日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員・エバンジェリスト
西脇 資哲 氏
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
テクノロジーコンサルティングリーダー マイクロソフト・プラクティスリーダー パートナー
田畑 紀和
※所属・役職は記事公開当時のものです。
Section 1
ESG経営に必要なのは積極的な経営者の姿勢
課題とされる環境問題の可視化に対して「目標」と「手段」を明確にし、「サステナブルな経営」を具体的に実践していくことが必要です。
田畑:EYは、クライアントや社会に長期的価値を提供していくことをパーパスに掲げています。近年、SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるサステナブルな社会の実現に向けた取り組みが注目されており、EYも、クライアントのESG経営支援やそれを可視化するITソリューションの導入を通じて、サステナビリティへの取り組みを強化しています。
西脇氏:マイクロソフトのミッションステートメントは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」です。以前は生産性の向上や心地良い働き方の実現を目指していましたが、社会の変化を受け、数年前からサステナビリティを強く意識するようになっています。具体的なゴールは、「カーボンネガティブ」「ウォーターポジティブ」「ゼロウェイスト」です。カーボンであれば均衡するのではなく吸収する側に、水であれば使うのではなく供給する側に回っていくという考え方です。
田畑:マイクロソフトの未来に向けた取り組みとして、創業以来排出してきたカーボンをすべて回収するという、野心的な目標も掲げていますね。
西脇氏:サステナブルな仕組みづくりには、計測して数値化することが重要です。「今」だけでなく、「過去」の二酸化炭素の排出量や水の使用量などを正確に計測・把握しなければなりません。その上で、“返していく”こともマイクロソフトのサステナビリティです。
田畑:マイクロソフトのステートメントから感じるのは、プラットフォームを提供する企業として社会的責任と向き合う姿勢です。経営課題やサプライチェーンそのものがグローバル化、複雑化する中で、世界各国のユーザーやクライアントがマイクロソフトのソリューションを利用することで、おのずとサステナブルな社会に貢献できる―マイクロソフトにはプラットフォーマーとして、そのような役割が期待されています。非常に高いところを目指しているマイクロソフトのミッションとEYのパーパスである「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」はとても近く、共鳴していると感じます。
西脇氏:われわれだけの目標達成ではなく、世界の目標達成につなげることが重要です。一方で、エバンジェリストとして多くの企業経営者とお話ししていると、サステナビリティに対する意識の差に驚かされます。例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)は企業の規模や業種にかかわらず同じように考えているようですが、サステナビリティとなると「深く関心を持っている企業」と「全く関心のない企業」の差が激しいと感じます。また、サステナビリティをどう経営に取り入れていくかも、多くの企業にとっての課題です。言葉としてだけでなく、「目標」と「手段」を明確にし、「サステナブルな経営」を具体的に実践していくことが重要です。環境に関する問題は目に見えないものですが、対応していくためにはその可視化が経営者からは求められています。
田畑:サステナビリティやESGというテーマは、財務情報に基づく従来の経営手法とは全く異なります。これを、欧州から入ってきた考え方として受け身で行うのと、ビジネスチャンスと捉えて「攻め」の経営をするのとでは、今後数年間で大きな差が出てくるのではないでしょうか。
西脇氏:サステナビリティへの取り組みは、多くの場合マイナスの報告からスタートしなければなりません。そこに一歩踏み出していけるかが、経営者に問われています。また、事業には、仕入れや輸送などさまざまなステークホルダーがいるはずです。サプライチェーン全体でサステナビリティを考える視点も必要です。
田畑:そのために必要なプラットフォームがわれわれには足りていません。さらにESG経営には、サステナビリティだけでなく、⼈権や労働環境、⼥性管理職の割合など多岐にわたる⾮財務情報が必要です。それらのバランスを取りつつ、改善プロセスを進めていくためのプラットフォームとして、マイクロソフトの⽬指すクラウドサービスへの期待は⼤きいものです。
西脇氏:ESG経営への取り組みは、もはや⽇本においても、投資家だけでなく、マーケットから選ばれるために不可⽋です。環境問題やサステナビリティのテーマは、Z世代を筆頭にあらゆる⽣活者にとって「⾃分事」であり、差し迫った問題になっています。そうした市場の変化に⽬を向けなければ、経営そのものがいずれ⽴ち⾏かなくなることは明らかです。
Section 2
クラウドサービスによるデータの可視化が経営に与えるインパクト
現場で得られるデータを収集・可視化し、事業ごとの現状を確認。自らが携わる事業のエネルギー消費量などを知ることで、サステナビリティを自分事化できます。
田畑:サステナビリティやESG経営の適切な評価・推進において、テクノロジーの⽀援は不可⽋です。マイクロソフトは、2022年6⽉に新たなソリューションとして「Microsoft Cloud for Sustainability」の提供を開始されました。
