尹大統領は基本的には民間企業と市場の自律的な発展を支持する考え方をとっており、前大統領と比較しても、規制を緩和・撤廃していく方向とみられます。幾つか企業活動への影響が大きいものを例示します。
1. 労働関連の規制
前大統領の政権下においては、労働者の利益を大幅に重視した政策がとられ、日系企業含め在韓企業においては賃金アップを含めその対応に苦労されている企業は多いような印象がありますが、新政権ではある程度調整が入ることが見込まれます。基本は弱者である労働者を保護し、企業の社会的責任を問う政策は継続され、特にプラットフォーム労働者(配達業者、運転代行者等、ITプラットフォームとの契約により業務遂行する労働者の総称)のような脆弱(ぜいじゃく)な労働環境にある労働者の権利確保も公約に掲げています。ただし、前政権で定められた週52時間労働の基本は維持しながらも、公約の中で賃金および勤労時間と関連した主要政策として、年供給中心の賃金体系を職務価値および成果を反映した賃金体系に改善することを提示し、週52時間制勤労時間を柔軟化できる多様な方案を提示しました。
一方、労働団体との対話を尊重しながらも、労働組合の過激な集団行動等に対しては厳しい対処が予想されます。ただし、これは労働団体の活動激化によるさらなる混乱を招く恐れもあるとの指摘もあります。
2. 重大災害処罰法の適用
21年1月26日に重大災害等の処罰に関する法律(重大災害処罰法)が制定され、22年1月27日より施行されています。この法律は、会社の経営責任者等に対して、従業員や市民の安全保健確保を行うことを直接に義務付けており、当該義務の違反によって重大な事故が発生した場合には、法人だけでなく代表理事等の経営責任者個人に対して刑事処罰等の法的責任を問うことができるように規定しています。そのため、日系企業を含め全ての在韓企業に与える影響が大きいと見込まれ、各社対応を検討されているところです。
尹大統領は、重大災害処罰法は、産業および労働市場に負担を与えるものという認識を持っており、改正の意向があるとみられます。ただ、現状の国会の状況で短期間に法律改正がなされることは難しいと判断されます。したがって、今後の捜査および法適用過程で合理的な方向への調整が予想されますが、当面は引き続き事前的な規制検討およびコンプライアンス分析に伴う対応策作りが要求されるものとみられます。
3. 特殊関係人の範囲の合理化
現在、親族の範囲に血族6親等、親戚4親等まで含まれているため、全く認知しなかった親戚・姻戚が特殊関係人に含まれて彼らが運営する会社が系列会社に編入され、特殊関係人関連の系列会社編入の申告、公示などから漏れてしまう事例があります。特殊関係人の範囲を、現実に合わせて再整備し、上記のような問題を最小化しようとするものと考えられます。日系企業の場合、独資の場合には影響は少ないですが、韓国企業との合弁等の場合、企業の負担が軽減されることが見込まれます。