本人・代理人の判断
情報センサー2022年新年号 企業会計ナビダイジェスト
EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 水野貴允
国内事業会社の監査業務に従事している。主な業種は、IT、消費財、リース等。その他、書籍の執筆や雑誌への寄稿、法人ウェブサイトに掲載する会計情報コンテンツの企画・執筆に携わっている。
当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数の多いトピックスを取り上げ、紹介します。今回は「わかりやすい解説シリーズ『収益認識』第2回:本人・代理人の判断」を紹介します。
Ⅰ はじめに
収益認識に関する会計基準では五つのステップを適用し収益を認識することが求められています(「収益認識に関する会計基準」第17項)。
そのうち、「契約における履行義務を識別する」際の代表的な論点である、本人と代理人の区分について解説します。
Ⅱ 本人又は代理人の判断
顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合は、履行義務を識別する際に、企業が本人に該当するか代理人に該当するかの判断が必要となります。企業が本人に該当する場合は収益を総額で認識し、企業が代理人に該当する場合は収益を純額で認識します(「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)第39項、第40項)。
企業が本人に該当するか、あるいは代理人に該当するかは<図1>のステップで判定します。
Ⅲ 設例による解説
企業の財又はサービスが代理人に該当する事例として、インターネット販売サイトの運営会社の設例を使用して解説していきます。
【前提条件】
① A社は、インターネット販売サイトを運営しており、会員Bは当該インターネット販売サイトを通じて、出品者Cから商品を10,000円で購入した。
② A社は自社のインターネット販売サイトを通じて取引が成立した場合、商品価格の10%相当額の手数料を出品者から得る。したがって、出品者Cから1,000円(10,000円×10%)の手数料を受領した。
③ 商品の販売価格10,000円は出品者Cにより設定された価格である。
④ A社は会員Bに商品が提供されるように手配した後は会員Bに対してそれ以上の義務を負わない。
1. ステップ1-顧客に提供する財又はサービスの識別
A社が運営するインターネット販売サイトは、出品者が商品を提供し、当該商品を会員が購入する市場です。したがって、A社が顧客(すなわち、会員B)に提供する財又はサービスは、「出品者Cが出品した商品」であると考えられます。A社は会員Bに対して、他の財又はサービスの提供を約束していません。「出品者Cが出品した商品」に係る履行義務について、自ら提供しているのか、手配しているにすぎないのかを<ステップ2>で判定します。
2. ステップ2-支配の定義や指標等に基づく判定
(1) 支配の定義に照らし合わせた検討
A社はインターネット販売サイトを運営しているにすぎず、出品者Cが出品した商品を、インターネット販売サイトを通じて注文した顧客(すなわち、会員B)以外の当事者に提供することはできません。またA社は出品者Cが出品した商品を、会員Bに提供することを禁止することもできません。このため、A社は出品者Cが出品した商品の使用を指図する能力を有しておらず、「出品者Cが出品する商品」を会員Bに提供される前に支配していないと結論付けました(適用指針第42項(2))。
(2) 指標等に基づく判定
A社は商品が会員Bに提供される前にそれを支配していないと結論付ける際に、<表1>の三つの指標を考慮しました(適用指針第47項)。
<表1>の三つの指標も総合的に考慮した結果、A社は本サービスにおいて代理人に該当すると結論付けました。
【仕訳イメージ】
売掛金 1,000 / 手数料売上 1,000*
* 1,000円=10,000円×10%
A社は代理人に該当するため、A社が収受する手数料を純額で収益計上します。
Ⅳ おわりに
顧客との約束において、企業の財又はサービスが企業が自ら提供する履行義務であると判断されるのか(本人)、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務と判断されるのか(代理人)については、企業の契約内容により異なります。