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IFRS第16号「リース」リースの識別(クラウド・コンピューティングの会計処理)

2020年1月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2020年2月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 山岸正典

金融部にて上場保険会社、リース会社等の会計監査に携わるとともに、金融機関のIFRS導入支援業務、J-SOX導入支援業務、損害保険会社の設立支援業務等の各種アドバイザリー業務に従事。2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、IFRS関連の研修講師、執筆活動などに従事している。

新しいリース基準であるIFRS第16号が2019年1月1日以後開始する事業年度から適用され、実務でも対応が進められています。そこで、当法人では20年半ばに、IFRS第16号に関する書籍を刊行する予定です。今号では、当該書籍において扱っているIFRS第16号の「リースの識別」を取り上げ、そのうちIFRS解釈指針委員会で議論されたクラウド・コンピューティングに関する論点の概要を紹介します。より詳細につきましては、当該書籍を参照いただければと思います。

Ⅰ  はじめに

IFRS第16号「リース」(以下、IFRS第16号)が、19年1月1日以後開始する事業年度から適用されています。IFRS第16号の適用により、従来はオフバランスされていたオペレーティング・リースを含む、基本的には全てのリースがオンバランスされることになり、企業の財務諸表に大きな影響を与えています。その中で、実務で重要な論点になっているのが「リースの識別」です。従来は、旧リース基準であるIAS第17号におけるオペレーティング・リースの会計処理とサービス契約の会計処理が多くの場合で同じであることから、これらを明確に区別することについてあまり重視されていなかった可能性があります。しかし、前述の通り、IFRS第16号の適用に伴いオペレーティング・リースの会計処理が変わるため、「リースの識別」が改めて注目されています。そこで、本稿では、IFRS第16号におけるリースの識別に関する考え方を解説するとともに、18年から19年にかけてIFRS解釈指針委員会で議論されたクラウド・コンピューティングに関する論点を紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ IFRS第16号におけるリースの識別

IFRS第16号では、リースを「資産を使用する権利を一定期間にわたり、対価と交換に移転する契約」と定義しています。そして、対価と交換に、一定期間にわたり、特定された資産の使用を支配する権利を移転する契約は、リースであるか又はリースを含んでいるとされています。そのため、リースに該当するかの判定に際しては、<図1>で示しているとおり、「特定された資産」(要件1)の「使用を支配する権利」(要件2)が顧客(借手)に移転する契約であるかを判断する必要があります。

図1 契約がリースに該当する2要件

「特定された資産」(要件1)は、通常、契約書に対象資産が明記されることにより要件を充足しますが、資産が特定されていても、供給者が使用期間全体を通じて資産を入れ替える実質的な権利を有している場合には、顧客は特定された資産の使用権を有していない(要件1を充足しない)と判断されるため、留意が必要です。また、「使用を支配する権利」(要件2)は、顧客が、「資産の使用から生じる経済的便益を得る権利」と「資産の使用を指図する権利」の両方を有している場合に要件を充足します。なお、リース契約とサービス契約の違いは、資産を顧客と供給者のどちらが支配しているかという点にあります。リースの識別に関する検討を行う際には、まずこの点を理解することが重要ですが、その判断が実務的には難しいケースも多いため、事実と状況に照らして慎重に判断することが求められます。

Ⅲ アプリケーション・ソフトウエアに対するアクセス権(クラウド・コンピューティング取引)に関する議論

IFRS解釈指針委員会は18年9月、11月及び19年3月に、クラウド基盤上のアプリケーション・ソフトウエアへのアクセス権の会計処理を取り上げました。具体的には、サプライヤーが保有しているクラウド基盤上のソフトウエアに対する顧客のアクセス権が、リース、無形資産、サービス契約のいずれに該当するのかについて議論されました。IFRS解釈指針委員会では、提出された事実関係ではサービス契約に該当すると判断されています(<設例>参照)。

設例 アプリケーション・ソフトウェア(クラウド・コンピューティング)

IFRS解釈指針委員会では、数あるクラウド・コンピューティング取引の中から、SaaS契約のみを対象とした分析が行われました。さらに、SaaS契約の中でも、顧客がサプライヤーのクラウド基盤上にあるサプライヤーのソフトウエアにアクセスする権利のみを有している場合に限定しているため、実務では、サービス契約であるか、あるいは顧客がソフトウエア資産(使用権資産若しくは無形資産)を認識する契約であるかを判別する際に、契約内容に応じた判断が必要になります。
クラウド・コンピューティング取引にはさまざまなものがあり、一般的に次のように分類されることが多いです(<図2>参照)。

図2 クラウド・コンピューティング取引の一般的な例
  • IaaS(Infrastructure as a Service)
    ネットワークを経由して、ハードウエアなどのインフラ機能を提供するサービス(例えば、仮想サーバーやファイアウォールなどのインフラをクラウド上で提供するサービス)
  • PaaS(Platform as a Service)
    ネットワークを経由して、インフラ機能に加えて、アプリケーションの開発・実行基盤(プラットフォーム機能)を提供するサービス(例えば、アプリケーションを稼働させるためのOSやデータベースなどをクラウド上で提供するサービス)
  • SaaS(Software as a Service)
    ネットワークを経由して、インフラ機能及びプラットフォーム機能に加えて、アプリケーション・ソフトウエアを提供するサービス(例えば、メールや顧客管理、財務会計などのアプリケーション・ソフトウエアをクラウド上で提供するサービス)

契約内容によっては、顧客がソフトウエア資産(使用権資産若しくは無形資産)を認識するケースも想定されますが、その際に、IFRS第16号とIAS第38号のどちらを優先的に適用するのかも論点になります。この点は、IFRS解釈指針委員会でも分析されており、IAS第38号を優先的に適用すると結論付けられました。つまり、IFRS第15号において、ラインセンスの例としてソフトウエアが挙げられていることから[IFRS15.B52]、ソフトウエアに対する顧客の権利はライセンス契約であると考えられ、ライセンス契約はIFRS第16号から除外されて[IFRS16.3]、IAS第38号の無形資産として認識されます。

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