9 分 2022年3月24日

木を見るべきか、森を見るべきか?

執筆者 Andrew Gordon

EY Global Forensic & Integrity Services Leader

Global Forensics Leader focusing on helping organizations build their integrity agenda so they better anticipate and mitigate risk.

EY Japanの窓口

EY Japan Forensic&Integrity Services Leader

EY Japan Forensicsのリーダー。組織が誠実性のアジェンダを設定し、リスクを予測し最小化することを支援。

9 分 2022年3月24日

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EYグローバルインテグリティレポート2022では、ガバナンスの強化に焦点を当てることで、いかに企業のインテグリティを再構築できるかを明らかにしています。

要点
  • これまで以上に多くの企業が組織のインテグリティを重要視しており、回答者の多くは、パンデミックの影響でビジネスを誠実に遂行することが難しくなったと回答している。
  • EYグローバルインテグリティレポート2022では、上級幹部が重要だと主張していることと、個人的な利益のためにしようとしていることとの間でギャップが大きくなっていることが明らかになっている。
  • 多くの企業は今、新たな報告方法を採用し始めている。それは、厳密性と透明性を高めると同時に、リスク軽減のために高度な分析の活用機会をもたらすものである。
Local Perspective IconEY Japanの視点

海外の企業の多くが、パンデミックの影響でビジネスを誠実に遂行することが難しくなったと回答している一方、日本企業の回答はそこまで深刻ではありませんでした。

日本企業におけるインテグリティへの取り組みは確かに進んできています。前回の調査時と比較すると、行動規範や従業員向けトレーニング、CSR(企業の社会的責任)およびESG(環境・社会・ガバナンス)に関するポリシーの整備、通報制度の拡充など、多くの項目でその取り組みへの改善が見られ、結果的に全回答者の水準を若干上回りました。しかしながら、これらの改善のみをもってビジネスを誠実に遂行可能だと過信するのは禁物です。

どんなコンプライアンスプログラムであっても、形だけで魂が込められていなければ、構築しても機能しません。強力なインテグリティ文化を醸成させ、「変化や競争から逃げない」組織を作り上げることが、真の競争力を獲得するとともに、企業にとって最も重要な人財を不祥事によって失わずに済むことにつながるのではないでしょうか。

 

EY Japan の窓口

荒張 健
EY Japan Forensic&Integrity Services Leader


企業のインテグリティは、世界中の企業の上級幹部や一般従業員から重要視されています。EYグローバルインテグリティレポート2022(PDF、日本語版英語版)の回答者のうち、過去最高となる97%が、「企業のインテグリティは重要である」と回答しています。より多くの企業がインテグリティトレーニングに投資し、組織的価値観や行動規範に関する声明を公表しています。また、企業は社会的期待に対するコミットメントを示すため、企業の社会的責任に関する基準や、環境・社会・ガバナンス(ESG)の指標を採用しています。

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しかしながら、このレポートでは、上級管理職が企業のインテグリティプログラムの有効性を過信していることが明らかになっています。また、回答者が重要だと考えていることと、個人的利益のためには不正を見過ごしたり、それに加担したりするといった行為を厭(いと)わない考えていることとの間にギャップがあることも浮き彫りになりました。さらに今回の調査では、パンデミックが新たな課題を生み出していることも示しています。回答者の半数以上が、過去18カ月間でインテグリティ規範は変わらないか、低下したと回答しています。

 

インテグリティは重要だが、その規範は低下している

97%

の回答者は、インテグリティが重要であることに同意しています。

55%

の回答者は、過去18カ月間でインテグリティ規範が変わらないか、低下したと回答しています。

Ernst & Young GmbH, Forensic & Integrity Services, Partner, Katharina Weghmannは、以下のように述べています。「企業が直面する倫理的ジレンマはさまざまであるため、インテグリティは定義が難しい概念です。革新的なインテグリティアジェンダとは、無から有を創り出すことであり、これを組織の文化と行動に根付かせ、企業と社会の相互依存関係にコミットすることです」革新的なインテグリティアジェンダとは、制限的コンプライアンス(法律によって不正行為が抑止・防止されていること)やご都合主義のコンプライアンス(違法でなければ良いとして、法律上許容される限り実施してしまうこと)、訴訟回避(訴えられるのを避けるために行うこと)を超越するものです。

2022レポートの回答者のうち、インテグリティの重要な本質は「倫理基準に基づいて行動すること」と回答したのは3分の1(33%)にすぎず、半数(50%)が「法律、規制および行動規範を順守すること」と回答しています。また、コンプライアンスに関しても、企業の最上位層がルールを逸脱することも厭わない傾向が増しているという調査結果が出ています。

EY Americas and EY US-Central Region Forensic & Integrity Services, Leader, Jon Feigは、次のように述べています。「インテグリティは、簡単なテーマではありません。インテグリティアジェンダは、組織の意図することと実際に行動することに基礎を置いています。法的には正しい判断であっても、倫理的価値観に反するものであれば、やはり誤った判断となります」

