任者はどうすれば、係争に発展する前にリスクを突き止める能力を高められるでしょうか。それは優れた税務テクノロジーに投資することです。そうすることで、企業は税務係争リスクに対して積極的に計画を立て、対応することができます。また、税務統制の構築または改善と、利用可能な係争防止および解決策プログラムを全面的に活用することも挙げられます。
しかし、今後真に成功する企業は、競合企業が採用しているさまざまなリーディングプラクティスを適切かつ着実に評価し、さらにはそのリーディングプラクティスを税務係争作業のあらゆる段階において速やかに、グローバルな視野から断固たる決意で実行していく企業となるでしょう。すなわち、未来の税務係争部門の構築に今すぐ着手する企業となります。
強力なフレームワークの重要性
急速に変化する税務環境に対応するには、着実な計画が求められます。EY EMEIA Tax Policy and Controversy LeaderであるJean-Pierre Liebは、次のように述べています。「明確で共通の合意を得たグローバルな税務リスクおよび税務係争管理アプローチを策定するには、税務リスクの評価、管理、係争解決に関する活動全体に、できる限り多くのリーディングプラクティスを組み込む必要があるでしょう」
そうしたアプローチは、グローバルで合意された一貫したプロセスの上に成り立っている必要があります。また、堅固な税務テクノロジーによって、現在起こっている係争を追跡し、対処するだけでなく、将来的な税務調査または訴訟がどこで、そしてどの論点において発生するかを予測することが重要です。そして、回答した企業の74%(日本企業:80%)は、税務行政プロセスのデジタル化が彼らの部署の全体的な税務リスクを高めていると述べていることから、企業とその税務責任者は、この動きから取り残されないよう精力的に取り組み、健全な投資を行う必要があります。
明確で共通の合意を得たグローバルな税務リスクおよび税務係争管理アプローチを策定するには、税務リスクの評価、管理、係争解決に関する活動全体にできる限り多くのリーディングプラクティスを組み込む必要があるでしょう
将来的な税務リスクおよび税務係争管理戦略への移行には、企業、特にそうしたアプローチを導入してこなかった企業による、計画的な投資と意欲的な対応が求められます。アプローチの構築を1日で成し遂げる必要はなく、リーディングプラクティスは個別にまたは段階ごとに実施することも可能です。しかし、組織が危機的な影響を理解していない、あるいは全く行動を起こさない場合には、深刻な悪影響が生じる可能性があります。
世界的なフレームワークを構築し、文書化することにより、税務リスクと係争管理アプローチの導入と維持において一貫性を確保する際に役立ちます。また、企業の外部アドバイザー(本調査では税務アドバイザー、法律事務所、その他第三者のサービスプロバイダーと定義している)から金銭面および結果面でのさらなる価値を引き出す手助けとなります。
多くの場合、例えば税務管理体制(Tax Control Framework 、以下「TCF」)のように、より広範囲かつ潜在的に補完するフレームワークはすでに導入されています。そうしたフレームワークは、回答した企業の50%が維持しており、税務リスクと税務係争管理の変革に着手する上で強固な地盤となりますが、TCFの導入と維持には困難が伴います。例えば、TCFを導入した企業の27%(日本企業:33%)は望んでいた結果を得られず、56%(日本企業:83%)はTCFの維持にリソースがかかりすぎると述べています。
TCFの利用を定着させていると回答した企業は、確実なメリットがあると述べています。75%(日本企業:78%)があらゆる税務係争をグローバルレベルで十分にあるいは完全に把握しており、その比率はTCFを利用しない企業よりも10ポイント高くなっています。また、TCFの利用を定着させている企業では、税務申告書の提出前に税務リスクの軽減を目的とするプロセスを積極的に実施する(提出前のデータ解析など)比率が、TCFを利用しない企業の約2倍となっています。さらに、TCFを活用している企業はまた、自社の経営幹部のリスク(例えば、BEPS 2.0とその影響など)に対する認識度は一般よりも2倍以上高いと回答しています。税務部門への投資が常に必要とされていることを考えると、TCFの利用を定着させることは有用と思われます。
