資本金等の額と資本金の額の適用関係
情報センサー2021年12月号 押さえておきたい会計・税務・法律
公認会計士 太田達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。
Ⅰ はじめに
最近、税負担の軽減などを目的として、大企業が資本金1億円まで減資をする事例が増えています。
ところで、税務においては、資本金の額、あるいは資本金の額と資本剰余金の額の合計額に近似した概念として、「資本金等の額」を用いる場合があり、名称は資本金の額に似ているものの、内容は全く異なります。
したがって、減資などを検討する際には、資本金等の額と資本金の額の用法を明確に理解しておく必要があります。
本稿では、内国法人である株式会社を前提として、資本金等の額の概要について解説するとともに、資本金等の額と資本金の額の税務上の適用関係を解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。
Ⅱ 資本金等の額
1. 資本金等の額の意義
資本金等の額とは、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいい(法法2十六)、その額が増減する事由について政令で細かく規定されており(法令8①)、その増減および残高は法人税申告書別表5(一)の「Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書」に記載します(<資料1>参照)。
資本金等の額が増減する事由につき、株式会社で生じやすいものを幾つか紹介します。
株式の発行により現金払込みを受けた場合、払込金額の1/2を超えない額は資本金として計上せず、資本準備金とすることができます(会社法445①~③)。
例えば、増資により1千万円の払込みを受ける場合、それにより増加させる資本金の額は5百万円から1千万円の間で任意の金額とすることができます。
これに対し、資本金等の額は、払い込まれた金銭の額を計上しますから、増加させる資本金の額に関わらず1千万円増加することとなります。
(参考)従前の資本金の額2千万円、増加させる資本金5百万円とした場合の別表5(一)Ⅱの記載例
(注)別表5(一)の記載方法は一例であり、残高が正しく表示されることが重要です。以下の記載例においても同様です。
株式会社は、準備金の額または剰余金の額を減少させて資本金の額とすることができます(会社法448,450)。例えば、繰越利益剰余金を1千万円減少させて資本金の額とする場合、会計上は次の仕訳となります。
これに対し、資本金等の額は、増加した資本金の額に相当する分だけ減少させますから、税務上の仕訳は次のとおりとなり、増減しません。
(注)会計上の利益剰余金を資本金の額に振り替える場合であっても、税務上の利益積立金額は増減せず、資本金等の額の増減として取り扱うことにご注意ください。
(参考)従前の資本金の額2千万円とした場合の別表5(一)の記載例
株式会社は資本金の額を減少することができます(会社法447)。例えば、資本金の額を1千万円減少させてその他資本剰余金とする場合、会計上は次の仕訳となります。
さらに、欠損てん補の場合であれば、次の仕訳により繰越利益剰余金に振り替えます。
これに対し、資本金等の額は、資本金の額自体が減少するとともに同額を増加させますから、税務上の仕訳は次のとおりとなり、増減しません。
(参考)従前の資本金の額2千万円とした場合の別表5(一)の記載例
資本の払戻し等とは、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当、解散による残余財産の分配などをいい、資本の払戻し等を行う場合には、資本金等の額が減少します。
例えば、その他資本剰余金1千万円を原資として配当を行う場合、会計上は次の仕訳となります(源泉税は考慮しません)。
これに対し、資本金等の額は、減資資本金額の分だけ減少し、配当金額との差額は利益積立金額の減少となります。
減資資本金額は、次の計算式により計算します。
例えば、直前の資本金等の額5千万円、前期末の税務上の簿価純資産額8千万円としますと、5千万円×払戻割合1千万円/8千万円(0.125)=625万円となりますから、税務上の仕訳は次のようになります。
(参考)従前の資本金の額2千万円、その他資本剰余金1千万円とした場合の別表5(一)の記載例
自己の株式の取得等を行う場合には、資本金等の額が減少します。
