1. 主なリスク
海運業に属する東証プライム上場企業は、移行リスクの区分において【市場リスク】として、輸送需要の変化(化石燃料の輸送の減少)や【技術リスク】として、次世代燃料の普及(既存船の陳腐化)を挙げており、その中で【政策・法規制リスク】として「カーボンプライシング(炭素税)の導入」による運航コストの増加や新技術への投資負担をいずれの会社においても開示しています。
2. 国際海運業におけるGHG排出削減戦略
(1) IMOによるGHG削減戦略採択
1.に示した共通のリスク認識の背景として、2018年4月にIMO(国際海事機関:International Maritime Organization)にて、2050年までに国際海運からのGHG(温室効果ガス:Greenhouse Gas)総排出量を50%以上削減する(対2008年比)目標が採択されました。
貨物輸送において、船舶から排出される単位当たり二酸化炭素の排出量は、航空機や自動車と比較すると少ないと試算されていますが、IMOの調査(GHG 4th study)によると、2018年時点における国際海運から排出されるCO2は9.2億トンであり、人為起源の全CO2排出量の約2.5%を占めていると報告されています。
国際的なGHG削減・地球温暖化対策に関する議論は、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の下で行われていますが、国際海運は、国境を越えて輸出国・輸入国・運航者・実質船主などの複数の関係者(関係国)がいることから、国ごとに削減に取り組むUNFCCCの削減対策はなじまないため、国連の専門機関であるIMOにて業界一律での対策が検討されています。
(2) 2050年カーボンニュートラルに向けて
日本においては、2021年10月に日本政府(国土交通大臣)が「日本として国際海運2050年カーボンニュートラル(GHG排出ネットゼロ)を目指す」旨を公表、日本船主協会も同年10月に、日本の海運業界として「2050年GHGネットゼロへ挑戦する」ことを表明しました。
2018年に産学官公の連携により「国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト」(主催:一般財団法人日本船舶技術研究協会、共催:国土交通省)がスタートし、2021年度に実施した報告書で、中長期対策として経済的手法において「課金・還付(Feebate)制度」「排出枠の固定額での有償割当制度」が提案されています。
3. IMOに対して日本が提案する経済的手法
(1) 課金・還付(Feebate)制度
化石燃料船への課金(fee)と、ゼロエミッション船への還付(rebate)を組み合わせた制度で、ゼロエミッション船に対して、化石燃料船とのコスト差(燃料価格や船価などの違い)を踏まえ、十分な経済的インセンティブが確保されるレベルの還付を行い、それに必要な収入を確保するための課金を化石燃料船に対して課すものです(<図1>参照)。