情報センサー

米国税制改正可決後の動向

2019年9月30日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2019年10月号 JBS

EYニューヨーク事務所 米カリフォルニア州弁護士
米国公認会計士 秦 正彦

Ernst & Young LLP(米国)国際税務パートナー 日本企業サービス(JBS)タックス・グローバル/全米統括。25年以上にわたり日本企業の海外事業に国際税務コンサルティングを提供。法人税、パススルー、クロスボーダー取引、企業再編、外国人の米国個人所得税、その他幅広い分野に係るコンサルティング実績を多数有する。

EY税理士法人 米国公認会計士 野本 誠

EY税理士法人 パートナー 国際法人税務アドバイザリー・リーダー兼トランザクション・タックス・アドバイザリー・リーダー。約30年間の米国での実務経験に基づき、M&A、内部再編、海外投資案件に関する税務アドバイスを提供。組織再編、パートナーシップ税制、租税条約、移転価格税制等をはじめとする米国税務ならびに国際税務問題について多くの経験と実績を有する。

Ⅰ 税制改正とクロスボーダー課税

2017年12月22日に米国連邦税法を大幅に改正する「The Tax Cuts and Jobs Act(以下、TCJA)」が成立しました。TCJAはレーガン政権による1986年税制改正以来30年ぶりの抜本的改正とよくいわれていますが、クロスボーダー課税に関しては、CFC課税(米国外子会社の特定の所得を米国株主側で合算する制度)の導入で知られるケネディ政権による1962年税制改正以来、実に60年ぶりの抜本的改正と位置付けることができます。
TCJAでは、改正前の全世界課税制度下で米国多国籍企業が米国外に蓄積してきた留保所得を低税率で一括課税(Transition Tax)し、過去の課税関係をいったん精算した上で、2018年課税年度から新たな制度をスタートさせています。TCJAで導入されたクロスボーダー課税の中心規定は全世界連結納税制度ともいえる「米国外軽課税無形資産所得(以下、GILTI:Global Intangible Low-Taxed Income)合算課税」、米国法人による米国外顧客との取引に優遇税率を適用している「外国派生無形資産所得(以下、FDII:Foreign Derived Intangible Income)控除」、Base Erosion対策の「税源浸食濫用防止税(以下、BEAT:Base Erosion and Anti-Abuse Tax)」です。これらのクロスボーダー新規則は、35%から21%に引き下げられた連邦法人税率や支払利息損金算入制限とならび、米国多国籍企業、日本企業を含むインバウンド企業のクロスボーダー課税に大きなインパクトを与えるものです。これら複数の規定は複雑にオーバーラップしているため、プラニングを策定する際に各規定を個別に検討しても全体像が分からず、総合的なモデリングに基づく複合的な分析が求められることがTCJAクロスボーダー課税の把握を困難にしている理由の一つとなっています。
これらの新規定には多くの不明点があり、税制改正成立直後から米国財務省が多くの規則を作成しガイダンスを公表し続けています。財務省規則は、いずれもいったん草案という形で公表され、パブリックコメントを反映した上で最終化されます。クロスボーダー課税に関する財務省規則のうち、Transition TaxとGILTIに関する規則はすでに最終化されていますが、FDII控除、BEAT、また外国税額控除に関する規則は本稿の執筆時点では規則草案の状態です。
米国多国籍企業や米国に投資する外国企業は、TCJA成立当時から税制改正のインパクトを試算していますが、その際に米国で話題となることが多い項目は、次の通りです。

  • 外国税額控除の最大限化によるGILTI合算の弊害の最小限化
  • グローバル・グループ内の資金調達国の再検討に基づく支払利息損金算入の最適化
  • サプライチェーンやコストシェアリングの見直しを含む米国外関連者への支払い方法のレビューや、ロイヤルティーの棚卸資産への資産計上等を通じたBEAT対策

