寄稿記事
掲載誌:2023年1月19日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 関谷 浩一
近年、国際税務を取り巻く環境が大きく変化しています。日本企業も欧米先進企業並みに税務ガバナンスを強化する必要があります。
税務ガバナンスの目的は、適切な税務申告や税務プランニングを通じて企業グループ全体の税金コストを適正なレベルに管理し、各国の税務当局との係争、税制改正、M&A(合併・買収)などから生じる税務リスクを早期に把握、対処することで、企業価値を維持向上させることです。税務リスクとは主に当局との解釈の違いなどから追徴されるリスクを指します。
最低実効税率15%などのグローバルミニマム課税の導入、新型コロナウイルス禍による各国の財政悪化に伴う新税制の導入で税務コストとリスクを管理する負担は年々増えています。ESG(環境・社会・企業統治)格付けで税務に関する開示要求も強まっており、企業の税務機能には大きな追加投資が必要となっています。
日本企業の多くは、十分な税務ガバナンス体制を構築してきませんでした。このため一気にグローバルレベルの体制を構築する必要が出てきました。トップが関与して全社的なリソースの再配分や機能分担の再設計が必要となっています。
税務ガバナンスを強化するには、組織体制の構築、プロセスの明確化、情報の収集と管理の3つを強化する必要があります。税務ガバナンスのルールを作成し、税務に関する基本方針を定める「グループ税務方針」、責任者、組織、報告ルート、責任範囲などを定める「グループ税務管理規程」、外部に対する「税務開示の方針」、これらを具体化する「運用マニュアル」を整備します。
並行して、税務リスクとコストの見える化を目的とした情報収集を強化します。海外子会社からの定期的な情報収集、税務部門によるりん議書の承認、税務部門の事業部ミーティングへの参加、グローバル税務チームのミーティングの開催などです。子会社が多い場合は、情報の収集や管理へのデジタルツールの導入も必須となります。
基盤が整えば、税務ガバナンスの基本である実効性のある税務コストの構造分析やタイムリーな税務リスクの管理が可能になり、グローバルレベルでの実効税率の管理やグローバルな移転価格管理を目指せるようになります。
税務ガバナンスを効率よく運営するには、外部資源の活用も有効です。先進企業では申告書作成などの定型業務はデジタル対応できる専門家にグローバルで一括してアウトソース(外部委託)し、社内資源はより付加価値の高い業務に活用するのが一般的です。外部の専門家の高度な税務知識やノウハウを税務コストの削減や税務リスクの軽減に活用することも必要です。
税務情報の開示要請や「BEPS(税源浸食と利益移転)」情報の申告、各国税務当局からの資料提出要求に対応しながら、増大する税務コストとリスクを管理し企業価値を維持向上させるには、税務ガバナンスの強化が急務となっています。
(出典:2023年1月19日 日経産業新聞)