鍵となるのは、それぞれのアプローチの長所と短所を見極め、最大の機会を提供してくれる場所を選んで展開し、全ての戦略の最も効果的なバランスを見つけることです。
さらに懸念されることに、事業開発リーダーの半数はこうした非効率性が取引の喪失につながったことがあると回答しました。現在の経済環境において、あらゆる収益の喪失は重大な懸念材料です。
ジェネラルカウンセルはこれらの課題を認識しており、法務部門の日常的な業務がより幅広いビジネス戦略と連携しているとの回答は52%にとどまっています。法務部門はビジネスの付加価値を効果的に生み出しているとの回答も同じ割合となりました。
「成長の実現は、今後12カ月間にわたる決定的に重要な優先事項です」とJohn Knoxは述べています。「成長の機会を最大化するために、法務部門、調達部門、営業契約部門は確実に重要なリスクへの集中とプロセスの最適化を図る必要があります」
CEOの優先事項に対する法務部門リーダーの対応
法務部門リーダーと組織全体のビジネスリーダーは、2021年のCEOの優先事項に対応するために、新たな業務の在り方を受け入れる必要があります。実際に、法務部門の大部分(92%)がすでにさまざまなアプローチを使用して部門の運営方法を変更しつつあると回答しています。
法務部門の半数強(51%)は、具体的な問題に焦点を絞って開発された戦略的ソリューションを導入しつつあります。法務機能を再設計するためのプログラムを実施している法務部門も同じ割合に上ります。30%は、法務機能の各部分を管理するにあたり、外部の法律事務所やオルタナティブ・リーガル・サービス・プロバイダー(ALSP)とのコソーシングまたはアウトソーシング関係の構築を検討しています。
このことだけをもってしても、変革には万能の手段がないことが分かります。実際に、多くの組織は複数の戦略を並行して実行すること、すなわち外部の法律事務所の管理、インソーシング、プロセスやテクノロジーの最適化、コソーシング/アウトソーシングを組み合わせることを選択しています。しかし多くの場合、これらの間における調整、またはどの戦略をいつ使用するかについて、体系的な分析はほとんど行われていません。
外部の法律事務所の利用の最適化
多くの法務部門は、外部の弁護士を利用することにメリット(多大な法務の専門知識がもたらされることを含む)を見いだしています。しかし、一般にこれには多額のコストがかかり、法務部門の予算の大きな部分を占めています。現在のコスト削減環境を踏まえると、法務部門が外部の法律事務所の管理プログラムに目を向けていることは驚くにあたりません。この取り組みの鍵は、これを適切に支援し、全体的なバランスの取れたアプローチの一部として利用することです。
外部の法律事務所の管理プログラムには幅広い戦略が含まれる可能性がありますが、最も広く使用されている戦略は、弁護士報酬を管理すること(時間当たり料金の凍結など)、代替的な弁護士報酬の取り決めの利用を拡大すること、法律事務所との交渉によるより有利な弁護士報酬の獲得に注力することにつながっています。ジェネラルカウンセルの59%は、より有利な弁護士報酬の交渉への注力によって一定のコスト削減の機会が生まれると考えています。
その他のアプローチとしては、外部の法律事務所に関するガイドラインを通じて外部の法律事務所をより厳密に管理すること、法律事務所やALSPの数を削減することによる支出の集約などがあります。ジェネラルカウンセルの72%は、法律事務所数の削減によってコスト削減が達成できると考えています。
しかし同時に、これらの戦略が大幅なコスト削減をもたらすと考えるジェネラルカウンセルは少数派にとどまっています。その理由は、外部の法律事務所の管理プログラムを巡る法務部門の課題から明らかになりました。ジェネラルカウンセルの83%は管理すべき法律事務所数が多過ぎると述べており、81%は既存の法律事務所を効果的に管理するためのリソースを持っていません。また、ジェネラルカウンセルの79%は自社のガイドラインに詳細な規定が欠けていると述べており、85%は法律事務所が自社のガイドラインに従っていないと回答しています。
さらに、上記の戦略は一定のコスト削減を約束してくれるものの、リスクマネジメントの再検討、デジタル化の促進、ビジネスイネーブルメントの取り組みの拡大に関連した法務部門のその他の優先事項を達成するためには、これらの戦略が役立つ可能性は低いと思われます。
Stenbergは次のような見解を述べています。「外部の法律事務所の利用の最適化により、削減したコストを他の分野に振り替える機会が法務部門に生まれます。また、法律事務所数の削減は運営の簡素化につながります。この成果は両方とも法務部門にとって前向きなステップであり、その他の変革の取り組みを確実に成功に導いてくれます」
効果的な内製化の課題
内製化は過去10年間のリーガルマーケットにおいて特に活発に議論されてきたトレンドの1つです。業務を内部に移転させることで、外部の法律事務所への支出を削減することができます。また、より強力なマネジメントやビジネスとのさらなる統合の潜在力がもたらされます。しかし、多くの法務部門において、内製化は同時に課題も生み出しています。