例えば、自己株式を1千万円で取得する場合、会計上は次の仕訳となります。
これに対し、資本金等の額の減少額は、上場会社が自己の株式を市場で購入する場合とそれ以外による取得の場合で異なります。
① 上場会社が自己の株式を市場で購入する場合(法令8①二十一)
上場会社が自己の株式を市場で購入する場合には、その対価の額が資本金等の額の減少額となります。
したがって、上記の例での税務上の仕訳は次のようになります。
(参考)従前の資本金の額2千万円とした場合の別表5(一)Ⅱの記載例
② ①以外により取得する場合(法令8①二十)
非上場会社が自己の株式を取得する場合や、上場会社が自己の株式を公開買付等により取得する場合には、資本金等の額は取得資本金額の分だけ減少し、対価の額との差額は利益積立金額の減少となります。
取得資本金額は、次の計算式により計算します。
例えば、直前の資本金等の額5千万円、発行済株式総数1,000株、取得株数120株としますと、5千万円×取得株数120株/発行済株式総数1,000株=6百万円となりますから、税務上の仕訳は次のようになります(源泉税は考慮しません)。
(参考)従前の資本金の額2千万円とした場合の別表5(一)の記載例
なお、取得した自己株式につき、後日譲渡する場合には上記(1)と同様に取り扱われ、消却する場合には資本金等の額は増減しません。
上記(1)~(5)のほか、新株予約権の行使により株式を交付した場合や組織再編成が行われた場合などにも資本金等の額が増減します。
2. 資本金等の額の増減が課税関係に影響する場合
税務では、上記で説明した資本金等の額の増減が課税関係に影響する場合があり、次のようなものが挙げられます。
(1) みなし配当(法法24①四、五)
上記1. (4)資本の払戻し、(5)自己の株式の取得等などにより金銭等が交付される場合、交付する法人側で減少する資本金等の額相当額が株主側における譲渡対価の額とされ、交付金銭等の額がその金額を超える場合には、その超える部分の金額は株主側でみなし配当とされます。
(2) 寄附金の損金不算入額(令和4年4月1日前開始事業年度)
法人が支出する寄附金の額のうち、次の損金算入限度額を超える部分の金額は損金不算入とされます。
一般寄附金の損金算入限度額
特定公益増進法人等に対する寄附金がある場合の特別損金算入限度額
上記の「期末資本金等の額」の部分は資本金基準と呼ばれ、法人の事業の規模に応じて限度額を計算するものですが、上場企業が自己株式を市場で購入した場合には事業規模が縮小していないにもかかわらず上記1. (5)①により資本金等の額が大幅に減少することなどから、令和2年度税制改正により、令和4年4月1日以後開始事業年度については「資本金の額+資本準備金の額」に変更されます。
(3) 法人地方税
① 住民税均等割
住民税均等割は、期末の資本金等の額と従業者数に応じた適用税額が定められています。ただし、無償増資をした場合には、上記1. (2)のとおり資本金等の額は増減しませんが、均等割では、平成22年4月1日以後に行われた無償増資についてはその加算後の金額によります。また、無償減資等による欠損填補をした場合には、上記1. (3)のとおり資本金等の額は増減しませんが、均等割では、平成13年4月1日以後に行われた無償減資等による欠損填補についてはその控除後の金額によります。
その上で、資本金等の額(無償増・減資の加算・控除後の金額)と、資本金の額と資本準備金の額との合計額とを比較し、いずれか大きい金額を用いて判定します。
② 事業税資本割
事業税につき外形標準課税が行われる場合の資本割の課税標準は、①と同様に、期末の資本金等の額(無償増・減資の加算・控除後の金額)と、資本金の額と資本準備金の額との合計額とを比較し、いずれか大きい金額を用います。
Ⅲ 資本金の額が課税関係に影響する場合
資本金の額が課税関係に影響する規定は、法人税、住民税、事業税のほか、消費税における新設法人の免税事業者の判定や、法人設立や増資の際の登録免許税など、多岐にわたります。ここでは、法人税、住民税、事業税に関連する主なものを挙げてみましょう。
1. 寄附金の損金不算入額
上記Ⅱ2. (2)でご紹介したとおり、令和4年4月1日以後開始事業年度においては、寄附金の損金算入限度額の資本金基準による計算式の「期末資本金等の額」の部分が「期末資本金の額+資本準備金の額」に変更されます。
2. 中小法人・中小企業者向け税制
