国際送金事業におけるデジタル・トランスフォーメーション
情報センサー2019年6月号 Trend watcher
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 末永 宣之
外資戦略コンサルティングファームを経て、EYパルテノンに参画。商社・金融・製造・流通・ハイテク業界のクライアントに対して、成長戦略、M&A、事業統合、企業変革に関わるコンサルティング業務に従事。近年は、デジタル・トランスフォーメーション・イノベーション領域での戦略策定に注力している。
Ⅰ 成長する国際送金市場
国際送金とは、電信送金以外の方法で、国をまたぎ送金をするサービスの総称をいいます。本稿では、個人対個人の送金を想定していることをあらかじめお断りします。
世界の国際送金額は2017年度で約6,248億米ドルあり、1990年以降年平均9%で成長しています(<図1>参照)。最大の送金仕向け国は米国、被仕向け国はインド、中国、フィリピン、メキシコです。
国際送金市場が成長してきた背景として、グローバル化の進展による外国人労働者や移民の母国への送金需要の高まりがあります。国連の統計によると、移民者数は17年時点で約2億5,800万人おり、1990年以降年平均2%で増加しています。
日本における17年度のアウトバウンド送金額は約528億米ドル、インバウンド送金額は約444億米ドルですが、在留外国人の増加や訪日外国人旅行者数の増加と共に、国内事業者にとっての国際送金需要の拡大が見込まれています。
法務省によると18年6月現在、在留外国人は約263万人おり、毎年約7万人増加することが見込まれています。また、オリンピック、大阪万博を通じて訪日外国人旅行者数が年々増加することが予測されており、観光庁は18年現在で3,119万人の訪日外国人旅行者数を30年に6,000万人に増やす目標を立てています(<図2>参照)。
Ⅱ デジタル・テクノロジーの進化と新たな国際送金サービスの出現・拡大
国際送金サービスの分野において、グローバルでは新たなサービスが次々に出現・拡大しています。
現在、最も多く利用されている国際送金サービスは、銀行によるSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication:国際銀行間通信協会)です。銀行顧客が支店窓口やATMで自らの預金口座に入金し、銀行はSWIFTのシステムと通信回線を通じて送金指示を行い、相手方の銀行口座に資金を送る仕組みです。現在、全世界200以上の国・地域で11,000以上の金融機関がSWIFTで結ばれており、あらゆる国際決済がSWIFTを通じて行われています。
SWIFTは企業間の大口送金・決済を処理できるよう設計されたインフラであり、小口送金中心の個人間送金では必ずしも使い勝手が良くないことがあります。SWIFTには不正やマネーロンダリング対策のために顧客の身元確認や発注内容チェックなどのコストがかかっており、それが手数料や送金リードタイムに反映されています。また、銀行口座の保有を前提としているため、銀行口座保有率が低い国や銀行支店網がカバーされていない地域での資金受取りが不便なことがあります。
銀行口座非保有者をターゲットとして参入・成長してきたのが送金専業者です。送金専業者は両替所や小売店などと代理店契約を結んで店舗網を張り巡らせ、自社で一定資金をプールして送金注文を一時的に肩代わりし、受取顧客の即時引き出しを可能にする送金インフラを自前で構築し、廉価に海外送金ができるようにしました。
2000年以降、インターネットバンキングの進展と共に、実(リアル)店舗網を持たず、資金の預け入れと引き出しをインターネット上で行うことで送金コストを引き下げるネット系送金事業者が出現しました。米国系大手A社はネットオークションサイトの顧客基盤をベースに、メールアドレスで自分のネット決済口座から相手のネット決済口座に送金する決済インフラを提供しています。
10年前後からITテクノロジーを駆使して送金者と受取者をマッチングするFinTech事業者が急速に成長して着目を浴びています。事業者Bは、P to P(個人間金融)の仕組みを利用し、多数の国の顧客同士の国際送金をネッティングすることで実質的に資金が国境を超えない仕組みを構築し、為替手数料を0%とした海外送金サービスを提供しています。
また、携帯電話・スマホの爆発的な普及に伴い、被仕向け国(主に新興国)の携帯通信会社やモバイル決済企業が自らの顧客基盤を活かし、国際送金ビジネスへ積極的に参入を進めています。
携帯通信会社は携帯電話番号を、モバイル決済企業は登録会員IDを送金アドレスとし、通話料金や電子商取引の決済口座の活用を促進することで、現金の入出金行為そのものを不要とするビジネスモデルを拡大しています。
英国の携帯通信会社Cグループや仏D社などがアフリカ各社の通信企業と組み、モバイル送金サービスを拡大しています。モバイル決済サービス分野においては、中国企業が急激に成長しています。E社はタイ、フィリピン、インドネシア、インドで現地モバイル決済大手企業への出資や財閥系金融機関との提携を進め、ASEANにおける決済インフラ基盤を拡大し、国際送金サービスへの参入を虎視眈々(たんたん)と狙っています。
SNS基盤上で決済サービスを展開する中国F社は15年に米国送金事業者最大手と提携し、米国の同社サービス利用者が約200カ国へ送金できるサービスを開始しました。
Ⅲ 戦いはどこへ向かうのか
現在、グローバルでは、銀行、送金専業者、金融機関以外の事業者同士の相互連携や、FinTech企業への出資・買収などが急速に進んでおり、戦いのステージは事業者単独同士の戦いから金融プラットフォーム・エコシステム同士の戦いに移っています。日本国内でもグローバルと同様のケースが想定され、競争はさらに激化するでしょう。
多くの顧客はインターネット上の比較サイトで各社の為替レート、手数料、送金リードタイム、サービス等を比較し、送金額、用途、利便性などによって最適なサービサーを選択しています。
競争に勝ち抜き、顧客に選ばれるためには、革新的なデジタル・テクノロジーを取り込み廉価で安全な送金インフラのプラットフォームを構築すること、および消費者一人一人の国際送金データを含めた活動データを分析・洞察し、パーソナライズしたサービスを提供することがポイントとなってくるでしょう。
【参考文献】
World bank「Remittance data Dec.2018」
UN「International migrant data 2017」
法務省「在留外国人統計2018年6月」
観光庁「訪日外国人旅行者数統計2018年」「観光白書平成30年版」
SWIFT、各社開示情報