情報センサー2023年4月号

親子会社間の会計処理の統一

2023年3月31日 PDF

情報センサー2023年4月号 企業会計ナビダイジェスト

EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 大山 文隆

監査部門に所属し、主にテクノロジー、食品メーカー等の会計監査の他、IPO支援業務に従事。また、法人ウェブサイト「企業会計ナビ」コーナーに掲載する会計情報コンテンツの執筆等を担当している。

当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」より「解説シリーズ『連結(平成25年改正)』第2回:親子会社間の会計処理の統一」を紹介します。

Ⅰ 親子会社間の会計処理の統一

1. 親子会社間の会計処理の統一の意義

連結財務諸表は、子会社などを含めた企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を報告するものです。

親会社と各子会社は、それぞれが置かれた環境の下で経営活動を行っているため、親会社と各子会社の会計処理を画一的に統一することは、かえって連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に表示しなくなるということも考えられます。しかし、同一環境下での同一の性質の取引等について連結会社間で会計処理が異なっている場合、その個別財務諸表を基礎とした連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の適切な表示を損ないかねません。

そこで、連結財務諸表作成にあたっては「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計処理の原則及び手続は、原則として統一する」こととされています(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、連結会計基準)第17項)。

2. 在外子会社の取扱い

在外子会社に関しては、当該子会社の財務諸表が国際財務報告基準又は米国会計基準に準拠して作成されている場合には、当面の間、次の項目を修正することにより、連結決算手続上利用できることとされています(実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」)。

① のれんの償却
② 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
③ 研究開発費の支出時費用処理
④ 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
⑤ 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整

3. 会計処理の統一を要しない場合

同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親子会社間の会計処理は「原則として」統一するものとされています。

「原則として」とは、統一しないことに合理的な理由がある場合、または重要性がない場合を除いて統一を要することを意味しています。合理的な理由及び重要性の取扱いは<表1>の通りです(「親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い」に関するQ&A)。

表1 合理的な理由及び重要性の取扱い

Ⅱ 会計処理の統一方法

同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親子会社間の会計処理を統一する手順は次の通りです(監査・保証実務委員会実務指針第56号「親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い」(以下、監査上の取扱い)4)。

1. 同一環境下で行われた同一の性質の取引等の識別

「同一環境下で行われた同一の性質の取引等」について、明確な定義付けは行われておらず、その識別は経営者の判断に委ねられていますが、識別にあたっては取引の種類に応じて<表2>のような例示が示されています。なお、いったん適用した「同一環境下で行われた同一の性質の取引等」の範囲を変更することにより、会計処理の原則及び手続を変更する場合には、通常の会計方針の変更として取り扱います。

表2 識別方法の代表例

2. 企業集団としての会計処理の選択と統一

会計処理の統一にあたっては、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をより適切に表示する会計処理の原則及び手続を選択する必要があります。その判断の結果として、子会社の会計処理を親会社の会計処理に合わせる場合のみならず、親会社の会計処理を子会社の会計処理に合わせる場合も考えられます。

3. 個別財務諸表段階での会計処理の統一

連結財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成することとされています。したがって、親子会社間の会計処理の統一は、各個別財務諸表の作成段階で行うのが原則とされています。

ただし、親会社又は子会社の固有の事情により個別財務諸表上では会計処理の統一が図られていない場合は、連結決算手続上で修正を行わなければなりません。

4. 会計方針の変更

親子会社間の会計処理の統一を目的として会計処理の原則及び手続を変更する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表上、これを「正当な理由」による会計方針の変更として認めるものとされています。

ただし、会計処理の原則及び手続を変更する際には、企業集団の財政状態及び経営成績の適正な開示という観点から判断すべきであり、財政状態及び経営成績の適正開示を後退させるような変更は認められない点に留意が必要です。

Ⅲ 個別の会計処理の取扱い

企業集団で会計処理の統一を必要とする取引等が識別された場合には、その企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をより適切に表示する会計方針を選択する必要があります。この判断にあたっては、原則として統一すべき会計処理と、必ずしも統一を必要としない会計処理があります(監査上の取扱い5)。

1. 原則として統一すべき会計処理

次の項目については、統一しないことに合理的な理由がある場合、または重要性がない場合を除いて、原則として統一する必要性が示されています。

① 資産の評価基準
② 同一の種類の繰延資産の処理方法
③ 引当金の計上基準
④ 営業収益の計上基準

2. 必ずしも統一を必要としない会計処理

次の項目については、統一することが望ましいものの、事務処理の経済性等を考慮して、必ずしも統一を要しないものとされています。

① 資産の評価方法
② 固定資産の減価償却の方法

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