現在の戦略(TCFを軸とする戦略を含む)を拡大して、税務リスクと税務係争管理におけるより多くのリーディングプラクティスを含めることで、税務責任者が未来の税務係争部門へ移行する手助けが得られ、実現の可能性も高まります。最も積極的で先を見据えたアプローチを採用する税務責任者は、変化する必要性を理解し、そのための方法を見いだすでしょう。
未来の税務係争部門の構築をすでに進めている企業は、以下の3つの重要な解決策に重点を置く必要があります。
- 税務リスク評価
- 税務リスクの管理
- 税務調査、係争、訴訟管理
第2章
税務リスクの評価
企業が直面する主要な税務リスクの内容と場所を識別するには。
効果的なグローバル税務リスクと係争管理アプローチは、企業が直面する全ての税務リスクについて、包括的な評価を実施することから始まります。そうすることによって、税務責任者は後続の税務リスク管理の作業フェーズにおいて、解決させるべき進行中の税務係争を優先的に取り扱い、それらの優先順位を決定することができます。
可能な限り税務係争が発生する前に阻止することが、税務リスク評価の主たる目的です。これは監視、コンプライアンス、係争防止の取り組みを強化するトップダウン型のガバナンス、システム、プロセスを通じて達成されます。必然的に、継続し進化していくプロセスになるため、状態を単発的に把握するだけでは、状況が変化した場合、役に立ちません。しかも状況が変化する頻度は高く、スピードも急速です。
回答からは、税務リスクの継続的な評価方法についての意見とともに、現時点で企業が直面している税務リスクが明らかになりました。回答は大きく3つのカテゴリーに分かれました。
- これまでの調査でも指摘されてきた継続的な懸念(今回の調査でも移転価格が税務リスクのトップに挙げられている)
- 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが税務に及ぼす影響から生じる課題
- OECDの税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトにおける課題
移転価格は、これまでのEY税務リスクと税務係争に関する調査の全てにおいて、税務リスクの最大の要因として特定されており、今回も同じ結果となりました。EY Global TP Market and Innovation LeaderのRonald van den Brekelは次のように述べています。「世界的な貿易紛争から生じたサプライチェーンの大混乱と、BEPSに基づくOECD移転価格ガイドラインの改訂によって生じた世界的な法的枠組みの広範囲に及ぶ変革を踏まえれば、これは驚くことではありません。こうした変化に加えて、税務責任者は、新型コロナウイルス感染症によって生じた利益の変動および独立当事者のベンチマークの変化に対する移転価格の面で、将来起こり得る税務調査に対応する必要があります」
新型コロナウイルス感染症はどのように新たな税務リスクを生み出すのか
新型コロナウイルス感染症の発生以降、税務当局は経済支援と景気刺激において重要な役割を担ってきました。支援は、雇用支援プログラムや現金給付および融資を通じてだけでなく、行政上の救済措置の提供という形でも行われました。この中には、税務申告期限の繰り延べ、特定の納税延期、そして重要な点として、税務リスク管理の分野においては、税務調査および訴訟活動の保留も含まれています。しかし、ほとんどの税務当局において、2021年末までに本格的な取り締まりの計画があると予想されます。回答した企業は新型コロナウイルス感染症がもたらす複数の税務課題に対して懸念を報告しており、税務調査におけるこうした課題の精査はすでに複数の国で始まっています。
例えば、海外の駐在員や出張中の従業員を巡る税務リスクは、すでに回答企業の45%(日本企業:50%)が経験していますが、これには渡航禁止や入国管理の変更と、これにより生じる恒久的施設および従業員の税金や社会保障に係るリスクが反映されています。同時に、損失や払戻金など、新型コロナウイルス感染症で生じた税務問題によって税務調査が強化されたことについては、39%(日本企業:40%)の企業が経験済みで、アジア太平洋地域では48%、中南米では52%に上っています。こうした問題の全てが、2021年およびそれ以降の新たな税務調査活動を左右するとみられています。
国境を越えた税務の変化
BEPS(2015年の行動計画と、デジタル経済の税務課題に関するOECDの進行中のプロジェクトの両方を含む)も、税務リスクとして大きく取り上げられています。回答した企業の31%(日本企業:30%)が、今後3年以内にBEPS 2.0から税務リスクが高まると予想しています。
