情報センサー

合同会社の計算書類

情報センサー2020年2月号 押さえておきたい会計・税務・法律

公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ  はじめに

会社法により、合同会社が創設されましたが、ここ数年その設立件数が増加の一途をたどっています。設立コスト・手続が節減できることや、定款自治による柔軟な運営が可能であるなど、そのメリットが認識されるようになったことがその要因であると思われます。資産の流動化の受け皿会社、産学連携、合弁事業、資産管理会社など、幅広く活用されていますが、最近では大企業が子会社として設立する事例もみられます。
合同会社についても計算書類の作成が必要ですが、株式会社とは異なる特有の取扱いが少なくありません。本稿では、合同会社が作成する計算書類の作成方法や記載例などを解説します。なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。

Ⅱ 会計帳簿の作成等

1. 会計帳簿の作成および保存

合同会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければなりません(会社法615条1項)。合同会社は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を保存する必要があります(同条2項)。
会計帳簿は後日の紛争が生じたときの重要な証拠資料となるものであり、保存期間は10年間とされています。保存期間の起算点は、「会計帳簿の閉鎖の時」とされていますが、多数説では決算締切りの時と解されています。「その事業に関する重要な資料」とは何であるかが問題となりますが、契約書、発注書、受注書、請求書、領収書、通帳など、将来の紛争に備えて事実関係、法律関係等を証明するために重要な資料であると解されます。
合同会社の作成すべき計算書類は、会計帳簿に基づき作成しなければなりません(会社計算規則70条、71条3項)。従って、会計帳簿は、合同会社の計算書類作成の基礎となるものとなります。

2. 会計帳簿の提出命令

裁判所は、申立てによりまたは職権により、訴訟の当事者に対し、会計帳簿の全部または一部の提出を命ずることができます(会社法616条)。
会計帳簿は、合同会社の事業上の財産およびその価額を記載した帳簿であり、裁判において重要な証拠資料になるため、裁判所は申立てまたは職権で提出を命ずることができるとされています。民事訴訟法の一般原則によれば、訴訟当事者の申立てが必要であるとされていますが、本規定は、申立てがなくても裁判所の職権により提出を命ずることができるとするものです。

3. 計算書類

(1) 計算書類の作成および保存

合同会社は、その成立の日における貸借対照表を作成し(会社法617条1項)、さらに、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表その他合同会社の財産の状況を示すために必要かつ適切なものとして法務省令で定めるものをいう)を作成しなければなりません(同条2項)。
成立の日における貸借対照表とは、本店の所在地において設立の登記をした日における貸借対照表であり、成立日貸借対照表をいいます。また、各事業年度に係る計算書類を作成しなければなりませんが、計算書類の具体的内容については、法務省令に委任されています。すなわち、計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書および個別注記表の四つです(会社計算規則71条1項2号)。なお、合同会社の場合、事業報告および附属明細書の作成義務はないものとされています。
合同会社の全ての社員は、間接有限責任を負うのみですから、会社債権者の保護の要請がより強く求められます。そこで、株式会社の取扱いに準じて、貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書および個別注記表の作成が義務付けられています。
計算書類は、電磁的記録をもって作成することができます(会社法617条3項)。合同会社は、計算書類を作成した時から10年間、これを保存する必要があります(同条4項)。
なお、株式会社と異なり、合同会社においては、決算公告は義務付けられていません。ただし、債権者保護の観点から、債権者に計算書類(作成した日から5年以内のものに限る)の閲覧・謄写請求権が認められています(会社法625条)。
貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書および個別注記表の作成方法は会社計算規則に規定されています。それぞれの内容と記載例は次のとおりです。

