寄稿記事
掲載誌:2023年1月23日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 塩島 一茂
長引く新型コロナウイルス禍で苦境に立たされた企業が減資する事例が増加しています。資本金を1億円以下に減資して税務上の優遇措置を受けられるようにしてキャッシュフロー(現金収支)を改善するのが目的です。
従来、とりわけ大企業は適切な納税という社会的責任を果たすことが求められ、税負担の軽減を理由に減資するのは好ましくないと考えられてきました。
しかし、昨今の経済・社会情勢下で経営目標を達成するために、税をコストの一部と捉えて適切な税制を選択することは一つの合理的な戦略と見られるようになってきています。
子会社・関連会社をもつ企業はグループ全体の財政状態や経営成績を連結財務諸表で開示しますが、株主などが注目する自己資本利益率(ROE)は税引き後利益から計算するため、税金費用の適正化はROEの向上にもつながります。
実際の納税額は開示されませんが、実効税率(実際の税負担率)は税引き前利益に対する法人税などと法人税等調整額の合計額の割合から算出できます。実効税率が高止まりしている場合には、その要因を分析し、適正化の可能性を検討することが重要となります。検討する際は、対象を親会社単独ではなくグループ全体とする必要があります。
グループを構成する各社は個別に税務申告・納付するのが原則ですが、日本では多様なグループ経営の形態に対応するため、2001年度に「組織再編税制」、02年度に「連結納税制度」、10年度に「グループ法人税制」が導入されアップデートされてきました。
これらの税制は、グループ内での経営資源の再配置、商流や資本構成などグループの事業形態を変更する際の税金費用に影響します。適用を誤れば思わぬ納税額が発生する一方で、税金費用の適正化の手段の一つにもなり得ます。
例えば、減資の例では、減資した企業だけでなく、その100%子会社も税務上は中小企業に分類されるようになり優遇措置の適用を受けられる場合があります。
グループ内に新規事業の立ち上げ段階の会社や原材料費の上昇などで赤字基調の会社がある場合には、グループ内で損失の共同利用が可能となる「グループ通算制度」の適用も選択肢の一つとなっています。
制度の複雑さから申告事務の負担が大きいと言われていた連結納税は制度が簡素化されて22年度からグループ通算制度に改組されており、旧制度から移行した企業を含め22年6月末時点で約2000グループ・1万8000社が適用を選択しています。
親会社がグループ各社の税務の状況を把握して適切な税制を選択することは、税務リスクの低減や税務ガバナンスの強化にも寄与します。
連結経営における親会社によるグループ全体の税務戦略の重要性は、税制の複雑化とともに増しています。
(出典:2023年1月23日 日経産業新聞)