寄稿記事
掲載誌:2023年1月20日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 西 康之
税務ガバナンス(統治)は、企業のサステナビリティ(持続可能性)指標やESG(環境・社会・企業統治)格付けの評価指標に組み込まれています。税金費用(法人税や付加価値税など)は、企業業績を示す自己資本利益率(ROE)を計算する際のコストであり、企業価値に影響する要素の一つです。
企業業績を高めるには、売上高の増加や原価の削減に加え、税金費用の適正化も欠かせません。税金費用を管理する税務ガバナンスには、企業価値の毀損を抑制する「税務コンプライアンス」(適正な納税)と、企業価値の最大化を後押しする「税務プランニング」(税金費用の適正化)があります。
親子会社間の取引価格を対象とする多額の移転価格課税の例は国内外で依然多いです。日本企業による海外企業の買収が増え、買収後に海外企業の不正会計や課税リスクが顕在化する例もあり、課税に関する情報開示やステークホルダー(利害関係者)への説明に企業は悩まされています。
情報開示に関して、欧州連合(EU)は企業グループの国別報告書(Public CbCR)の外部開示の制度化を予定しています。企業のウェブサイトを通じ企業グループの欧州各国の利益や納税状況などの開示を求めるもので、取引先や投資家が関心を持つ可能性があります。グループ内の取引価格や利益配分の決定、買収企業の管理は、税務部門より事業部門が中心であることが多く、全社的な税務コンプライアンスへの協力が欠かせません。
企業にとって、どの国に開発、製造、販売の拠点を持ち、どのようなサプライチェーン(供給網)を構築するかは税務上も重要です。進出国次第で税率が変わり、モノが動けば付加価値税や関税、移転価格が関わり、拠点を持たずに事業活動をする場合でもデジタル課税が関わってきます。
予期せぬ税金費用の発生を抑える税務コンプライアンスに加え、十分なキャッシュフロー(純現金収支)を確保するために税金費用を適正化する税務プランニングの取り組みも欠かせません。
経済協力開発機構(OECD)加盟国を含む各国・地域の税務当局間で合意したデジタル課税やグローバルミニマム課税などの新たな税制の導入が予定されるなど、税制のグローバル化や複雑化が過去に例を見ないスピードで進んでいます。このような世界で進む税制の急速な変化に対応するには、企業の統一的な行動規範に基づく業務遂行が不可欠で、企業は外部開示も念頭に税務方針・戦略の策定を進めています。
国際税務ガバナンスは、企業の税務部門と事業部門の双方が関心を持って取り組むべき分野であり、また、税務は各国の子会社任せではなく親会社主導のグローバルな管理が必要な分野であるという意識改革が求められています。
(出典:2023年1月20日 日経産業新聞)