減損会計(減損の兆候)と税効果会計(企業分類)
情報センサー2022年4月号 企業会計ナビ ダイジェスト
EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 中村 崇
監査部門に所属し、陸運業、建設業などの会計監査に携わる傍ら、書籍執筆、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)に掲載する会計情報コンテンツの企画・執筆等に従事している。
当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数が多く、新型コロナウイルス感染症も影響し、決算に向けて重要と考えられるトピックスとして「解説シリーズ『減損会計』第4回:減損の兆候、『税効果会計』第4回:繰延税金資産の回収可能性」を要約して紹介します。
Ⅰ はじめに
新型コロナウイルス感染症は、各企業の業績に多大な影響を及ぼしており、会計上の見積りにも影響があります。特にコロナ前は業績が安定的で、コロナにより業績が悪化した企業においては、減損会計や税効果会計について慎重な検討が必要な状況になっていると考えられます。
Ⅱ 減損会計(減損の兆候)
減損の兆候がある場合には、当該資産または資産グループについて、減損損失を認識するかどうかの判定を行います。減損の兆候としては、次のような事象が例示されています。あくまでも例示であり、例示以外でも会社固有の減損の兆候がないか、十分に検討する必要があります。
- 資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること
- 資産または資産グループが使用されている範囲または方法について、当該資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じたか、あるいは生ずる見込みであること
- 資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは悪化する見込みであること
- 資産または資産グループの市場価格が著しく下落したこと
上記のうち、新型コロナウイルス感染症が特に影響すると考えられる1.~3.について確認します。
1. 営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
「継続してマイナス」とは、おおむね過去2期がマイナスであったことを指し、「継続してマイナスとなる見込み」とは、前期と当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合を指すと考えられます。当期見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しないと考えられます。
2. 使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
(1) 事業の廃止または再編成
(2) 予定よりも著しく早期に除却や売却などにより処分する場合
(3) 異なる用途への転用
資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化に該当する場合があります。もっとも、従来よりも明らかに回収可能価額を増加させる事象は減損の兆候に該当しません。
(4) 遊休状態になり、将来の用途が定まっていない場合
例えば、設備の操業を停止し、その後の操業開始のめどが立っていない場合などが含まれます。
3. 経営環境の著しい悪化の場合
(1) 材料価格の高騰や製・商品店頭価格やサービス料金、賃料水準の大幅な下落、製・商品販売量の著しい減少などが続いているような市場環境の著しい悪化
(2) 技術革新による著しい陳腐化や特許期間の終了による重要な関連技術の拡散などの、技術的環境の著しい悪化
(3) 重要な法律改正、規制緩和や規制強化、重大な法令違反の発生などの、法律的環境の著しい悪化
上記3項目は例示であり、これら以外にも、経営環境の著しい悪化が認められるケースがあるため、個々の企業の状況に応じて判断する必要があります。
Ⅲ 税効果会計(企業分類)
1. 企業の分類に応じた取扱い
繰延税金資産の回収可能性を判断する際、企業の過去の課税所得の発生状況や将来の業績予測等の要件に基づき、企業を五つに分類し、当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することとされています。
新型コロナウイルス感染症により業績が悪化した場合には企業分類の慎重な検討が必要となります。当該分類のうち、ここでは特に(分類2~5)について確認します。
(1)(分類2)に該当する企業の取扱い
次の要件をいずれも満たす企業は(分類2)に該当します。
① 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている
② 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない
③ 過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない
一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます。
(2)(分類3)に該当する企業の取扱い
次の要件をいずれも満たす企業は(分類3)に該当します。
① 過去(3年)および当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している(負の値となる場合を含む)
② 過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない
将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます。
(3)(分類4)に該当する企業の取扱い
次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は(分類4)に該当します。
① 過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている
② 過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある
③ 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる
翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとされます。
(4)(分類4)の要件を満たすが(分類2)(分類3)に該当する企業として取り扱う場合
上記(分類4)の要件を満たした場合であっても、重要な税務上の欠損金が生じた要因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類2)に該当する企業として取り扱われます。
また、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、(分類3)に該当する企業として取り扱われます。
(5)(分類5)に該当する企業の取扱い
過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じており、かつ、翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれている企業は(分類5)に該当します。
通常、将来の課税所得の発生を合理的に見積ることができないと判断されるため、原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとして取り扱います。