管理職は、インテグリティ文化をすぐに構築できるものと勘違いすべきでありません。組織はコミュニケーションやトレーニングプログラムへの投資を増やしていますが、そうした努力だけでは不十分です。役員の60%が、過去18カ月間で自組織において誠実に行動することの重要性について伝えたと回答している一方で、それを覚えていると回答した従業員は30%にすぎません。

Ernst & Young LLP, United Kingdom, Forensic & Integrity Services, Partner, Maryam Hussainは、次のように述べています。「組織文化は動的なものであるため、規定や規則に比べて、変えていくのにははるかに長い時間がかかります」

また、Hussainは次のようにも述べています。「不正行為が発生した際、『腐ったリンゴ』、すなわち、不正を行った人間に焦点が当てられるケースが多くあります。しかし、高いインテグリティの価値観が根付いているビジネス文化では、悪質な行為者が生き永らえることはできません」

私たちが今、パンデミックから脱却し、経済の再建、働き方やデジタル化された事業環境に合わせた業務プロセスの再調整に着手し始めている中、リーダーにとってはこれらのギャップを解消する好機にあります。EYグローバルインテグリティレポート2022のインサイト(洞察)は、企業がいかにインテグリティを定義して企業文化に浸透させるか、インテグリティを根付かせるための最適な環境をいかに構築するか、そして、いかに外部からの脅威を最小限に抑え、長期的価値を守るためにインテグリティアジェンダを刷新・変革するかについて、明らかにしています。

不正行為が発生した際、『腐ったリンゴ』、すなわち、不正を行った人間に焦点が当てられるケースが多くあります。しかし、高いインテグリティの価値観が根付いているビジネス文化では、悪質な行為者が生き永らえることはできません
Maryam Hussain
Partner, Forensic & Integrity Services, Ernst & Young LLP, United Kingdom
  • 調査について

    2021年6月から9月にかけて、世界的な市場調査会社のイプソス・モリが、54の国と地域で抽出された大規模な組織や公的機関の役員、上級管理職、管理職および一般従業員を対象に現地語で4,762の調査を実施しました。

     

意図することと実際に行動することとの間のギャップを埋めるには
(Chapter breaker)
1

第1章

意図することと実際に行動することとの間のギャップを埋めるには

インテグリティ文化を構築するには、企業からのメッセージだけでは不十分です。


EYグローバルインテグリティレポート2022では、パンデミックによって、企業が誠実に行動することが難しくなったことが明らかになりました。コンプライアンスプログラムが強化される一方で、組織のリーダーは、特に自身の非倫理的行動に対して寛容になっているように思われます。このレポートによると、サプライヤーやディストリビューターなどの第三者による非倫理的行動を黙認したり、財務記録を改ざんしたり、監査人や規制当局などの外部機関を欺くことを厭わないと考える回答者が増えています。

今年の調査は、パンデミックの発生以降、トップのインテグリティ規範が大幅に低下していることを示しています。役員の10人に4人以上(42%)が、上位者またはハイパフォーマーの非倫理的行動が組織内で容認されていると回答しており(2020年の34%から上昇)、また、役員の34%が、自組織ではビジネスルールをすり抜けることが容易であると回答していることが分かりました(2020年は25%)。

EYグローバルインテグリティレポート2022では、特にサプライヤーや第三者と仕事をする際のリスクに対する意識が高まっていることを示しています。さらに今、過去に類を見ない水準で行われているM&A活動も、組織に重大なリスクをもたらしています。2年前と比較すると、サイバーリスクに対する認識は20%から27%に、会計上の虚偽表示は17%から25%に、表面化していないリスクの高い不適切な関係は17%から24%に増加しています。

最適なインテグリティ環境の構築
(Chapter breaker)
2

第2章

最適なインテグリティ環境の構築

従業員は通報する権限があり、報復から保護されていると思える状態になければなりません。

今年の調査では、組織がより深いインテグリティ文化を構築することなく、単にチェックボックスを形式的にマークするような単純作業でインテグリティ規範が示された場合に何が起こるかが明らかにされました。上級管理職と一般従業員との間の認識のギャップは、すぐに広がっていきます。

最適なインテグリティ環境を構築するには、あらゆる職階や部門にわたって価値観が共有され、高度な透明性を持ち、違反行為を一切許容しないような企業全体の環境を確保する必要があります。

企業が組織の内部通報者を保護する程度は、インテグリティ文化の重要なベンチマークとなります。あらゆる職階の従業員に、自身に悪影響が及ぶことを恐れずに不正行為を通報できること、またそれと同等に、違反行為には相応の処分が伴うことを理解させる必要があります。通報しても何も変わらないと感じている一般従業員は非常に多く、実際、通報しないと回答する主な理由(38%)は、「何も変わらないのではないか」という懸念にあります(2020年の33%から増加)。