西脇氏:サステナビリティへの取り組みのスタートは、環境への負荷や削減効果を可視化・計測することです。効率的なデータ活用を行うためには、プラットフォームが必要です。マイクロソフトが提供するサービスを通して、さまざまな事業の現場で得られるデータを収集・可視化することで、事業ごとの現状が確認できます。例えば、クラウドサービスを使用してオンラインで会議をしたとします。その際、マイクロソフトのクラウドサービスでは「そういったクラウドサービスの活用によってどのくらい原油や天然ガスなどのエネルギーを使ったのか」ということが統計で分かるようになっています。工場や事業単位で、かつ年ごとにまとめられるデータではなく、自分たちの事業とその結果がリンクして初めて、サステナビリティを自分事化でき、サステナビリティを根付かせることができるようになると考えています。
田畑:サステナビリティにつながるプラットフォームの提供は、社会インフラとしてのデジタルソリューションを提供しているマイクロソフトならではの取り組みだと思います。また、多くのプレーヤーとデータが参加して初めて可視化できるESGとクラウド上のソリューションは、⾮常に相性が良いと感じています。
西脇氏:われわれが提供するプラットフォームをより多くの企業に活⽤していただくことで、社会全体の可視化、ひいては社会全体のサステナビリティにつなげていく―それが私たちのゴールです。
田畑:EYのクライアントの多くは、事業をグローバル展開しています。マイクロソフトは、サステナビリティやESG経営のグローバル対応として、「Planetary Computer」という取り組みをされていると伺っています。
西脇氏:サステナビリティは、地球規模で考えなくてはならないため、世界中の森林伐採や降⽔量の増減など、どのような環境の変化が起きているかを知る必要があります。その膨⼤な量のデータを正しく⾒るためのモデル作りや、データ更新などの管理作業をするというのが「Planetary Computer」の発想です。世界中のリアルタイムのデータを取得し、プラットフォーム上に組み込むことで、誰もが地球の“今”を知ることができ、過去のデータとの⽐較も容易になります。現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や⽶航空宇宙局(NASA)、欧州のさまざまな機関と⼀緒に、各地の環境変化に関するデータを格納し、モデル化して活⽤する取り組みを進めています。
田畑:データを“公共財”として広く活用するというメッセージが感じられます。これまでアクセスできなかったビッグデータが、経営の意思決定や現場のオペレーションの場に入ってくるわけで、事業全体を変化させる大きなインパクトになると期待しています。
Section 3
経営とテクノロジーの両面からイノベーションを創出する
EYとマイクロソフトとのアライアンスを通じ、経営とテクノロジーの両面からクライアントに伴走してサステナビリティに貢献していきます。
田畑:テクノロジーを提供するマイクロソフトと、ビジネスを⽀えるEYが組むことで、サステナビリティやESG経営というテーマでもさまざまな相乗効果が⽣まれると考えています。最近では、EYはマイクロソフトとのアライアンスを強化し、事業会社のネットゼロ⽬標を後押しする施策も打ち出しました。
西脇氏:われわれはテクノロジーの角度からクライアントに接していますが、経営者がサステナビリティをメッセージアウトしていく上では、EYのコンサルティング力が重要です。経営者とのコミュニケーションの中で、経営目線でESG経営の重要性を説くスキルは、ますます必要とされます。経営とテクノロジーの両面からクライアントに接し、サステナビリティに貢献することができる、これこそがEYとマイクロソフトが共に取り組むことの大きな強みです。
田畑:EYでは、変革を実現するためには、「humans@center(人を中心に据える)」、「technology@speed(迅速にテクノロジーを実用化する)」、「innovation@scale(大規模にイノベーションを推進する)」という3つの観点がそろう必要があると考えています。マイクロソフトのテクノロジーは、スピード・スケール共に極めて水準が高い。その上でEYには、人的な変革における役割が求められています。テクノロジーの言葉をビジネスの言葉に翻訳し、多くの企業に伝え、イノベーションを広げていくサポートができればと考えています。EYは監査をルーツとしていますので、開示されたデータの正確さを保証することはもちろん、カーボンに関する税務のサービスも提供できます。マイクロソフトとEYが協働できる領域は本当に無限だと思っています。
西脇氏:より広い領域では宇宙空間の活用、より狭い領域では働く人々のウェルビーイングへの貢献など、高度な経営判断やテクノロジーが求められる場面、課題は数多くあります。EYの視座から会計や経営、リスクマネジメントの分野でクライアントとコミュニケーションをしていただき、マイクロソフトがそれをテクノロジーで支える。そこから生まれるイノベーションで、世界と比べて出遅れているといわれる日本のサステナビリティやESG経営の取り組みを加速させましょう。
田畑:最新のテクノロジーとデータという武器を得たわけですから、EYも変化し続けていかなければなりません。マイクロソフトとのアライアンスの強みを最大限に引き出せるようなサービスを提供していきたいと思います。
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サマリー
プラットフォーマーとしての社会的責任と向き合い、テクノロジーの力でサステナビリティを支えるマイクロソフトと、非財務情報へのアプローチからクライアントの長期的価値の創造を後押しするEY。共鳴するビジョンを持つ両社のグローバルでの協業により、持続可能なより良い社会の実現に大きく貢献していきます。