子会社株式に係る簿価修正と税効果会計
情報センサー2019年5月号 押さえておきたい会計・税務・法律
公認会計士 太田 達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。
Ⅰ はじめに
昨年2月16日付で「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)の改正が行われました。その改正において、個別財務諸表における子会社株式および関連会社株式(以下、子会社株式等)に係る将来加算一時差異の取扱いについて、個別財務諸表の取扱いを連結財務諸表の取扱いと同様とする改正が行われています。
子会社株式等に係る将来加算一時差異が生じるケースの一つとして、グループ法人税制における子会社株式に係る簿価修正が挙げられます。
本稿では、子会社株式に係る簿価修正とそれに係る税効果会計の処理について、具体的な設例を交えて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。
Ⅱ 税効果適用指針の改正内容
1. 改正の内容
改正前の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異について、企業が清算するまで課税所得が生じないことが合理的に見込まれる場合を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていました。
改正後は、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社および関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社または投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合は、繰延税金負債を計上しないとされました(税効果適用指針8項(2))(<表1>参照)。
平成30年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています。
2. 適用初年度の取扱い
これまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱います。当該取扱いに関し経過的な取扱いは定められていないため、新たな会計方針を過去の全ての期間に遡及(そきゅう)適用することになります。
例えば、会社法の計算書類を例にしますと、前期末に子会社株式等に係る将来加算一時差異について繰延税金負債を計上していた場合であって、かつ、改正後の取扱いを適用したときに計上しないこととなるものがあるときは、当事業年度の期首の日付でその繰延税金負債を取り崩します。
この場合、当事業年度の株主資本等変動計算書において、当期首残高の次に、「会計方針の変更による累積的影響額」と記載した上で、繰越利益剰余金に増加額を記載することが考えられます。
また、有価証券報告書については、前々期末に計上しているものがあって、改正後の取扱いを適用したときに計上しないこととなるものがあるときは、前期の期首の日付でその繰延税金負債を取り崩し、前期の財務諸表を組み替えることが考えられます。
Ⅲ 子会社株式等に係る将来加算一時差異が生じる取引
子会社株式等について将来加算一時差異が生じる取引として、具体的にどのようなものがあるのかが問題となります。次のような取引が考えられます。
- グループ法人税制の適用により、法人による完全支配関係がある場合の子会社において、完全支配関係がある他の法人に対する寄附金が生じたことにより、親会社において子会社株式の簿価修正が行われた場合※1
- 子会社においてその他資本剰余金を原資とした剰余金の配当が行われた場合※2
- 株式交換により子会社株式を取得したとき(会計上の取得価額が税務上の取得価額を上回る場合※3)
本稿では、上記のうちのグループ法人税制の適用により、親会社において完全支配関係がある子会社の株式につき簿価修正が行われた場合を説明します。
Ⅳ 完全支配関係にある法人間の寄付金と子会社株式の簿価修正
1. 寄附金の損金不算入・受贈益の益金不算入と子会社株式の簿価修正
グループ法人税制の適用により、内国法人が当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る)がある他の内国法人に対して支出した寄附金についてはその全額が損金不算入となるとともに(法法37条2項)、当該他の内国法人が受けた受贈益についてその全額が益金不算入となります(法法25条の2)。
完全支配関係がある法人の株式を所有する株主法人は、その株式の投資先の法人において上記の規定の適用を受ける寄付金または受贈益があったときに、投資簿価の修正および利益積立金額の加減算調整を行うことが必要とされています(法令9条1項7号、119条の3第6項)。
株主法人において「受贈益×当該寄附金修正事由に係る持分割合※4-寄附金の額×当該寄附金修正事由に係る持分割合※4」の額について、利益積立金額の調整が必要になり、同額について株式の帳簿価額に加減算する必要があります。
なぜこのような簿価修正の処理が要求されているかですが、子会社が、完全支配関係がある他の法人に対して寄附金を支出し、資産を流出させることにより、親会社がその後に子会社株式を低い時価で譲渡することによる譲渡損の計上などの租税回避行為を防止する趣旨があると考えられます。この場合、子会社株式の簿価が減額修正されていれば、譲渡損は生じないことになります。
2. 簿価修正の実務
上図のケースでは、A社が保有するB社株式について100%の持分割合を考慮して、また、C社株式について65%の持分割合を考慮して計算します。また、B社が保有するC社株式について35%の持分割合を考慮して計算します。
【A社の調整】
【B社の調整】
上記のように、B社はC社の株式を35%しか直接所有していませんが、B社にとってC社は完全支配関係がある他の法人に該当しますので、その35%に相当する割合で調整を行うことになります。
また、簿価調整は、直接の株主法人の段階での調整(第1次調整)のみに留められています。
3. 申告調整例
子会社株式の簿価修正は専ら税務上の取扱いであって、会計上簿価修正は行われませんので、申告調整により対応することになります。