社内への業務の移転がもたらす結果として最も明らかな点は、業務量の増加です。ジェネラルカウンセルは今後3年間に業務量が25%増加すると予想していますが、同じ期間に予想される人員数の増加はわずか3%です。この乖離から、法務部門の76%が現在の業務量への対処は難しい課題であると述べている理由が分かります。
もう1つの課題は、低付加価値とみなされる業務の増加です。法務部門リーダーは、社内弁護士の時間数の5分の1が低付加価値、反復的またはルーティンの職務に費やされていると回答しており、87%は法務部門がこれらの職務に費やす時間が長過ぎると主張しています。
その結果として、47%が低付加価値の業務の増加によって従業員の士気が悪影響を受けていると回答しています。法務部門における人材の維持と開発の重要性を踏まえると、こうした数値は重大な懸念材料となります。
また、法務部門が職務を社内に移転させ、人員数を追加してきたことで、部門の複雑性は増大しました。これにより、コスト管理に直接関連しないCEOの優先事項に対する取り組みは複雑化しています。リスクマネジメントの再検討とビジネスイネーブルメントに関するCEOの優先事項への対応にあたり、内製化は一定のメリットをもたらすものの、複雑性が増大することでこれらの目標に対してマイナスに働く可能性があります。
内製化が全体として良い戦略であったかどうかについては、法務部門リーダーの間で意見が分かれています。78%は内製化がコスト削減の機会をもたらすと考えており、今後3年間に人員数を大幅に増やすことを意図しているリーダーはごくわずかです。この課題に対処するために、法務部門リーダーは、法務部門の運営モデルの最適化に役立つテクノロジーやプロセスの改善に目を向ける必要があります。
業務量への対処
76%の法務部門が、現在の業務量への対処は難しい課題であると回答している。
業務量の増加
75%が、業務量の増加により予算超過になると回答している。
デジタル化および内部プロセスの最適化
法務部門の変革において、テクノロジーが果たすべき役割を軽視することはできません。「テクノロジーは、コスト削減を提供し、コンプライアンスを強化し、法務機能のリスクを低減できるだけではありません」と、EY Global Law LeaderであるCornelius Grossmannは述べています。「テクノロジーは、データ主導型のリスクマネジメントとビジネスイネーブルメントの改善に向けたCEOの優先事項の達成にも役立ちます」
多くの法務部門リーダーは、この分野において、新たなテクノロジーの導入、プロセスの自動化と標準化、ベストプラクティスに関するトレーニングの提供、業務フローの再設計などのさまざまな戦略を展開しています。しかし、これらの戦略の多くは全面的には使用されていないか、またはより幅広い変革の取り組みの一部として使用されていません。
実際に利用されているテクノロジーにおいても、同様の傾向が見られます。例えば、契約締結において、リーダーは幅広いテクノロジーを利用していると回答しています(下図を参照)。しかし、これらのテクノロジーを全面的に利用しているリーダーは少数派にとどまっています。
法務部門と契約部門がより幅広いプロセス改善戦略の導入をためらっている理由の1つに、これらの部門がさまざまな課題に直面していることがあります。例えば、90%が全てのユーザーをサポートするプロセスを識別することの難しさを指摘しており、77%が新たなプロセスの適用に苦心していると回答しています。
また法務部門は、テクノロジーの選定に過度な時間が費やされている、導入に時間がかかり過ぎる、所属する弁護士が導入されたテクノロジーを全面的には活用できていないと回答しています。
法務部門のデジタル化とプロセスの最適化の難しさの根底にあるのは、より幅広い課題、すなわちスキルの不足です。法務部門の83%がプロセスの自動化のために必要とされるスキルが不足していると回答し、41%が法務テクノロジーへの投資に関するケースを策定するためのデータまたは専門知識が不足していると回答しています。
デジタル化とプロセスの改善が法務部門の運営を変革する力を持っていることは広く認識されているものの、その導入においては明らかに障害(全般的な投資不足、スキルの不足、最も効果的なソリューションを識別することの難しさなど)が存在しています。従って法務部門は、テクノロジーとプロセス改善に向けて目標の最適な達成方法(それが社内であろうと、外部のプロバイダーを通じてであろうと)を検討する必要があります。
最も効果的なソーシング戦略の選定
以上の議論の内容から、外部の法律事務所の利用、内製化、テクノロジーの導入にそれぞれメリットとデメリットがあることは明らかです。そこで、多くの法務部⾨にとって、⾃部⾨の強みを⽣かし、対処できない場合により幅広いソリューションに⽬を向ける方法が合理的となります。
このようなソリューションには、自動化されたセルフサービスなどのオプション、ALSPの利用、コソーシング、国内外のCoE(センター・オブ・エクセレンス)の利用などが考えられます。
これらの各サービスの提供手法により、法務機能の最適化と自社組織への価値提供の最大化を目指すジェネラルカウンセルに、機会と課題が生じます。