(2) 計算書類の作成方法

① 貸借対照表

貸借対照表は、資産、負債および純資産の各部に区分して表示しなければなりません(会社計算規則73条1項)。資産の部または負債の部の各項目については、当該項目に係る資産または負債を示す適当な名称を付さなければなりません(同条2項)。また、資産の部は、流動資産、固定資産(固定資産は、さらに有形固定資産、無形固定資産および投資その他の資産)、繰延資産の項目に分類し、各項目は適当な項目に細分しなければなりません(同規則74条1項、2項)。負債の部は、流動負債、固定負債の項目に区分し、各項目は適当な項目に細分しなければなりません(同規則75条1項)。
貸借対照表の純資産の部の表示方法については、社員資本、評価・換算差額等に区分しなければなりません。社員資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金に区分しなければなりません(同規則76条3項)。ここで注意しなければならない点は、合同会社には資本準備金および利益準備金の制度はないという点です。資本剰余金の区分における資本準備金、利益剰余金の区分における利益準備金の表示はありません。記載例のように、資本剰余金、利益剰余金と表示することになります。
また、評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益等に区分しなければなりません(同規則76条7項)。
なお、合同会社は、自己の持分の取得(株式会社の場合の自己株式の取得)はできないとされているため、自己持分の表示はあり得ません。

貸借対照表 記載例
② 損益計算書

損益計算書は、次に掲げる項目に区分して表示しなければなりません。この場合において、各項目について細分することが適当な場合には、適当な項目に細分できると規定されています(会社計算規則88条1項)。

(ⅰ)売上高

(ⅱ)売上原価

(ⅲ)販売費及び一般管理費

(ⅳ)営業外収益

(ⅴ)営業外費用

(ⅵ)特別利益

(ⅶ)特別損失

特別損益については、項目の細分が強制規定になっていますが、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用については、細分できるとされており、強制にはなっていません。売上高、売上原価については、細分している事例は少なく、販売費及び一般管理費についても、細分して表示している事例はほとんどありません。一方、営業外損益項目は、重要なものを細分して表示している事例が多いと思われます。
売上高から売上原価を減じて得た額を売上総利益金額または売上総損失金額として表示しなければなりません(会社計算規則89条1項、2項)。また、売上総損益金額から販売費及び一般管理費の合計額を減じて得た額は、営業利益金額または営業損失金額として表示しなければなりません(同規則90条1項、2項)。営業損益金額に営業外収益を加算して得た額から営業外費用を減じて得た額は、経常利益金額または経常損失金額として表示しなければなりません(同規則91条1項、2項)。経常損益金額に特別利益を加算して得た額から特別損失を減じて得た額は、税引前当期純利益金額または税引前当期純損失金額として表示しなければなりません(同規則92条1項、2項)。税引前当期純損益から法人税等の額(税効果会計を適用している場合は、法人税等および法人税等調整額)を減じて得た額は、当期純利益金額または当期純損失金額として表示しなければなりません。
ただし、売上総利益(または売上総損失)、営業利益(または営業損失)、経常利益(または経常損失)、税引前当期純利益(または税引前当期純損失)、当期純利益(または当期純損失)という項目名で取り扱うことは差し支えありません。

損益計算書 記載例
③ 社員資本等変動計算書

社員資本等変動計算書は、その事業年度中の貸借対照表の純資産の部の各項目の計数の増減を表す計算書類です。社員資本だけではなく、評価・換算差額等の項目も含めて、純資産の部全体の各項目の増減が表されます。
貸借対照表の純資産の部の表示区分ごとの当期首残高、当期変動額および当期末残高を表示します。純資産の部の各項目は、期中に随時変動が生じ得るため、この計算書類によって、前期の貸借対照表の純資産の部の各項目の残高と、当期の貸借対照表の純資産の部の各項目の残高の連続性が確保されることになります。

社員資本等変動計算書 記載例
④ 個別注記表

会社計算規則では、個別注記表は20項目の規定からなっていますが(会社計算規則98条1項)、合同会社などの持分会社に適用される規定は限られています。次の事項が注記事項とされています(同条2項5号)。