EY Global Tax Policy LeaderであるBarbara Angusは次のように述べています。「予想よりも低い結果となっています。もしかすると、回答した企業の多くは、調査の質問票が対象とする3年以内での施策の導入を想定していない可能性があります。または、回答した企業はおそらく、提案されている施策によって、プロジェクト名の「デジタル」をはるかに超えた幅広い影響がもたらされることに注目していなかったのかもしれません。あるいは、税務責任者が若干の「BEPS疲れ」を感じていることも十分に考えられます」
特に、回答で4分の3を超える企業が、国家レベルの法改正が税務リスクの影響度を高めていると考えているものの、新しい租税政策の進展を国際的なスケールで積極的にトラッキングしていると述べているのは、わずか47%(日本企業:56%)にすぎません。
EY Global International Tax and Transaction Services Policy LeaderであるMarlies de Ruiterは次のように述べています。「ここには一貫性がみられません。そして、国際的な税務政策の発展が、国家レベルの法改正、そして将来的な係争を現在および今後においても主導していくことを考慮すると、驚きの結果となりました。これから発生するリスクを把握するためには、包括的なアプローチが不可欠です。企業がとるべき最初のステップは、主要市場における税務の変化が積極的に監視されていることを確認するプロセスを設定することでしょう」
また、回答した企業の44%(日本企業:35%)が、今後3年間に単独国ベース(ユニラテラル)の租税手段の水準が高まると予想しています。回答で指摘されたトピックとしては、源泉徴収税、OECDの指針と異なる移転価格の解釈の進展、そしてこれまでEYの調査に含まれていなかった租税手段であるデジタルサービス税(DST)などが挙げられます。DST自体、すでにいくつかの国で新たな税務調査の対象になり始めています。
地理的に見ると、回答の中で、企業にとって向こう3年の税務リスクが最も高いとみなされているのは欧州ですが、南北アメリカとアジア太平洋地域が僅差で後に続いています。同様に、本調査結果によると、欧州は最も多くの企業が税務係争結果を改善するために、この3年間に特に他の地域とは区別した投資計画を立てている地域となっています。
社内の税務リスク
全ての税務リスクが社外からもたらされるわけではありません。社内コミュニケーション改善は、税務責任者にとって、自らの部門が最新のビジネス戦略、新規投資、そして企業が支払う税金に影響を与える意思決定を確実に把握できるようにする効果的な方法となります。そうしたコミュニケーションでは、他の事業ユニット、営業部門、業務支援部門とは「横」の、そして経営幹部、取締役会、監査委員会とは「縦」の関係になります。調査では、企業の大半が自社の経営幹部の税務リスクに対する管理と関心がここ3年で高まっていると回答しており、良い結果が得られています。
時間はかかる(そして税務アドバイザー支援の対象候補にもなる)可能性がありますが、特定の取引、ストラクチャー、ポジションをチェックする模擬税務調査プログラムの作成は、税務責任者が管理体制や防御についてストレステストを行うために取り得る最善の方法のひとつです。それでも、現在では回答した企業の28%(日本企業:36%)が実施しているのみで、データ解析を活用して自社の税務申告を日常的にテストしている企業もわずか37%(日本企業:41%)にすぎません。データ解析、機械学習、人工知能における新しいスキル(いずれも、税務管理方法の変革を促す一部)を持った専門家を雇用する税務責任者が増えるにつれ、その数値は上昇すると考えられます。しかし、現時点でも、早期に問題解決にあたるためにできることは数多くあります。
税務リスク評価
28%(日本企業:36%)の企業が模擬税務調査を実施している。
リスク評価における税務テクノロジーの重要性を過小評価することはできません。今日の最新のツールからは、税務担当者や財務担当者がどこからでもグローバルにアクセスし、税務当局との接点(問い合わせやデータ提出要請から税務調査、相互協議手続(MAP)の進捗、訴訟の最新情報に至る全て)を記録できるプラットフォームが得られます。また、あらゆる種類の接触を追跡することができる包括的なシステムを活用すれば、解決すべき係争を優先的に取り扱うのに役立ち、税務当局に効率的かつ効果的に対応できるようになります。
