情報センサー2023年2月号

税効果会計における実務上の留意点

2023年1月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2023年2月号 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部

公認会計士 石川 仁

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、化学メーカーなどの監査業務に従事している。


公認会計士 宮﨑 徹

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、主に製造業の監査業務に従事している。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第16版)」(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢、原材料やエネルギー価格の高騰、さらには急激な円安といった事業環境の中で、足元の業績が不安定となっている企業も多いのではないかと考えられます。このような状況下では繰延税金資産の回収可能性の判断における企業の分類が3~5と判断されることもあり得るかと思います。本稿は、このような場合に気を付けていただきたい論点や、その他税効果会計において勘違いしやすい論点について改めて取り上げることによって、基本的な部分をしっかりと再確認していただくことを目的としています。なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性の判断手順

1. 会計処理

将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、次の(1)から(3)に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断することになります(企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)第6項)。

(1) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
(2) タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
(3) 将来加算一時差異

そして、当該回収可能性を判断するに当たっての具体的な手順は<表1>のとおりです(回収可能性適用指針第11項)。

表1 回収可能性の判断手順

2. 実務上の留意点

(1) 将来加算一時差異のスケジューリング

前記のとおり、繰延税金資産の回収可能性の判断手順では、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づく将来減算一時差異の解消見込額との相殺(<表1>⑤)の前段階として、将来加算一時差異のスケジューリングに基づいた解消見込額と、将来減算一時差異の解消見込額とを解消見込年度ごとに相殺(<表1>③)することになります。これは、企業分類のいかんによらず、将来加算一時差異と相殺可能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとするということです。

従って、例えば、次の設例のように(分類4)の会社であり、一時差異等加減算前課税所得の見積期間が1年であったとしても、1年を超える期間についても将来加算一時差異と将来減算一時差異が年度ごとに相殺可能である限り、回収可能性があるものと判断され繰延税金資産が計上されることとなります。設例においては、X2年度及びX3年度の将来加算一時差異の解消見込額に基づく相殺額である50ずつに対する繰延税金資産30((50+50)×30%)について回収可能性ありと判断することになる点、ご留意ください。

設例

<前提条件>

X0年度末の関連情報は以下のとおり。

  • 将来減算一時差異:540
  • 将来加算一時差異:△150
  • 企業の分類:(分類4)
  • 翌期(X1年度)の一時差異等加減算前課税所得:250
  • 法定実効税率:30%

<繰延税金資産の回収可能性の判断>

① 将来減算一時差異のスケジューリング

将来減算一時差異のスケジューリング

② 将来加算一時差異のスケジューリング

将来加算一時差異のスケジューリング

③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額との解消見込年度ごとの相殺

将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額との解消見込年度ごとの相殺

④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額との相殺
該当なし(③で相殺後の将来加算一時差異はゼロであるため)

⑤ ④までで相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとの相殺

④までで相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額と解消見込年度ごとの相殺

⑥以降省略

<繰延税金資産計上額>

400(③での相殺可能額150+⑤での相殺可能額250)×30%=120

(2) 前払年金費用に係る将来加算一時差異のスケジューリング

会社の企業年金制度に係る退職給付会計において、退職給付債務を年金資産が上回っている場合には前払年金費用(資産)が計上されます。このとき、毎年の年金基金への掛金拠出額が退職給付費用を上回っているケースでは、一見すると、将来加算一時差異である前払年金費用は加算調整されることなく増加し続けていくため、当該将来加算一時差異のスケジューリングは不能であるようにみえます。しかし、前払年金費用の増減を分解すると、掛金拠出により増加している一方で、退職給付費用の計上により減少しています。そこで、当年度末の前払年金費用残高は、退職給付費用分だけ加算調整されることから将来加算一時差異の解消としてスケジューリングされることとなり、一方で、掛金拠出分だけ新たに将来加算一時差異が発生していることから将来の一時差異等加減算前課税所得を構成するものと考えられます。従って、将来の退職給付費用を合理的に見積ることが可能であれば、当該将来加算一時差異のスケジューリングは可能であると考えられます。