無形資産の米国への移管は、それに伴うBEATやGILTIの弊害発生の懸念があり、当初期待されたほど実行されていないように見受けられます。
財務省規則はおのおの数百ページに及ぶ膨大なボリュームであり、かつ内容も複雑ですが、税制改正のインパクト検討、プランニング時には公表済みのガイダンスの十分な理解が不可欠となります。限られた紙面で規則の内容を説明するのは困難ですが、2018年12月13日に公表された日本企業の関心が高いBEAT財務省規則草案で明確となった幾つかの取り扱いを紹介します。

Ⅱ BEAT財務省規則草案

BEATは外国関連者への支払いを通じて米国課税所得を圧縮するいわゆるBase Erosionに定量的メカニズムで網を掛ける目的で制定されています。具体的には、外国関連者に対する特定の支出(Base Erosion Payment)に起因する損金算入額(Base Erosion Benefit)および繰越欠損金使用額のBase Erosion%相当を加算調整した「修正課税所得」に5%(2018年)、10%(2019年から2025年)、12.5%(2026年以降の課税年度)のBEAT税率を乗じ、BEAT税額が通常の法人税額を上回る場合に超過額を「BEATミニマム税」として課税するという規定です。銀行および証券会社は税率がプラス1%となります。
BEATの適用対象となる納税者は、過去3年間の平均総売上が5億ドル以上(売上基準)およびBaseErosion%(損金算入額に占めるBase Erosion Benefitの比率)が3%以上(銀行および証券会社は2%以上)の法人ですが、売上およびBase Erosion%は、「特定合算グループ」と呼ばれる50%超の直接もしくは間接的な資本関係にある米国法人および外国法人の米国支店を「単一納税者」として取り扱って計算します。特定合算グループを構成する法人は、各課税年度末時点で確定されることから、M&A等で課税年度の途中で新たにグループに加入する法人も他のグループ法人と同様に特定合算グループのメンバーとなります。従って、売上基準の判断時には、課税年度末に特定合算グループメンバーとなる法人に関しては、たとえ過去3年間を通してグループ法人でない場合も、過去3年全ての売上を加味する必要があります。また、特定合算グループ内に異なる課税年度を持つ法人が存在する場合、売上基準およびBase Erosion%基準は、常に算定を行う法人の課税年度に基づき数字を合算する必要があります。例えば、3月決算の米国法人が12月決算の特定合算グループメンバーを持つ場合、12月決算のメンバーの4月から3月までの数字を合算して基準額を算定する必要があります。逆に、12月決算の法人は3月決算の特定グループメンバーの1月から12月の数字を合算する必要があります。特定合算グループ内に異なる課税年度を持つ法人が存在する場合には、コンプライアンス負荷が高い規定といえます。
Base Erosion Paymentは、外国関連者に支払われる損金算入可能な支出、償却対象となる有形・無形資産の取得対価、再保険プレミアム等で主に構成されますが、ここでいう支出や対価は現金である必要はないと規定されています。例えば、米国税法上の適格現物出資、適格清算、組織再編等を通じた外国関連者からの資産取得も課税取引と同様にBase Erosion Paymentを構成すると規定されています。例外的に、外国関連者からの分配は、米国法人側からの支払対価が存在しないため、現物分配を通じた資産取得はBase Erosion Paymentには当たりません。
2017年12月31日以前に開始する課税年度に発生している支出はBase Erosion Paymentとはならない点が確認されました。例えば、2017年12月31日以前に開始する課税年度内に外国関連者から資産を取得した場合、取得対価の支出はBase Erosion Paymentとならず、当該資産から2018年1月1日以降の課税年度に計上される償却費用はBase Erosion Benefitには当たらないことになります。
また、(旧)163条(j)(アーニングス・ストリッピング規定)に基づき、外国関連者に対する支払利息が非適格支払利息として損金不算入となり2017年12月31日以前に開始する課税年度から繰り越されている場合、2018年1月1日以降の課税年度に(新)163条(j)に基づき損金算入されたとしても、当該損金算入額はBase Erosion Paymentとはならないという納税者に有利な新解釈が規定されています。
これらの規定は現時点では草案ですので、最終化される際に変更が加えられる可能性があります。

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