第3章
税務リスクの管理
一貫性のある効果的な管理で税務リスクと税務係争を軽減するには。
効果的な税務リスク管理は、未来の税務係争部門を設立するための第2段階です。税務リスク管理は、税務係争の影響の優先順位付けと軽減を行うフレームワークのアプローチを確立し、複数の課税年度や地域に波及しかねない影響を報告します。この分野においては、一貫性と柔軟性を持ち、グローバルに実行され、経営幹部からの支持と参加者全員からの合意を得たアプローチが優良なものとなるでしょう。
税務リスク管理においては、外部のアドバイザーや税務当局と関わる機会が多いため、緊密なコミュニケーションと確固たる関係性を持つことは非常に重要です。ここでもテクノロジーは不可欠の役割を担っており、税務上のポジションを蓄積し分析するための基盤となっています。
文書化の重要性
この分野のリーディングプラクティスは、ますますフォレンジックかつ多面的(2カ国以上の納税者のデータを利用)になっている税務調査や、グループ全体の税務調査に対応したさまざまなツールを使用することが役に立つことを示唆しています。そして、こうした税務調査アプローチを受けて、ますます多くの企業が積極的に、包括的な税務文書ファイルをとりまとめ、維持するようになっています。ファイルの内容は税務当局にすぐ対応できる、実体と事業活動に基づいたものとなっており、主要な取引やストラクチャー、税務ポジションを裏付けています。
こうしたファイルは、回答した企業の53%(日本企業:41%)が維持していると答えており、一般には背景文書や意見、機能分析インタビューのメモ、ミーティングや電話の議事録、Eメールなど、税務調査官が今後ますます要求する可能性のある全ての情報が含まれています。
税務当局から新たな問い合わせやデータの提出を求められた場合、税務部門の対応としては、その内容を明確かつ迅速に分類し、生じ得るリスクのレベルを評価し、事前に合意を得た手続きを適用して税務当局からのさまざまな問い合わせに対処するプロセスを備えていることが極めて重要です。回答した企業の47%(日本企業:56%)が現在、そのようなアプローチをとっており、ここでも、テクノロジーによりプロセスが効率化されています。
自社の分析
37%(日本企業:41%)の企業が、想定する税務当局のデータ分析に基づいた独自の分析を実施している。
テクノロジーを活用することで、税務責任者は日常的な問い合わせに対する回答を標準化することもできます。この回答はテクノロジープラットフォームに保存され、問い合わせを受領した後すぐに利用することができます。
係争防止ツール
納税者と税務当局との関係は敵対的である必要はなく、信頼感、透明性、コミュニケーションに基づいた関係を築くことが可能です。しかし、200を超える回答企業が、一部の税務当局による多国籍企業(MNC)に対する否定的な態度が、係争への効果的な対応の大きな障害になっていると訴えています。
そのような態度は別として、税務当局の多くは、税務申告書または他の書類(移転価格報告書など)が提出される前に税務係争の発生を軽減できるプログラムを設けています。そうしたプログラムの中には、税務ルーリング(回答では、最も効果的な係争防止ツールとされている)、事前確認制度(APA)、権限ある当局間との交渉が含まれます。
通常、協調的なコンプライアンスプログラムはリアルタイムで発生します。最近の動きとしては、OECDの新たな国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)が、多国間税務当局グループによる企業の国別報告書のレビューに重点を置いていることが挙げられます。これは、ある企業が低リスクと見なされた場合、その企業の重要な事実が2年間変わらないことを前提として、一定の期間(通常は2年)は税務調査が軽減されるというものです。
このようなプログラムに積極的に参加した場合、想定外の係争の減少、罰金や利息および課徴金の軽減など、多くの恩恵を受けることができます。さらに、良い結果が得られた場合には、税金費用減少の可能性もあります。
税務責任者の視点では、こうした方法を使用すれば税務担当者の負担は軽減し、主要業務に専念することが可能になるとともに、主な税務当局と良好で透明性の高い関係を築くことができるため、好循環がもたらされます。しかし、これらの手法は全ての企業に向いているとは限らないため、良い点と悪い点、および成果を上げるために必要となる全体的な時間とリソースの投入について、アドバイスを求めることが必要です。