ソーシング戦略の再検討は、コスト管理にとどまらないメリットをもたらします。新たなサービス提供手法の利用により、ビジネスイネーブルメントを改善し、リスク管理を強化することができます
セルフサービス戦略では、標準化されたリソースや自動化されたプロセスを利用することによって、要求された業務を依頼者個人が自ら完成させることが可能になり、内部または外部のプロバイダーとの協力を通じて管理することができます。このアプローチでは、部門の業務量を削減するとともに、内部のステークホルダーが必要に応じて活用可能なオンデマンドのサービスを作り出すことができます。現在のところ、大規模組織においてセルフサービス化されている法務サービスはごくわずかです。契約締結の分野では広く利用されているものの、セルフサービス化された契約は現在16%にとどまっています。
また、センター・オブ・エクセレンス(またはシェアードサービスセンター)も利用が進んでいないようです。企業の73%が法務機能の支援のために利用していますが、全面的に利用している企業は9%にとどまっています。しかし、センター・オブ・エクセレンスの利用には多くのメリットがあります。最適化された場合には、従来の法律事務所や社内弁護士と比べて低いコストでサービスを提供することができます。これは、低コストの国内外の地域にセンターが設置されている場合に特に当てはまります。
一部の組織ではその他のビジネス部門やチームから運営上の支援を受けられるとはいえ、効果的なセンター・オブ・エクセレンスの設置を検討している法務部門は、高水準の効果的なサービス提供を実現するために短期的に必要とされる多大な時間の投資を過小評価すべきではありません。センター・オブ・エクセレンスの管理は煩雑になり得るため、一部の法務部門は外部のプロバイダーを利用して人員やトレーニングを管理するとともに、効率性の継続的な向上を確実にしています。
ALSPは、プロセス管理とテクノロジーの能力を提供します。これらのプロバイダーは、従来の弁護士、技術者、その他の法務専門家、国内外の人材を活用した高度な人材モデルを利用しています。
ALSPの利用には実際の需要があります。法務部門においてこれらのプロバイダーのサービスを利用していると回答したジェネラルカウンセルは85%に上り、2019年の72%から増加しています。ただし、利用の程度は法務部門やサービスの種類によって大きく異なります。一部の分野(規制調査や文書化支援など)ではこれらのプロバイダーの利用が主流となっています。その他の分野(子会社の管理など)ではこれらのプロバイダーの利用はさほど一般的ではありません(下図を参照)。
ジェネラルカウンセルからの回答結果によると、法務部門はALSPの利用の拡大に関心を示していると考えられます。ALSPを現時点で特に全面的に利用している法務部門では、利用を拡大したいと述べる確率が高いことは重要です。
「ソーシング戦略の再検討がもたらすメリットは、コスト管理にとどまりません」とDinningは述べています。「新たなサービス提供手法の利用により、ビジネスイネーブルメントを改善し、リスクマネジメントを強化することができます。例えば、セルフサービスの手法はサービス提供の迅速化に役立ちます」
「ALSPによるプロセス管理とテクノロジーの全面的な利用により、リスクをより詳細なレベルで管理することが可能になります。また、データへのアクセスとプロセスの透明性が向上します。これにより、企業はリスクを新たな方法で識別・測定・管理できるようになります」
結論
2021年のCEOの優先事項が示すところによると、法務部門は、予見可能な未来を見据えた異なる考え方と行動を求める強い圧力にさらされると思われます。コスト管理がアジェンダに含まれることは間違いありませんが、CEOにとって最も重要なのは、組織における法務機能の価値の最大化であると考えられます。
今後18カ月間から24カ月間に世界経済が回復するにつれて、成長の実現とより幅広いビジネスイネーブルメントが極めて重要になるでしょう。また、企業が新たな現実に適応し、未来の困難から自社を守ることができるよう、リスクマネジメントの変革を支援することも極めて重要な事項です。
法務部門、調達部門、営業契約部門、その他の部門におけるリーダーからの調査結果によると、多くの法務機能においてすでに変革が進行中です。それらの部門の各部分を最適化するための高度な戦略を、すでに多くが採用しています。この取り組みを拡大し、その有効性を最大化することが、2021年とその先の未来における法務部門リーダーの主たる課題になると思われます。
こうした分野において法務部門が成功を収めることができるかは、最終的に、全体的なビジネス戦略との連携、リスクマネジメントの変革における成功、組織の成長の支援における成功が実現されるかによって判断されることになるでしょう。
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サマリー
ジェネラルカウンセルは、法務部⾨のあらゆる部分を最適化するために継続して取り組んでいます。今後数年間は、⾰新的なアプローチを⾒いだし、その有効性を最⼤化することが最重要課題となるでしょう。