前記(1)のとおり、将来加算一時差異のスケジューリングの結果、将来減算一時差異の解消見込額と解消年度ごとに相殺することによって、繰延税金資産の回収可能性があるものと判断される部分が生じることもあるため、前払年金費用に係る将来加算一時差異のスケジューリングは慎重に検討する必要があると考えられます。

(3) 資産除去債務に対応する除去費用(資産)に係る将来加算一時差異のスケジューリング

資産除去債務が新たに認識される際は、資産除去債務(負債)と資産除去債務に対応する除去費用(資産)は同額両建てで計上されることになりますが、それらに係る将来減算一時差異及び将来加算一時差異のスケジューリングは異なるものになることに留意が必要です。

資産除去債務については実際に関連する有形固定資産が除去されるタイミングで負債が取り崩され税務上認容されるため、資産除去債務に係る将来減算一時差異は、除去予定時期にスケジューリングされることになります。

一方で、資産除去債務に対応する除去費用は減価償却を通じて税務上加算調整されるため、その将来加算一時差異については、減価償却期間にわたって減価償却方法に合わせてスケジューリングされることになります。このように両者のスケジューリング期間、方法は異なることになり、資産除去債務に係る将来減算一時差異が、対応する除去費用に係る将来加算一時差異をもって全額回収可能性があると判断されるわけではないと考えられ、両者の慎重なスケジューリングの検討が求められる点にご留意ください。

Ⅲ 連結子会社等の留保利益に係る税効果

1. 会計処理

親会社又は投資会社(以下、親会社等)による投資後の期間において、連結子会社又は持分法適用会社(以下、連結子会社等)が利益を獲得した場合には、投資後に増加した利益剰余金、すなわち留保利益の金額だけ、連結財務諸表上の投資簿価(会計上の簿価)が、個別財務諸表上の投資簿価を上回ることとなります。連結子会社等の留保利益は、将来の親会社等への配当時、又は投資の売却や連結子会社等の清算時に親会社等で課税対象となる場合には、連結財務諸表固有の将来加算一時差異に該当し、原則として、追加で納付が見込まれる税額を繰延税金負債として計上することになります(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)第23項、第24項、会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」(以下、持分法実務指針)第27項、第28項)(<表2>参照)。

表2 留保利益に係る税効果の取扱い

なお、連結子会社等の取得時利益剰余金(投資時に留保している金額)についても、将来において追加的な税額発生の要因となり得ますが、連結子会社等の投資の会計上の簿価と税務上の簿価の差異原因とはならないため、将来加算一時差異には該当せず、税効果を認識しません(税効果適用指針第113項、第114項)。

国内子会社・関連会社についても、配当による追加の税負担が生じないかどうかについては、税法の規定に照らして確認しておく必要があります。また、配当による追加の税負担が生じないケースであっても、投資の売却を意思決定した場合には繰延税金負債の計上が必要になることもありますので、計上漏れのないように留意が必要です。

2. 実務上の留意点

(1) 関連会社の場合

持分法適用会社に留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針等がある場合には、繰延税金負債を計上しないこととされています。しかし、子会社とは異なり、関連会社については投資会社の支配下に置かれているわけではありません。

このため、関連会社の留保利益に対して繰延税金負債を認識しないための要件を満たしているかどうか(留保利益を配当させないという投資会社の方針等に実効性があるかどうか)については、より慎重な検討が必要であると考えられます。

(2) 外国源泉所得税の税率

在外子会社等の留保利益に係る繰延税金負債を計算する際には、配当時に追加で納付が見込まれる外国源泉所得税を考慮する必要があります。当該税額を算定する際には、在外子会社等の所在地国の法令(日本との間で租税条約等が締結されている場合には法令及び当該租税条約等)に規定されている税率を用いて計算することとされています。また、現地法令等の改正があった場合には、その影響を留保利益に係る税効果にも反映させることになりますが、当該法令等の改正が成立した時点から反映させる必要があります(税効果適用指針第26項、第44項)。なお、租税条約については、両国の署名後、締結手続を経た上で効力が発生しますが、税効果に反映させることになる租税条約の成立時点としては「公文の交換等による締結(条約に拘束されることについての国の同意の表明)が行われた時点」になると考えられます。

従って、留保利益に係る税効果に影響する法令等の改正が成立していないかどうか、決算に当たって情報の収集漏れがないように留意する必要があります。

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