APAの施策
35%(日本企業:33%)の企業が事前確認を受けるための積極的な戦略を整備している。
調査結果は上で述べたプログラムの利用について相対的に低い数字を示しており、明確に定義された積極的かつ協調的なコンプライアンス戦略を実施している企業は回答でわずか40%(日本企業:33%)です。APAを受ける目的でリソースを十分に投入し、積極的な戦略を実施していると回答している企業は35%(日本企業:33%)と、さらに少ない結果となっています。今後3年間においては、同様のランキングが予想されるものの、回答企業にとって2国間、多国間のAPAは意欲的な目標となっており、税務における多国間主義に向けた動きが反映されています。企業が国際的な課税ルールに対する新たな変革によって生じ得る税務リスクをうまく管理したいと考えるなら、これらのパーセンテージを上げていく必要があるでしょう。
第4章
税務調査、係争、訴訟の管理
適切なツールを活用した総合的なアプローチをとることで、効果的な係争解決を実現することができます。
税務調査管理は、迅速で効果的な係争解決に重点を置いており、その取り扱い範囲は、税務調査、評価管理、不服申し立て、調停、仲裁、MAPなどの諸プロセス、そして多くの企業にとって最後の選択肢である訴訟に及んでいます。
効果的な税務係争管理には、税務調査、係争または訴訟事案における多くのプロセスを一貫した方法で確実に処置することが含まれています。そのため、企業の利益を最もコスト効率とリソース効率の高い方法で守るのに役立ちます。結果として、担当部署はその他の付加価値の高い業務に専念することができるようになります。
こうしたアプローチはさまざまなタイプの係争に対して有効です。また、調査準備、情報提供、ポジション形成、係争交渉、係争解決、係争後に完了すべき作業などのトピックをカバーする、幅広い個別の工程段階を含むことがあります。この課題におけるリーディングプラクティスには、各工程について誰が実行責任を負い、誰が説明責任を負うのか、また、誰に助言を求め、誰に知らせるのかという役割の割り当ても含まれます。そして、税務係争はそれぞれ内容が異なりますが、回答した企業の57%(日本企業:54%)は総じて一貫した工程段階を採用しています。
新たな係争に対応するにあたっては、まず、企業が全体的にどのようなアプローチをとりたいと考えているかを明確にする必要があります。
税務テクノロジーもまた税務調査管理において重要な役割を担っています。適切なツールを使用すれば、税務部門が税務調査または訴訟管理プロセスの個別プロセスを中央プラットフォームに記録し、それにより部門責任者が状況と財務リスクの総額をグローバルに把握することができるようになります。同様に、リーディングプラクティスからは、あらゆる和解データを保管しておくことで、同じ主題で将来起こり得る係争の潜在的コストについて目安がつけやすくなるとも考えられます。
係争解決ツール
係争解決ツールとプログラムは急成長している分野であり、税務係争管理において重要な役割を担っています。
EY Global Tax Desk NetworkのTransfer Pricing Controversy LeaderであるJoel Cooperは次のように述べています。「税務訴訟にかかる時間と、まだ解決に至っていない二重課税問題が重要な投資に与える影響を踏まえ、OECDと各国はMAPを改善するために引き続き多大な時間と労力を投入しています。MAPの課題は、特に複雑で統合されたバリューチェーンが存在する分野で残っていますが、グローバルな税務コミュニティーの間ではMAPが徐々に改善していくだろうとの確かな期待感があります」。とはいえ、MAPをできる限り積極的に活用していると回答した企業は35%(日本企業:31%)にすぎず、グローバルな大企業でも39%となっています。
係争の効果的解決には常に障壁があり、そうした阻害要因は社外からもたらされる場合が多いという回答も寄せられています。主な障害としては、国境を越えた税法の全般的な複雑さ(グローバル:24%、日本企業:8%)、MNCに対する一部税務当局の否定的な態度(グローバル:19%、日本企業:18%)、一部の国・地域の譲歩への消極的姿勢(グローバル:16%、日本企業:13%)が挙げられます。社内における障壁に言及した企業はごく少数であり、納税者と税務当局の間でさらなる信頼関係を構築するため、継続的に取り組んでいく必要があることを如実に示しています。
