1. ハードルの上がる外国人労働者の就労ビザ取得
シンガポールでは外国人労働者の就労ビザ取得に関し、給与基準額の引き上げが継続的に行われています。例えば22年の発表では、非金融セクターのEmployment Pass(以下、EP)申請者の場合、申請資格を満たす給与基準額は月額4,500シンガポールドルから5,000シンガポールドルに引き上げられています。この給与基準額は申請者の経験年数等に応じて高くなり、EP申請者の年齢が40代半ばの場合、基準額が最大月額10,500シンガポールドルにもなり、その上昇幅はかなり大きいことがうかがえます。もともとEPは高度な外国人材を対象とし、給与基準額は専門職・管理職・経営者・技術者(PMET)の賃金の上位3分の1に設定されています。申請に含めることができる給与は本人へ月額固定で支給される給与・現金手当のみに限られており、賞与や変動手当、福利厚生等は含めることができません。駐在員であれば各種手当を含めることで申請額を引き上げることは可能ですが、現地採用者の場合はかなりハードルが高くなります。EPの給与基準額を満たせない申請者に関しては、比較的基準額の低いSパスという選択肢もありますが、Sパスはシンガポール国籍/永住権(PR)保有者従業員の雇用人数に応じて申請枠に上限(クオータ)が設けられているため、シンガポール人の従業員数が少ない会社では申請枠を確保できない場合があります。シンガポール人の雇用比率は23年9月から導入されるEP取得に関するポイント制度「COMPASS」の企業属性にも影響するため、外国人労働者の雇用比率に関しては常に注意を払う必要があります。
2. 継続する海外高度人材の誘致政策
23年1月1日から、シンガポール国内の複数の企業の立ち上げ・運営・労働を可能とする新規就労ビザOverseas Networks & Expertise Pass(以下、ONEパス)の申請受付が開始されました。ONEパスは申請条件の1つが「申請者の月額給与が30,000シンガポールドル以上であること(直近でシンガポールで就労経験をもたない個人の場合、申請時において時価総額5億米ドル以上もしくは年間収益が2億米ドル以上の企業に勤務していること)」とあり、高所得層の外国人材を対象としていることが分かります。特定の勤務先に縛られずに複数の会社で就労が可能である就労ビザとしては、以前からPersonalized Employment Pass(以下、PEP)がありますが、PEPは延長更新が認められておらず、有効期間が最長3年間に限られていました。対してONEパスは更新が認められており、その有効期間も5年間と長めに設定されているため、より柔軟性の高いものとなっています。シンガポール政府は外国人労働者の受け入れ数を抑制する一方で、海外高度人材の獲得に関しては今後も積極的な姿勢を保持していくことが、本制度よりうかがえます。