1. 適用対象となる汚職行為、会社・組織およびその責任
次のいずれかに該当する会社・組織はMACC改正法の適用対象となり、その関係者が会社・組織のために事業もしくは事業上の優位性を得るもしくは維持する目的で、利益の供与、供与することについて同意、約束または申し出を行った場合、罰則が適用されます。
① マレーシア国内外を問わず事業を行う全てのマレーシア企業
② 事業または事業の一部をマレーシア国内で行う企業
③ マレーシア国内外で事業を行うマレーシアの組合または有限責任事業組合
④ 事業または事業の一部をマレーシア国内で行う外国の組合
なお、公務員への汚職行為だけでなく、民間企業の間の汚職行為(商事贈収賄)にも罰則が適用されるため、政府系機関との取引等がないからといってリスクが低いわけではなく、全ての日系企業にリスクがあると考えられます。
ここで、会社・組織の関係者とみなされるのは、取締役、パートナー、従業員のほかに、会社・組織のためにもしくは会社・組織に代わって役務を提供する外部の者も含まれます。「会社・組織のためにもしくは会社・組織に代わって役務を提供する外部の者」とみなされるかどうかについては関連する状況を考慮して、広く解釈され、代理店や業務委託先なども含まれるため、留意が必要です。
2. 罰則
汚職行為について有罪判決を受けた場合、以下の罰則のいずれかまたはその両方を科せられることが規定されています。
① 贈賄の対象となった利益の10倍又はRM1,000,000(約27百万円)のいずれか高い方の額を上限とする罰金
② 20年以下の禁固刑
罰金刑については、改正前の「贈賄の対象となった利益の5倍またはRM10,000のいずれか高い方の額を上限」との規定から大きく増加しています。また、これらの罰則が科せられるのは会社・組織だけでなく、原則として取締役、管理者、パートナー、問題となる汚職の管理に関係する者も含まれます。日系企業の駐在員の多くは、責任を負う役職に就いていることが多く、他の従業員と比べリスクが高いと考えられます。
3. 適切な措置の証明
汚職の責任を問われた会社・組織は、汚職行為を防止するための適切な措置を講じてきたことを証明して免責を主張することが認められます。また、会社・組織と同様の責任を負う者も、汚職行為が自身の同意なく行われたことおよび汚職行為を防止するための適切な注意義務を果たしていたことを証明することで免責されることとなっています。
この「適切な措置」に関しては、首相府が一つのガイドラインを発行しています。これは次の五つの基本原則に基づいたガイドラインであり、それぞれの基本原則の頭文字を取り、T.R.U.S.T.と表現されています。
① Top Level Commitment(経営陣によるコミットメント)
② Risk Assessment(リスクアセスメント)
③ Undertake Control Measures(対策の実施)
④ Systematic Review, Monitoring and Enforcement(体系的なレビュー、モニタリング及び執行)
⑤ Training and Communication(トレーニングとコミュニケーション)
この基本原則について説明されたガイドラインは、「適切な措置」そのものを定めているわけではなく、「適切な措置」を構築する際の指針、枠組みを示すものであり、会社・組織の規模、事業領域、性質、リスク等を考慮し適用されるべきとされています。