6 分 2019年3月18日
桟橋でポールの間をジャンプする女性

規制当局がエネルギー転換を支援する6つの方法

執筆者
Serge Colle

EY Global Power & Utilities Advisory Leader

Global energy advisor. Connecting clients with EY services, assets and experience.

Paul Micallef

EY Global Digital Grid Leader

Passionate about the future of energy. Outdoors lover. Avid traveller.

6 分 2019年3月18日

規制当局の支援を受けない場合、エネルギーエコシステムの変革はどれくらい速く進むのか

この記事は新たなDSOビジネスモデル・シリーズの一部です。

エネルギー転換のペースは、テクノロジーの進化、コスト削減、再生可能エネルギーに対して高まるニーズのおかげで加速しています。

今後5年間は当分、速い動きが予測されます。配電系運用者(DSO)はエネルギー転換をもたらすために必要なスキルへの投資、取得を行うべく独自の変革を遂げつつあります。しかしそれは簡単なことではありません。

電気の需要は、私たちが 脱炭素化社会を目指すにつれて急激に増加するでしょう。交通、建物、産業の電化は、毎年約2.1%の新たな負荷を生みます。EUのエネルギー混合割合としては、洋上風力エネルギー、陸上風力エネルギー、太陽光エネルギーが大きく増加することが予想されます。テクノロジーにおける進化、保存能力の向上、充電インフラのより広範囲な展開によって、2015年には50万台だった欧州の路上にある電気自動車は2023年には1000万台、2030年までには3000万台になることでしょう。こうしたエネルギーの持つ能力や新たな負荷の多くは、配電のレベルと関連したものとなり、グリッドの強化やスマート化に対する多額の投資が求められることとなるでしょう。これまで効果を上げてきた従来型の「接続して強化する」モデルがいつまでも持続できるわけではありません。

さらに、エネルギー転換を支援し持続させるために必要な規制も、状況に追いつく必要が出てきています。規制当局には以下が求められます。

  • 変化をもたらす多くの動因が加速し同時発生することを認識する 
  • エネルギー転換を可能にし、電気がユーザーに対するベストなコストでネットワーク内に流れ続けるためにDSOが果たす役割を認知する
  • 投資、イノベーション、研究開発を誘導する
  • グリッドの維持や投資コストの適正な回収を可能にする料金を、多様な消費者グループの使用量に基づいて定義する

規制や政策がうまく合わない場合、分散型、脱炭素化型のエネルギーシステムへと向かうこの大きな変化は、社会の不安定化となってしまう恐れがあります。

変化に必要なものは何か

資本投資を推奨することは、この不確実で動的なエネルギー世界において能力を試される課題です。それは、国家の状況が許す限り、公正で安定したリターンを投資者に可能にする、支持基盤的な規制フレームワークを保証するものとなります。

DSOはネットワークを最適化して高品質のエネルギーを確実に、またユーザー向けの最低コストで配電し続けられるよう努力を重ねています。規制は、財務的な報酬を伴ってイノベーションを推奨できる、すなわち、例えばインフラや新しいテクノロジーなどへの投資などを実施できることが求められます。最終的に、そうしたフレームワークはエネルギー転換を順調に進めるよう設計される必要があるでしょう。

出典:EY

ネットワークリーダーの75%は、規制が十分に素早く動いていないと言っている1

規制のフレームワークはまた、ネットワークの使用が変化していることを理解し、より多くのエネルギーコミュニティーが参加できるようにしなくてはなりません。プロシューマーであれ、ピア・ツー・ピアのトレーダー、アグリゲーター、フレキシブルサービスのプロバイダーのいずれであっても、エネルギーの交換を生成、取引、円滑に行う上で、あるいはインセンティブの構造からもうける上での範囲決めが必要です。

フレキシブルな規制フレームワークに対する緊急のニーズ

意思決定者ではないにもかかわらず、業界全体が規制の方向性や進捗に影響を与える可能性があります。問題は、こうした変化が、これまでエネルギー業界で経験してきたどのようなものよりも大きいということです。

EUのクリーン・エネルギー・パッケージには、再生可能エネルギー、効率、性能についての壮大な約束が盛り込まれています。その他の改革、すなわち批准はされておらず、欧州電気事業者連盟(EURELECTRIC)という業界団体が精力的に進めている改革では、DSOが持っている、再生可能エネルギーを優先し顧客に権限を与えてエネルギーの流れをよりよく管理し、送電系運用会社(TSO)と連携して安定した供給を行えるようにする、という役割が認知されています。

