この問題に対する抜本的な解決策はありませんが、在米日本企業は、少なくとも次の点について早期に検討を開始する必要があると思われます。
1. 資産計上の対象となる「指定試験研究費」に含まれる費用は何か
従来は、内国歳入法174条に基づく「試験研究費」でも、内国歳入法162条に基づく「通常事業経費」でも、同様に損金算入することが可能であったため、それらの区分にあまり意味はありませんでしたが、今後は「通常事業経費」として取り扱う費用が増えるほど、税メリットは増えることになります。費用区分に関する会計ポリシーの見直しが必要かもしれません。
2. 移転価格税制に抵触しない形で親会社から受領する上乗せ利益を圧縮できないか
例えば、米国子会社から外部に再委託している活動があれば、その対価は仮払い処理することにより、上乗せ利益の対象から外すことができる可能性があります。また、研究開発に特化している場合は難しいかもしれませんが、もし親会社への請求対象となる費用の中に特定のバックオフィス的サービスのコストが含まれていれば、米国移転価格税制上のサービスコスト法(SCM)に基づき利益なしで請求できる可能性があります。これにより、納税によるグループとしての社外流出は抑制できますが、米国子会社単体での会計上利益が将来にわたって減少する点には留意が必要です。
3. 試験研究費税額控除は適切に申請しているか
改正後、試験研究費税額控除の相対的メリットは大きく増えることになります。連邦のみならず、州レベルでも、可能な限りの税額控除を申請すべきであると考えられます。また、受託研究の場合、日本の親会社側と米国子会社側の双方で税額控除の申請が可能となるケースもあります。
4. 外国由来無形資産所得(FDII)控除は適切に申告しているか
FDII控除は、米国法人が米国外の取引先から稼得する所得について通常の連邦法人税率(21%)よりも低い実効税率(25年までは13.125%、26年以降は16.40625%)を適用する優遇税制です。改正前は、受託研究開発から生じるネットの課税所得は少額だったかもしれませんが、課税所得が増大する改正後の期間においては、FDIIのメリットも増加します。
5. 改正の影響を予定納税に反映できているか
一定以上の規模の法人は、前年度実績ではなく四半期ごとの実績に基づき予定納税を実施しなければなりません。これに該当しない場合でも、確定申告期限延長申請時には納税を完了しなければなりません。納税資金の手当てが必要となります。
6. 税務処理方針変更申請の準備は整っているか
改正前の取扱いから改正後の取扱いに変更することは、税務上の処理方針の変更に該当し、一定の手続が必要となります。この変更は、現状では方針変更の「自動」承認適用対象として認定されていないため、変更に関わる内国歳入庁(IRS)の事前承認が必要となります。しかし、法律に基づく強制的な変更であるため、IRSが近々に自動承認を認めるガイダンスを公表することが期待されています。自動承認の適用対象となる場合は、連邦法人税申告書に承認申請書(様式3115)を添付することで処理が完了します。