Going Concernに関する教育的文書の解説
情報センサー2021年5月号 IFRS実務講座
EY新日本有限責任監査法人 IFRSデスク 公認会計士 上浦宏喜
当法人入所後、主として半導体製品、硝子製品等の製造業、小売業、ITサービス業などの会計監査及び内部統制監査に従事。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。
Ⅰ はじめに
IFRS財団は、2021年1月に、継続企業として存続する能力の企業による評価及び個別の開示に関する規定を説明する文書(以下、本文書)を教育目的で作成し、公表しました。
本稿では、本文書で示されたIFRS財団の見解について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
Ⅱ 概要
継続企業の前提について、IAS第1号「財務諸表の表示」(以下、IAS第1号)は「経営者に当該企業の清算若しくは営業停止の意図がある場合、又はそうする以外の現実的な代替案を除いて、企業は財務諸表を継続企業の前提により作成しなければならない」と説明しています。財務諸表の作成において継続企業の前提が適切かどうかを検討する際に、経営者は、以下に関係する要因を検討する必要があります。
- 企業の現在及び将来の収益性
- 既存の借入れの返済時期
- 借換えをする場合の潜在的な借入先
本文書は、新しい規定を紹介するものではありませんが、IFRSの既存の規定を、財務諸表の作成者が適用する際に役立ちます。より具体的には、現在の新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大による経済低迷の観点から、経営者が行う必要のある難しい評価及び現在の状況下で多くの企業に適用される重要な開示に関する役立つ留意点を説明しています。
1. 継続企業の前提に影響を及ぼす諸要因
現在の非常に厳しい経済環境を考えると、過去に検討されていた以上に企業の継続企業の前提に影響を及ぼす幅広い要因が存在しています。教育目的で作成された本文書は、経営者は将来に関する全ての入手可能な情報を考慮に入れる必要があるとするIAS第1号の規定に言及し、次のような例を提供しています。
- 企業活動の一時的な停止又は縮小の影響
- 将来政府により、将来活動に課せられる可能性がある潜在的な制約
- 政府の継続的な支援の可能性
- (顧客の行動様式の変化など)市場の長期的な構造的変化の影響
2. 企業の評価期間
企業がIAS第1号に従って財務諸表が継続企業の前提で作成されるかどうかを評価する場合、報告期間末から少なくとも12カ月の期間を検討する必要があります。
本文書はIAS第10号「後発事象」に言及し、財務諸表の作成における継続企業の前提の使用に関する経営者の評価は、報告期間の末時点から財務諸表の発行が承認されるまでの間に発生した後発事象の影響を反映する必要があると説明しています。つまり、報告期間の末時点で継続企業の前提の適用が適切とされた場合であっても、財務諸表の発行が承認されるまでの間に経営者が営業を停止する以外に現実的な代替策を有しないほどに状況が悪化する場合には、財務諸表を継続企業の前提を基に作成してはならないということになります。
3. 開示規定
経営者は、継続企業の前提が適切と決定するために仮定と判断に依拠しますが、現在の状況下では、今まで以上に大きな不確実性が存在します。その結果、財務諸表の利用者は、継続企業の前提に関する開示に焦点を当てるようになり、継続企業の前提に関する経営者が用いる仮定が、財務諸表のその他の観点の基礎となる仮定にどのように関係しているかについて強い関心を示しています(例えば、経営者が策定した不確実性を緩和するための対応策が、減損やその他の見積りに用いられる経営者の将来予測と矛盾していないか等)。
従って、本文書は、IAS第1号の継続企業の前提に関する個別の開示規定を検討するだけでなく、包括的な開示規定を検討することの重要性を強調しています。これには、財務諸表に計上される金額に最も大きな影響を及ぼす判断も含まれます。
本文書は、これらの開示規定が適用される企業の状況について、四つのシナリオごとに解説しています(<図1>参照)。特に、シナリオ②のように、継続企業の前提に関する個別の開示規定が適用されない状況であっても、包括的な開示規定により、継続企業の前提に関する重要な判断について開示しなければならない場合があります。
Ⅲ おわりに
企業の売上収益の減少や収益性及び流動性の悪化を受け、利害関係者は、COVID-19の感染拡大が企業の継続企業として存続する能力に及ぼす影響について懸念するようになっています。こうした状況において、企業の継続企業の前提の評価及び関係する開示の重要性が高まっています。