経済的自給自足を巡る地政学的競争で近年重視されているのは、重要なテクノロジーの内製化です。2023年もテクノロジーは地政学的競争の戦略的重点分野となり、貿易・投資に対する規制措置の拡大が図られるものとみられます。こうした傾向が、個々に分断されたテクノロジーのブロック出現をさらに加速させるとみられます。
ウクライナ情勢を受けた厳格な先端技術輸出規制措置により、ロシアは実質的に先進国・地域のテクノロジー分野から締め出されました。米国、EU、日本やこれら諸国の同盟国は、半導体や、その設計に必要なソフトウェアなど基幹テクノロジーへの中国によるアクセスの規制をさらに強化する可能性が高いと思われます。米国が2022年10月に発表した輸出規制措置は、こうしたセクターにおける中国の技術力の向上を積極的に阻む姿勢への本質的なシフトにほかなりません。中国も、新たな輸出管理法でこれに対抗する構えを見せています。
EUとその加盟国が監視を厳格化させていることから、国境を超えた技術投資に対する規制措置も拡大する可能性が高そうです。また、対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States:CFIUS)の権限が強まる中、米国はさらに「アウトバウンド」投資スクリーニングプログラムを導入する見通しです。一方、CHIPSプラス法(CHIPS and Science Act)のようなインセンティブ政策を伴う規制措置は、中国など戦略的競合国とされる国への、機密問題がある投資を防ぐ働きをすると思われます。
データローカライゼーション関連法や、国・地域などによりそれぞれ異なる技術基準も、テクノロジー分野でのブロック化を加速させるかもしれません。中国、インドネシア、インドなど、大きな影響力を持つ国・地域で規制措置や法的枠組みが増え、デジタル業務が複雑化する傾向にあります。また米国とEUがエマージングテクノロジーで連携する一方で、中国は引き続き国際機関における影響力の拡大を図っている中で、技術基準の地政学的重要性も増すものとみられます。
ビジネスへの影響
- 成長と投資の限界:テクノロジーとデータを対象とした貿易・投資規制措置が増えることで、イノベーションを進化させるために戦略的に重要なテクノロジーを必要とするサプライヤーやメーカーを中心に、投資機会が減る可能性があります。他方で、本国内で新たな事業機会を得ることができるかもしれません。
- 業務とサプライチェーンの変革が必須:テクノロジー関連の産業政策により、現在までのサプライヤー関係、製造拠点、研究開発拠点の継続維持が困難になることが考えられます。事業の多様化は、運営コストの上昇を招き、効率的な業務運営の支障となる可能性がある一方、サプライヤーエコシステムの構築や拡大の機会となるかもしれません。
- データと知的財産のさらなる複雑化:各国ごとの政策の拡大により、社内および企業間のデジタルアーキテクチャとデータの共有が複雑化する可能性が高いとみられます。コンプライアンス部門の体制を一層強化することが、この複雑さをマネージするために必要とされるかもしれません。またデータエコシステムの多様化が進む中にあってサイバーセキュリティが脆弱化する恐れもあります。
推奨される対応
- ポートフォリオ戦略とトランザクション戦略を見直し、慎重な扱いが必要なテクノロジーとデータのクロスボーダー貿易に対する規制強化に対応する。
- より分散型のテクノロジー環境への対応に必要とされるスキルセットと将来の人材を育成する。
- デジタル拠点について、先を見越したサイバーセキュリティ・レジリエンス面のケイパビリティを維持しながら、複数のテクノロジー構造を構築する必要性の有無を見極める。