法的リスクの評価
40%(日本企業:26%)の企業が、税務係争を訴訟に持ち込むべき時期について、明確なプロトコルがあると回答している。
例外はありますが、一般的に訴訟の開始は税務調査管理プロセスの最終ステップとなります。訴訟は特定の国・地域では必要不可欠と考えられており、訴訟する能力は税務リスクと税務係争管理戦略の範囲内で常に考慮に入れる必要があります。実際のところ、回答した企業の40%(日本企業:26%)は、各係争における訴訟に重点を置いた戦略の実施時期について、明確なプロトコルに従っています。
最後に、ある国・地域で係争を解決する際には、企業は十分に考慮し、複数年にわたる複数の国・地域への波及的影響について検討し、そうした影響を軽減するのが賢明です。それにより、新たな係争が別の場所で起こる可能性が低下しますが、回答した企業の59%(日本企業:72%)はそうした慣行には従っていません。
第5章
未来戦略の早急な構築
法人納税者は、政府と一般社会から今後も厳しい税務調査を受け続けるでしょう。企業にはアクションを起こす必要があります。
調査に回答した企業は、進行中の係争処理が本社主導で行われる比率は現地で行われる比率の2倍であると答えています(グローバル:34%対17%、日本企業:26%対15%)。本社への集中化は特に調査対象の大手企業間で拡大しており、51%(日本企業:39%)は本社レベルで最も重要な係争に対処しています。これは、地域の税務部門(経験豊富な専門家や訴訟担当者が少ない場合もある)が新たな係争の把握と報告において重要な役割を担っている一方で、特に複雑な状況あるいは大きな金銭的リスク、さらには提訴の必要性を伴う事案においては、適切なリソースの投入および管理を確実に行う必要性があるという事情を反映している可能性があります。
本社への集中化はまた、利用している外部アドバイザーの社数集約を意味しており、それにより効率性、管理、可視性を強化することができます。多くの回答企業(グローバル:47%、日本企業:50%)は全ての係争をグローバルで管理するために1~4社の専門アドバイザーを使っており、11社以上を利用している企業は14%(日本企業:13%)にとどまっています。
企業の他部署や外部ステークホルダー(権限ある当局など)とのコミュニケーションや関係を改善することもまた、変革を実施する際には効果的です。社内的には、経営幹部、ビジネス戦略、営業ユニットが関わり、重要な情報が税務コンプライアンス、税務施策、税務係争リスク評価プロセスに確実に組み込まれるよう取り組む必要があります。
回答した企業(グローバル:66%、日本企業:73%)の3分の2は、企業として税務リスクと税務係争がこの3年で重要性を増してきたと感じています。53%(日本企業:45%)の企業が今後3年以内での税務執行の強化を予想しており、この結果が正しければ数値はさらに上昇すると見込まれます。メディア・エンターテインメント(57%)、石油・ガス(59%)、電気通信、ライフサイエンス(どちらも68%)などにおいては、いずれも税務執行が強化されるとの予想がさらに高い割合となっています。
税務執行の将来像が持つ特徴のうち、いくつかはすでに明確になっています。まず、税務当局は実際に、ある企業のグローバル税務について当の納税者よりも熟知している可能性があります。次に、企業は自社の提出書類とポジションを裏付けるために、時にはデジタル・フォレンジック・レベルに至る極めて詳細な証拠を提供することが求められます。そして、3つ目の特徴として、税務は執行面でも係争解決の面でもますます多国間主義になると予想されます。
税務リスクの構成は時代とともに変化します。しかし、今後重視されるのが金融取引(グローバル企業の43%、日本企業の30%が指摘)であれ、特定の損金算入の否認、特定の国に対する支払いの否認であれ、税務リスクと係争管理に対してグローバルな戦略アプローチをとる企業は、他の企業に比べ、より強固な準備を整えることができるでしょう。
サマリー
2021年のEY税務リスクと税務係争に関する調査から、世界各地で企業が税務係争の新たな増大に備えていることが明らかになりました。できる限り税務係争を回避し、必要であれば適切な防御を実行できるようにするには、適切なガバナンスモデル、プロセス、税務テクノロジーが役立ちます。