『国際会計の実務 International GAAP 2022』刊行記念 IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」に関する主なアップデート
情報センサー2022年4月号 IFRS実務講座
EY新日本有限責任監査法人 IFRSデスク 公認会計士 上浦宏喜
当法人入所後、主として半導体製品、硝子製品等の製造業、小売業、ITサービス業等の監査業務に従事。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動等に従事している。
「国際会計の実務 International GAAP」シリーズが3年ぶりにリニューアルされ、『国際会計の実務International GAAP 2022(上巻・中巻・下巻)』と『国際金融・保険会計の実務 International GAAP 2022』が刊行されました。そこで、全3回にわたって、2019年版からアップデートされている論点の一部を紹介します。
第1回となる本稿では、キャッシュ・フローの開示について取り上げています。
Ⅰ はじめに
本稿では、次の項目に関するキャッシュ・フロー計算書上の取扱いについて解説しています。
- 新たに公表されたIFRICアジェンダ決定(「サプライチェーン・ファイナンス契約―リバース・ファクタリング」及び「財務活動から生じた負債の変動の開示」)
- キャッシュ・フローに関して明確なガイダンスが設けられていない「セール・アンド・リースバック取引」
- 実務上の論点である「企業結合時に被取得企業の債務を取得者が決済する際のキャッシュ・フローの開示」
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
Ⅱ IFRICアジェンダ決定「サプライチェーン・ファイナンス契約―リバース・ファクタリング」
1. アジェンダ決定の主な検討事項
① ファクタリング契約に係る負債のキャッシュ・フロー計算書上の分類(通常は、営業活動によるキャッシュ・フロー/財務活動によるキャッシュ・フロー)に際して、貸借対照表上の表示(買掛金/その他の金融負債)を考慮すべきか。
② 金融機関が仕入先に直接送金する場合の買掛債権の減少は、非資金取引とすべきか。
2. アジェンダ決定の結論
一つ目に関して、ファクタリング契約に係る負債の取扱いについてキャッシュ・フロー計算書と貸借対照表の整合性は考慮すべきであり、従って、貸借対照表上、負債が企業の主たる収益獲得活動に使用される運転資本の一部である買掛金及びその他未払金であると考えられる場合、関連する支払いは営業活動によるキャッシュ・フローに分類されます。一方で、貸借対照表上、負債が借入金であり買掛金及びその他未払金ではない場合、その負債を決済するための支払いは財務活動によるキャッシュ・フローに分類されます。
二つ目に関して、基準上、現金の使用を必要としない取引はキャッシュ・フロー計算書から除外し、当該取引について投資活動及び財務活動に関する全ての関連性のある情報が提供されるような方法で、財務諸表の他の箇所において開示することが求められています(IAS第7号第43項)。従って、企業はファクタリング契約に際し、企業にキャッシュ・インフロー及びキャッシュ・アウトフローが生じるか否かに応じて、当該規定の適用を判断する必要があります。
Ⅲ セール・アンド・リースバック取引
セール・アンド・リースバック(以下、S&LB)取引をキャッシュ・フロー計算書でどのように取り扱うかについては、IAS第7号及びIFRS第16号に明確な規定がないため、S&LB取引の性質を踏まえて、検討する必要があります。
1. S&LB取引が、資産の売却取引に該当する場合
<図1>の通り、譲渡対価は公正価値部分とその超過分に区別された上で、公正価値部分については、さらに取引後に借手が保持しているか否かによって区別され、異なるキャッシュ・フロー計算書上の取扱いがなされます。
2. S&LB取引が、資産の売却取引に該当しない場合(IFRS第15号の規定を満たさない場合)
このような取引の実質は、借手が資産を担保として差し入れて資金を調達したものであるため、受け取った現金はキャッシュ・フロー計算書上、財務活動によるキャッシュ・インフローとして分類されます。
Ⅳ IFRICアジェンダ決定「財務活動から生じた負債の変動の開示」
2019年9月のアジェンダ決定で解釈指針委員会は、IAS第7号第44A項で要求されている財務活動から生じた負債の変動に関する開示要求を満たす一つの方法について、次の基準に従って企業が判断を適用する必要がある旨の見解を示しています(<表1>参照)。
Ⅴ 企業結合時に被取得企業の債務を取得者が決済する際のキャッシュ・フローの開示
新たに子会社となる企業が負う債務を取得企業が決済する際のキャッシュ・フローについては、「他の企業の負債性金融商品を取得するための支出は、通常は投資活動に含まれる」とするIAS第7号第16項の規定を適用します。
従って、子会社が売主に対して負う債務を取得企業が引き継ぐための売主に対する支払いは、取得対価の一部なのか債務の引受けとみなされるかどうかに関係なく、投資活動によるキャッシュ・フロー区分に分類されます。
また、子会社の外部借入金を取得企業が決済するための売主への取得前の支払いについても、同様の理由から投資活動によるキャッシュ・フローに分類されます。この表示方法は、新たに子会社となった企業の外部借入金が親会社から提供される資金を用いて返済される場合に、IAS第7号第17項に基づいて、当該返済額が財務活動によるキャッシュ・フローに区分されることとは対照的な取扱いとなっています。