ただ業界は、EY2018の調査に対するDSOの回答者が、明確な規制の方向性が必要であると指摘した以下の内容に対しては、もっと多くのことを行えると考えています。

  • DSOの現在および今後の役割を定義し、TSOと足並みをそろえてフレキシビリティーの利用範囲を設定すること
  • 顧客が財務的に不利にならないよう徹底すること
  • より短期間に、より前向きに注力できるようにすることで投資家に公正なリターンを返すこと
  • DSOに対し、個別の政策や経費制限ではなく目標というフレキシビリティを与えること
  • イノベーションやデジタル化に伴う経費や、電力ネットワークの全体的な「スマート化」に対する長期的なペイバックを認識すること
  • 最適なリスク配分、特にライフスパンが短い新規技術への投資に対するリスク配分を決定すること 
  • どれか一つのビジネスモデルを優先するのではなく、ユーザー全員がネットワークや政策コストに公正に貢献できるような料金設定を徹底することで、マーケット・プレーヤー全てに平等な領域を構築すること
  • 中間業者が、スマートでマーケットベースのエネルギーエコシステムへの調整に苦戦したり、積極的ではないような顧客の代わりとなって活動できるよう徹底すること

優先事項は明確になっている中、規制当局は迅速に動いてゆくか

規制と政策とが合致せずエネルギー転換が可能とならない場合でも、エネルギー転換は起こるでしょう。ただ速度は遅くなることが予想されます。

業界の参加者たちは、政策決定者に何を望むかについて質問を受けました。回答では以下6つの優先事項が挙げられました。

1. DSOの役割についての理解、規制フレームワークに対する支援。 それにはDSOの変革を支援しエネルギー転換を可能にする取り組みを実行するためのインセンティブを含む

2. より多くのインセンティブを伴う報酬イノベーション。 一方から他方への変化を認識した上で、イノベーションリスクを相殺するようなより多額のインセンティブ、CAPEX、OPEXの両方に適用されるインセンティブの提供。そして、リターンを実体化させるのに10年以上かかる場合には、規制の安定性、予測可能な投資フレームワークがイノベーションを段階的に進めるのに役立つ

3. 料金設計を再考。 自身で電気を生成するがグリッドを使用する消費者が、グリッドの近代化やデジタル請求のためのコストに貢献できるようにする

4. クリーン・エネルギー・パッケージのタイムリーな実施。 地域レベルで配電サービスやフレキシビリティーサービスを円滑に進め、一方で、競争力のある調達や送電混雑時の管理を可能にし、配電システムにおける効率アップを目指す

5. バッテリー開発の障害を取り払う。 より多くの公的管理を認め、DSOが明確に定義された規制パラメータ内でグリッドスケールの保管施設を運営できるようにする

6. エネルギー標準、データ管理に対する規制当局の介入。 顧客やその他の参加者が、マーケットに完全に参加できるよう、情報へのアクセスを与える

出典:EY

業界はまた、フレキシビリティーサービスを調達できるよう、フレキシブルな価格設定方法とマーケット・プラットフォームとの整合を取りたいと考えています。業界のプレーヤーたちは、フレキシビリティーサービスから許可された規制の報酬を、ネットワーク顧客やDSO自身にとって最適な価値を伴って統合するような、包括的な財務モデルを求めています。そしてそれは、適正な種類の規制フレームワーク、料金、価格設定メカニズムを通じてのみ、もたらすことができるのです。

規制と政策とが合致せずエネルギー転換が可能とならない場合でも、エネルギー転換は起こるでしょう。ただ速度は遅くなることが予想されます。 

規制の対応が遅れることは、エネルギー転換の不安定化につながる恐れがあります。

技術の進化は、エネルギーの生成、価値化、取引の新たな形を加速させています。しかし、規制をめぐる環境を作り変えるような変化を推進するためには、委託先、規制当局、DSO、TSOが参加した、より多くの対話が求められます。

明確で、かつ進化を続ける規制ポリシーが策定できれば、電気エネルギーの生成、配電、販売に関与するTSOなどのコミュニティーに対するDSOの新たな幅広い役割を定義できることでしょう。これにより、エネルギーネットワークの未来を実現した先に生まれるインセンティブやリターンについても、保証が与えられることになります。

それまでの間は、規制が追いついてくるのを待ちながらエネルギー転換が継続します。

変化の触媒としてのDSO

EY による調査は大手エネルギー企業の経営幹部との面談や、運営、イノベーション、規制、ネットワーク戦略に関わるリーダーの経験談、さらに117名のエネルギー専門家の意見に基づいています。

レポート全文(PDF)をダウンロード

サマリー

エネルギー転換の速度は、私たちのエコシステムが分散し徐々に脱酸素化するにつれ、勢いを増しています。今後5年間のうちに、技術の進化や消費者の権限強化、競争力のある勢力に後押しされ、私たちのエネルギーの未来がどのようになるかを定義するような重大な展開を見ることになるでしょう。しかし、規制はこうしたエネルギー転換の途上に立っているでしょうか。しっかりした規制フレームワークが明確な道筋を提示した場合、進化は今より速くなるでしょうか?

この記事について

執筆者
Serge Colle

EY Global Power & Utilities Advisory Leader

Global energy advisor. Connecting clients with EY services, assets and experience.

Paul Micallef

EY Global Digital Grid Leader

Passionate about the future of energy. Outdoors lover. Avid traveller.