  • 重要な会計方針に係る事項に関する注記
  • 会計方針の変更に関する注記
  • 表示方法の変更に関する注記
  • 誤謬の訂正に関する注記
  • 収益認識に関する注記
  • その他の注記

会計方針の変更に関する注記および表示方法の変更に関する注記は該当がある場合のみの注記であり、また、誤謬の訂正に関する注記は相当限定的です。通常は、「重要な会計方針に係る事項に関する注記」および「収益認識に関する注記」が必要になります※1

個別注記表 記載例

(3) 計算書類の承認

合同会社については、計算書類の承認に係る規定が置かれていません。作成を担当する業務執行社員が作成することにより計算書類は直ちに正式なものとなるという見解もみられます※2。ただし、計算書類の作成行為は事実行為であり、作成された計算書類について一定の権限のある機関による承認を経ることにより、計算書類は確定するという見解もみられます※3
計算書類の作成は業務の決定に当たると解されるところ、社員が2以上ある場合は、社員の過半数の合意が必要となると考えられます(会社法590条2項)。
株式会社の場合は、定時株主総会において計算書類を承認する場合に、株主総会の議事録の作成および保存が必要になりますが、合同会社の場合は、社員総会の設置は強制ではありません。定款の定めにより、任意で社員総会による承認を定めているケースを除いて、会議体による決定に係る議事録の作成は求められないと考えられます。しかし、法人税における確定決算との関係から、社員総会という会議体によらず、業務執行社員の過半数により決定した場合においても、その決定の記録を証拠として残すことが考えられます。また、役員給与に関して、社員総会もしくはこれに準ずるものの決議による限度額の定めとの関係で※4、限度額に係る決定の記録を証拠として残す対応が必要になると考えられます。
なお、社員が1人のみである合同会社である場合に、このような決定の記録を残すべきかが問題となります。この点については、計算書類の確定との関係、法人税における役員給与との関係、社会保険事務所に提出する社員報酬の決定通知書の提出との関係などから、一定の記録を証拠として残すことが考えられます。様式は特にないため、決定した日時、決定した内容などを適宜まとめて、記名押印する対応が考えられます。

(4) 計算書類の承認

合同会社の社員は、その合同会社の営業時間内は、いつでも次に掲げる請求ができます(会社法618条1項)。定款で別段の定めをすることはできます。ただし、定款によっても、社員が事業年度の終了時に請求を制限する旨を定めることはできません(同条2項)。

【計算書類の閲覧・謄写請求】

①計算書類が書面をもって作成されているときは、書面の閲覧または謄写の請求

②計算書類が電磁的記録をもって作成されているときは、電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧または謄写の請求

合同会社の社員に計算書類の閲覧謄写請求権が認められているのは、業務財産状況の調査権(会社法592条1項)と同様に、合同会社の社員の権利の確保または行使に関する調査をする上で必要と考えられるからです。
定款自治の原則に従い、定款で別段の定めをすることができます。社員の権利を制限することも認められますが、定款をもってしても、社員が事業年度の終了時に請求を制限する旨を定めることはできません。
なお、会社債権者にも、上記と同様の計算書類の閲覧謄写請求権が認められています(会社法625条)。

※1「収益認識に関する注記」は令和3年4月1日以後に開始する事業年度から適用され、早期適用はできるとされている。

※2岩原紳作・山下友信・神田秀樹編集代表『会社・金融・法(上巻)』 大杉謙一「持分会社・民法組合の法律問題」商事法務、64ページ

※3森本滋『合同会社の法と実務』商事法務、181ページ

※4定款の規定、株主総会、社員総会もしくはこれらに準ずるものの決議により、役員給与の限度額を定めている場合、その限度額を超えて支給した額が、法人税法上損金不算入になると規定されている(法令70条1項1号ロ)。実務上は、株主総会、社員総会もしくはこれらに準ずるものの決議により、役員給与の限度額を定めておいて、その限度額を超えないように支給する対応が採られる。

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