2. 非化石証書購入時の会計処理
電力を使用する需要家が非化石証書を購入する際の会計処理を解説します。需要家は他者へ非化石証書を転売することができない(JEPX お知らせ 2018年4月26日「非化石価値取引市場説明会 ご質問&回答」jepx.org/news/)ことを前提としています。また、現行の会計基準において、明示的な会計処理の定めはなく、現行の制度内容を前提としたものであり、制度内容が変われば会計処理も変わり得ますので、ご留意ください。
非化石証書については、温対法における電気の排出係数算定時において、CO2排出量を減算できる価値を有していることから、実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告第15号)の定めに従い会計処理を行うことができるか、論点となります。この点、需要家は他者へ非化石証書を転売できないため、「排出クレジットは財産的価値を有している」とする実務対応報告第15号が想定している性格とは異なるものと考えられるため、実務対応報告第15号の定め※3を直接準用して会計処理を行うことはできないものと考えられます。
次に、上記のとおり、非化石証書は温対法における電気の排出係数算定時において、CO2排出量を減算できる価値を有していることから、実務対応報告第15号の定めを直接準用できなくとも、会計上、資産性の有無を踏まえて無形固定資産やその他の資産として計上することが可能か、論点となります。
わが国の会計基準には、無形資産の会計処理を規定する単一の包括的基準は存在しておらず、一部の無形資産についての基準や企業会計原則及び財務諸表等規則などに無形資産に属する項目が資産の種類ごとに列挙されているのみです。
この点、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第29項において、「受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う」と定められていることから、当該定めを参考に無形資産の認識要否を検討することが考えられます。他者に売却することができない非化石証書の場合には、上記の「分離して譲渡可能」という要件を満たしていないと考えられることから、無形固定資産や投資その他の資産といった資産として計上することはできないものと考えられます。
最後に、非化石証書について、会計上の前払費用に該当するかが論点となります。
ここで、前払費用とは、「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう」と定義されています(企業会計原則注解【注解5】(1))。非化石証書については、何らかの役務が継続して提供されるものではないことから、前払費用として資産性を認められるものではないと考えられます。
以上より、他者へ売却することができない非化石証書の購入に要した支出は、無形固定資産や投資その他の資産、前払費用等として資産計上することはできず、購入時に一時の費用として処理することになるのではないかと考えられます。