寄稿記事
掲載誌:2023年1月30日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 岡本 強
デジタル技術の進歩や少子高齢化、新型コロナウイルス禍などを背景に、さまざまな分野でパラダイムシフト(枠組みの転換)が加速する中、労働力不足が課題として浮き彫りになっています。これに対応するには、企業の業務のアウトソーシング(外部委託)をさらに一歩進める必要性が出てきています。
労働市場では売り手優位の状況が続き、企業の要求水準を満たす人材をタイムリーに採用することが難しくなっています。採用できても定着率が上がらず企業の採用担当や事業責任者を悩ませています。企業は新たな事業領域へのシフトを含むリソース(資源)の再配置を進めていますが、人材の補充が不十分なため「本来やるべき最低限のことにすら手が回らない」事態に陥っています。
バックオフィス業務をみると、一定規模以上の企業グループでは、社内にグループ企業の経理や人事の業務などのコーポレート業務を担う組織「SSC(シェアードサービスセンター)」をもつ場合が多いですが、実態はグループ内で共通する機能の集約にとどまり、効率化・最適化にはつながっていないケースが多くみられます。
大量採用時代の社員が徐々に定年を迎えて会社を去る一方、新規採用は凍結・抑制しているケースが多く、SSCも高齢化・高コスト化・硬直化が進み、大きな課題となっています。リスキリング(学び直し)やアップスキリング(スキルの向上)も期待通りの成果が上がっているとは言い難く、自前主義は限界に達しつつあります。
こうした課題を解決する手段の一つとなるのが、アウトソーシング(外部委託)です。コロナ禍でテレワークが広がり、企業のアウトソーシングに対する抵抗感も少なくなりました。労働関連法規の改正も追い風となって、アウトソーシングに対する需要は拡大しています。
アウトソーシングの対象はこれまで税務を含め定型化・標準化された業務が中心でしたが、昨今はより難易度が高く意思決定に近い業務領域へと広がってきています。
すでにアウトソーシングを活用する企業では、業務領域ごとに複数に分かれていた発注先を総合的なソリューションを提供できるベンダーに統合することで、さらなる最適化を進める動きもみられます。
外部リソースへの期待が高まる中、アウトソーシングベンダーは企業の単なる外部委託先ではなく信頼できるビジネスパートナーとして、テクノロジーの活用を進めて対象業務の品質やコストをプロアクティブ(先取り的)にマネージしていくことが求められるようになりました。これらの自律的な管理・運用をベースとした包括的なサービスは「マネージドサービス」と呼ばれ、単純にコスト重視で一部の定型業務を切り出す伝統的なアウトソーシングとは一線を画しています。
労働力不足の問題が長期的、構造的な問題であることを考えると、マネージドサービスへの期待は今後飛躍的に高まることが予想されます。
(出典:2023年1月30日 日経産業新聞)
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昨今の税務・財務部⾨は、さまざまなプレッシャーにさらされています。企業は、グローバルな税制改正についての最新情報に通じ、常に最善のテクノロジーの活用を可能とし、将来必要となるスキルを有するプロフェッショナルな⼈材を採⽤し、定着させる必要があります。また、リスクや規制が急速に変化する中、コストを削減しながら、少ないリソースで処理能力を高め、さらなる価値を提供しなければならないという無理難題にも直面しています。