寄稿記事
掲載誌:2023年2月6日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人
多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める中、企業の税務部門のDXが遅れています。管理系の業務として十分な予算が取りにくいという制約もありますが、立ち遅れが許されない状況が迫っています。
企業の税務部門のDXが急がれる背景の一つに、各国の税務当局がDXを進めていることがあります。日本も「税務行政DX」と銘打ってデジタルツールの積極活用などを打ち出し、人工知能(AI)や分析ツールも活用して課税や徴収の効率化や高度化に努めています。
企業にとっては、企業の税務リスクが税務当局のAIなどによってどう判断されたのか理解できないままでいることは、税務リスクに関する情報の非対称性が拡大することとなり、好ましい状況ではありません。これを解消するためにも、企業の税務のDXを積極的に進めるべきです。
税務業務を担う組織の継続性の観点も重要です。少子高齢化で生産労働人口の減少が加速していますが、専門家、いわゆる士業を目指す若者はそれ以上の速さで減少しています。
税務は極めて高度な専門的な業務であり、税理士試験を目指す若年者層は企業内でも将来を担う有望な人材供給源となりますが、その絶対数の維持が困難になっています。若手には現場作業から入り徐々に高度な判断作業も担ってもらうといったこれまでの育成方法は早晩難しくなるでしょう。現場の作業はテクノロジーを活用して自動化、高度化する必要があります。
テクノロジーの進化に伴い、従来なかったさまざまなデジタル取引が広がっています。しかしながら、税務をはじめとする法制度はその変化に十分対応しきれていません。
例えば、税務に関して回答するAIが、税理士法での税理士の独占業務を阻害するかどうかなどの論点はまだ十分議論がなされていません。すでにさまざまなツールが先行するリーガルテックでは、AIによる契約書チェックは弁護士と弁護士法人以外による法律業務を禁じた弁護士法72条違反の可能性があると、法務省が指摘しています。まだ結論は出ていませんが、税務の世界でも税理士法のあり方などの論点を早急に整理し、テクノロジーの進化とその活用を阻害することがないよう制度の整理を進めることが望まれます。
ブロックチェーン(分散型台帳)などの新たな取引についても日本では税制などが足かせとなっている状況もあります。諸外国の多くは暗号資産(仮想通貨)などの取引がキャピタルゲイン(売却益)の対象となりますが、日本は原則、雑所得に区分されるためキャピタルゲインに比べ税務上不利になる場合が多いです。
このため次世代インターネット「ウェブ3」に取り組む日系の新興企業の中には海外で事業を開始する状況も起きています。新たな産業の育成、創造を税制などが阻害してしまう状況は、改善が求められるところでしょう。
(出典:2023年2月6日 日経産業新聞)
税務テクノロジーとデータ
テクノロジーは、税務がグローバルなデジタル経済の要件に応えるため、新たなデジタル税務の作業を定義して支えています。税のビッグデータ管理により、効率的なコンプライアンスが可能となり、戦略的なビジネスの意思決定を円滑に進めることができます。
デジタルタックス
デジタル とは、ダイナミックかつ広範な破壊的変化をもたらすメガトレンドであり、未来への出発点でもあります。企業がデジタル社会で存続し、競合し続けるためにビジネスのあらゆる側面で変革に取り組む中、世界のあり方が同じままであることは決してないでしょう。
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