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消費税の軽減税率制度導入 後編

2019年6月30日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2019年7月号 Tax update

EY税理士法人 荒木 知

2018年、EY税理士法人に入所。タックス・ポリシー・アンド・コントロバーシー・チームのディレクター。国内および海外における税制モニタリングや税務調査を含む税務当局対応を担当している。前熊本国税局調査査察部長。一橋大学博士(経営法)。

Ⅰ 消費税率引き上げ

2019年10月1日から、消費税及び地方消費税の税率が8%から10%に引き上げられる予定です。税率引き上げと同時に、引き上げられた10%の標準税率とは別に8%の軽減税率制度が導入されます。
この消費税率引き上げ及び軽減税率導入は、税を負担する消費者及び納税義務を負う事業者に大きな影響を与えます。まず、多くの人が関心を持つ何が軽減税率の対象になるのかについて、前号(本誌 19年6月号)の前編で紹介しました。本稿では、税率が複数になることによりもたらされる請求書の記載方法や様式といった事業者の経理へのインパクトに焦点を当てます。

Ⅱ 区分経理のための制度

13年1月にとりまとめられた平成25年度与党税制改正大綱においては、軽減税率の導入が目指されるのと並行して、「インボイス制度など区分経理のための制度の整備」や「中小事業者等の事務負担増加」等が協議すべき課題として挙げられており、軽減税率導入と複数税率に対応した区分経理とがセットで論じられてきました。
消費税における前段階税額控除(仕入税額控除)については、いわゆる「インボイス方式」ではなく、「請求書等保存方式」が採用されてきました。しかし、複数税率制度の下では、例えば「売り手が軽減税率で申告し、買い手が標準税率で仕入税額控除をする」といった事態が発生しないよう、事業者間の相互牽(けん)制により、適正な税額計算を確保するための仕組みが必要になります。
そこで、いわゆるインボイス方式である「適格請求書等保存方式」が導入されることになりました※1。ただし、事業者において相応の準備期間をとる必要があるところから、「適格請求書等保存方式」は23年10月から導入されることになっています。

Ⅲ 19年10月以降の区分記載請求書等保存方式

現在、消費税の仕入税額控除については、一定の帳簿及び請求書等の保存が要件とされています(請求書等保存方式・消費税法第30条第7項)。
19年10月から適格請求書等保存方式が導入される23年10月までの間は、現行の請求書等保存方式を維持しつつ、商品の仕入れが軽減税率の適用対象か否かの区分に係る記載事項を追加した帳簿及び請求書等の保存が要件とされます(区分記載請求書等保存方式)。
具体的には、現行の消費税法第30条第7項及び第8項で求められている記載事項に、次の事項が追加されます※2

【帳簿】

  • 課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合にはその旨

【区分記載請求書等】

  • 課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合にはその旨
  • 軽減税率と標準税率との税率の異なるごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込み)

Ⅳ 適格請求書等保存方式

23年10月以降は、区分記載請求書等の保存に変えて、いわゆるインボイス制度として「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。
適格請求書とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。そして、適格請求書発行事業者のみが適格請求書を交付できます。適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に登録申請書を提出し、登録を受ける必要があります※3
登録申請のスケジュールとしては、21年10月より登録申請書が提出可能であり、23年10月から登録を受ける場合には、原則として23年3月末までに登録申請書を提出する必要があります。

Ⅴ 適格請求書

適格請求書発行事業者には、取引の相手方の求めに応じて、適格請求書を交付する義務及び交付した適格請求書の写しを保存する義務が課せられます※4
そして適格請求書発行事業者は、以下の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類を交付しなければなりません(<図1>参照)。

図1 適格請求書の記載事項イメージ

① 適格請求書事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
④ 税率ごとに合計した対価の額及び適用税率
⑤ 消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

とりわけ、適格請求書等保存方式については、導入が23年からということもあり、今後新たな法令改正や国税当局からの情報発信による取り扱いの明確化が行われる可能性が高いと考えられます。今後の動向に注意を払う必要があります。

※1 財務省「平成28年度税制改正の解説」-上竹他「消費税法等の改正」774ページ

※2 国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(制度概要編)」(平成30年1月改訂)13ページ

※3 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)第5条による消費税法第57条の2

※4 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)第5条による消費税法第57条の4

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