(1) 中小法人向け税制(法法66他)
中小法人とは、期末資本金の額が1億円以下で、かつ、大法人(資本金5億円以上の法人等)による完全支配関係がある法人以外の法人等をいい、次のような優遇税制が適用されます。
① 軽減税率
法人税の適用税率について、所得800万円以下の部分に対し、法人税法では19%とされ、さらに令和5年3月31日までに開始する事業年度については特例として15%に軽減されています。
② 欠損金の繰越控除
欠損金の繰越控除について、所得金額の50%の制限がなく、100%まで損金算入できます。
③ 欠損金の繰戻し還付
1年間の欠損金の繰戻しについて、適用停止の対象とならず、適用できます。なお、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度においては、その適用範囲が期末資本金10億円以下の法人まで拡大されています(新型コロナ税特法7)。
④ 貸倒引当金
貸倒引当金について、貸倒実積率または法定繰入率による限度額までの繰入れが認められます。
⑤ 特定同族会社の特別税率
第1順位の株主グループだけで持株割合または議決権割合等が過半数となる特定同族会社について、限度額を超える留保金に対して通常の法人税とは別に課税されるいわゆる留保金課税が適用されません。
⑥ 交際費等の損金不算入額
交際費等の損金不算入額の計算上控除される損金算入限度額について、年間800万円の定額控除限度額が適用でき、接待飲食費の50%とのいずれか大きい方を損金算入できます。
(2) 法人税の中小企業者向け税制(措法67の5他)
中小企業者とは、期末資本金の額が1億円以下の法人で次の法人以外の法人をいい、租税特別措置法に規定されています。
- 発行済株式総数の1/2以上が同一の大規模法人(資本金1億円超の法人等)の所有に属している法人
- 発行済株式総数の2/3以上が複数の大規模法人の所有に属している法人
中小企業者向け税制では多くの特別償却や税額控除が手当てされており、特に適用件数が多いものとしては次のものが挙げられます。
① 少額減価償却資産の特例
(常時使用する従業員数500人以下の法人に限ります)
② 中小企業向け所得拡大促進税制
③ 中小企業投資促進税制
④ 中小企業経営強化税制
⑤ 中小企業技術基盤強化税制
(3) 適用除外事業者(措法67の5他)
当期首前3年以内に終了した各事業年度の平均所得金額が15億円を超える中小企業者は、租税特別措置法上の多くの優遇税制が適用できないこととされています。上記でご紹介している規定では、(1)①軽減税率を15%に軽減する特例、④貸倒引当金のうち法定繰入率による繰入れ、および(2)の全ての規定は適用できません。
3. 法人地方税の適用関係
(1) 事業税
① 外形標準課税の適用の有無の判定
資本金の額が1億円を超える普通法人に対する事業税について、所得割の税率の引下げとともに付加価値割と資本割による外形標準課税が行われます。適用の有無の判定は期末の資本金の額で行われ、期中の増・減資等は勘案しません。
② 所得割、収入割の軽減税率
事業税の所得割、収入割は、一定以下の規模の法人に対しては標準税率および軽減税率が適用され、それ以外の法人に対しては超過税率が適用されます。この場合の判定は、資本金の額と所得金額または収入金額を基準として行います。
(2) 住民税法人税割
都道府県民税の法人税割は、一定以下の規模の法人に対しては標準税率および軽減税率が適用され、それ以外の法人に対しては超過税率が適用されます。この場合の判定は、ほとんどの都道府県では資本金の額と法人税額を基準として行いますが、一部の県では資本金等の額と法人税額を基準としています。
一方、市町村民税法人税割の判定基準は各市町村によってまちまちです。
Ⅳ おわりに
冒頭で紹介しました大企業の減資については、過去3期の平均所得金額が15億円を超えている場合には適用除外事業者に該当するため租税特別措置法の優遇規定は適用できませんが、人件費や賃借料などの負担が多く付加価値割の負担が大きい法人であれば、外形標準課税が適用されなくなるメリットが大きくなります。
また、減資に当たり有償減資を行う場合には資本金等の額が減少しますから株主側でみなし配当が生じますが、無償減資であれば特に課税関係は生じません。
(注)文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
法法:法人税法
法令:法人税法施行令
措法:租税特別措置法