先の例において、A社においては、<資料1>のように申告調整を行うことになります。
上記の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高マイナス100は、将来においてB社株式を譲渡したときに、別表四に100の加算(留保)が入ることで消えます。従って、税効果会計における将来加算一時差異に該当します。税効果適用指針の改正により、繰延税金負債を計上しない場合が生じ得る点に留意する必要があります。
一方、「差引翌期首現在利益積立金額」の残高65は、将来においてC社株式を譲渡したときに、別表四に65の減算(留保)が入ることで消えます。従って、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるものについては繰延税金資産を計上します。
また、先の例において、B社においては、<資料2>のように申告調整を行うことになります。
上記の「差引翌期首現在利益積立金額」の残高35は、将来においてC社株式を譲渡したときに、別表四に35の減算(留保)が入ることで消えます。従って、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるものについては繰延税金資産を計上します。
Ⅴ 資産の低廉譲渡と税効果の処理
子会社株式の簿価修正は、完全支配関係がある法人間において、資産の低廉譲渡(または高額譲渡)が行われた場合にも必要となる点に留意する必要があります。土地の低廉譲渡の場合を例として、以下設例により解説します。
設例 時価と異なる価額で譲渡した場合(土地の低廉譲渡の場合)
A社(3月決算)は、完全支配関係がある子会社であるB社が保有していた土地(帳簿価額5,000万円、時価6,000万円)を帳簿価額5,000万円で譲り受けました。会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額は同額であるとします。また、A社とB社は直接保有割合で100%の親子関係であるとします。
以上の前提条件のもと、土地の譲渡があった事業年度のA社およびB社の会計処理および税務処理ならびに申告調整例を示してください。
<解 答>
1. A社の処理
(1) 会計処理(単位:万円、以下同じ)
会計上は、時価と取得価額との差額に相当する受贈益を特に認識しないで、実際の取得価額で受入処理したものとします。
(2) 税務処理
税務上の譲渡対価の額はあくまでも時価6,000万円であり、6,000万円から5,000万円を控除した1,000万円を受贈益として取り扱います。併せてA社とB社は完全支配関係にあるため、その受贈益1,000万円を全額益金不算入とします。
また、B社からA社に対する寄附によって、B社において全額損金不算入となる寄附金が発生したため、A社においてB社株式の簿価修正(減額修正)を行う必要が生じます。
別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」のB社株式に係るマイナス1,000万円の調整は、翌期以降にA社がB社株式を譲渡したときに、別表四に加算(留保)が入ることにより解消する差異であり、将来加算一時差異です。税効果適用指針の改正により、繰延税金負債を計上しない場合が生じ得る点に留意する必要があります。
別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」の土地に係る1,000の調整は、翌期以降に土地を譲渡したときに、別表四に減算(留保)が入ることにより解消する差異であり、将来減算一時差異です。繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると判断される場合に繰延税金資産を計上することになると考えられます。
2. B社の処理
(1) 会計処理
会計上は、時価と譲渡価額との差額に相当する寄附金を特に認識しないで、帳簿価額で譲渡したものとして処理したものとします。
(2) 税務処理
税務上の譲渡対価の額はあくまでも時価6,000万円であり、6,000万円から帳簿価額5,000万円を控除した1,000万円を譲渡利益額として取り扱います。併せてA社とB社は完全支配関係にあるため、その譲渡利益額1,000万円を繰り延べます。
一方、時価6,000万円の土地を5,000万円で譲渡しているため、差額の1,000万円はB社からA社に対する寄附金として取り扱うことになります。その寄附金1,000万円は、全額損金不算入扱いとなります。
別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」の譲渡損益調整勘定に係るマイナス1,000万円の調整は、翌期以降に譲受法人A社が当該土地を他の者に譲渡したり、A社とB社との間の完全支配関係が解消されるなど、繰り延べた譲渡損益に係る一定の戻入事由(法法61条の13第2項から4項)が発生したときに、別表四に加算(留保)が入ることにより解消する差異であり、将来加算一時差異に該当します。ただし、税効果適用指針の改正は、子会社株式等に係る将来加算一時差異についての改正であるため、本項目に関係はなく、基本的に繰延税金負債を計上することになると考えられます。
(注) 文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
法法:法人税法
法令:法人税法施行令
※1 税務上は子会社株式の簿価の減額修正が行われるが、会計上の簿価は変わらない。
※2 どのような仕組みで将来加算一時差異が生じるかについては、当法人のウェブサイト「太田達也の視点」2019年1月7日付掲載分にて記載。(www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/ota-tatsuya-point-of-view/2019-01-07.html)
※3 同上「太田達也の視点」15年7月1日付掲載分に示している設例はこのケースに該当。(https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/ota-tatsuya-point-of-view/2015-07-01.html)
※4 親会社が保有する子会社株式数/子会社の発行済株式数