(3) 経済成長との両立
先進国とは異なり、中国では現在も急速に工業化および都市化が進んでいます。また、中国のエネルギー構造として石炭の割合が高く、中国国内の多くの地方経済は、雇用の促進と経済成長という点で石炭に大きく依存しています。カーボンニュートラルを実現するため、石炭などの化石燃料の消費量をコントロールし、徐々に減少させ、現在20%以下である非化石燃料比率を2060年には80%以上に高めるエネルギー構造の転換を掲げていますが、経済成長との両立が課題となります。
2. 炭素排出権取引制度
3060目標の達成に向けては、CCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage)などのテクノロジーの開発やコストコントロールと並んで、関連政策と市場メカニズムが重要であり、その中でも炭素排出権取引制度が注目されています。中国では、2013年以降、北京、上海、天津、重慶、湖北、広東、深セン、福建、四川の9地方をパイロット地域として炭素排出権取引が行われ、2021年7月からは全国炭素排出権取引市場(「ETS」)が正式に運用されています。全国ETS取引参加企業について、中国の排出量の大部分を占める八つの重点排出業界のうち、現在は火力発電などの電力業界に限定されていますが、今後石油化学、化学、建材、鉄鋼、非鉄金属、製紙、航空関連事業者が順次参加することが見込まれています。全国ETSの第1弾の対象企業の排出量は、中国の排出量の約4割に相当するおよそ45億トンといわれており、EU-ETS(European Union’s Emissions Trading System)の排出枠(約15億トン)を超えて世界最大規模と言えます。
しかし、<図2>の通り、2021年の欧州連合(EU)の取引量が122億トンであったのに対し、パイロット地域を含む中国の取引量は4億トンであり、実際の取引規模はまだ大きくありません。また、Refintivの「CARBON MARKET YEAR IN REVIEW 2021」によれば、取引価格について、EU-ETSでは、2021年に2倍以上高騰し、12月末の価格が約80ユーロ/トンだったのに対し、中国ETSの12月末の価格は約7.5ユーロ/トンであり、安価で取引されています。結果として、2021年の取引金額では、EUの6825億ユーロに対し、中国は12億ユーロで大きな開きがあるというのが現状です。