Feigは、次のように述べています。「通報者の保護は、管理職と一般従業員との間の信頼関係の基本原則です。従業員は健全なビジネスを維持し、その代わりに企業も悪影響から従業員を守るという、相互扶助の関係が必要です」 この3年間で、通報者保護の仕組みが大幅に改善されているのは心強い限りです。

持続可能な未来のために
(Chapter breaker)
3

第3章

持続可能な未来のために

テクノロジーは、企業のコンプライアンス戦略において必要不可欠な役割を果たすことができます。

優れたガバナンスと透明性は、政府、資本市場および社会を支える信頼に不可欠です。

企業のレピュテーションやCEOのキャリアは、「Say-Doギャップ(言行の不一致)」が明るみに出ることによって直ちに損なわれてしまいます。さらに、企業のESGパフォーマンスに関する厳格な開示義務が施行されると、企業のレピュテーションはより厳しく監視されることになります。

リーダーは、この推進力を利用することで、変化を促し、インテグリティアジェンダを活性化させることが可能です。また組織は、人間の行動をマッピングするのに役立つ高度なデータアナリティクスを活用することで、ビジネスユニット、チームまたは部門の日常業務において潜在的に悪影響を及ぼす変化をピンポイントで特定することができます。そうした変化は、組織内の不協和音や企業文化の衰退を早期に発見できるサインとなる可能性があります。

Ernst & Young LLP, United States, Forensic & Integrity Services, Principal, Corey Dunbarは、次のように述べています。「インテグリティアジェンダを推進する上で、テクノロジーは大きな役割を果たします。匿名のホットラインから規制当局の取り締まりに至るまで、データによって企業の活動や取引の透明性が高まるため、不透明な領域は少なくなるでしょう」 テクノロジーを駆使したデータ重視の方法でインテグリティ文化を測定し、適切な統制、プロセスおよびインサイト(洞察)を構築することで、企業はコンプライアンスプログラムを変革し、長期的価値を生み出すことができます。

投資の増加

69%

の企業が、今後12カ月間で、リスク管理のためにデータとテクノロジーへの投資水準を上げることを計画しています。

インテグリティアジェンダを加速させるための5つのアクション
(Chapter breaker)
4

第4章

インテグリティアジェンダを加速させるための5つのアクション

組織文化の強化には、あらゆる職階でのコミットメントを伴う継続的な評価が求められます。

インテグリティアジェンダを加速させるための5つのアクション

1.ビジネスをよく理解する

不正行為や汚職のリスクを評価することは、組織を守る取り組みの中核を成すものです。それ以上に、トップダウンで真剣に取り組み、データを活用することでリスク評価を定期的かつ確実に実行することにより、露見したあるべき姿と現状とのギャップや弱点を改善していく必要があります。

2.人をコンプライアンスに組み込む

不正を行うのはシステムやプロセスではなく、人であることを認めなければなりません。正しく行動する文化がなければ、どんなに強固なコンプライアンスフレームワークも壊される可能性があります。そのため、強固なインテグリティ文化の構築は、統制環境の構築と同様に重要です。

3.組織独自のデータを活用する

データ量の増加を脅威と捉えるのではなく、不正行為に対抗するための好機と捉えるべきです。組織独自のデータを活用することは、異常な行動を検出し、その防止と調査に役立ちます。また、ESGへの取り組みをサポートし、インテグリティアジェンダに即したデータを収集する方法を模索することも有効です。

4.トレーニングではなく教育を進める

レポートが強調しているように、インテグリティに関するメッセージは徐々に浸透していますが、一方で不正行為への誘因は高まっています。トレーニングから教育への移行によりコミュニケーションと認知度の向上を継続し、ビジネスインテグリティとは「何か」だけでなく、「なぜ」必要なのかを全員が理解できるようにしなければなりません。

5.もっと声を上げられるように通報制度を拡充する

不正行為の疑いについて誠実に通報できる機会を与え、報復に対する保護を確実にすることで、従業員が安心して通報できる体制を整える必要があります。

サマリー

ビジネスにおけるインテグリティとは、コンプライアンスやリスク管理のことではなく、組織や組織の財産およびレピュテーションを守ることです。インテグリティは、株主と経営幹部、企業と従業員、そして、サプライヤーとパートナーとの間の信頼関係を育む基盤となるものです。EYグローバルインテグリティレポート2022は、企業の取締役会、最高法務責任者およびコンプライアンス責任者に対し、組織全体で高い倫理基準の確保に注力し、これらの目標を実現するためにデータを活用するよう警鐘を鳴らしています。

この記事について

執筆者 Andrew Gordon

EY Global Forensic & Integrity Services Leader

Global Forensics Leader focusing on helping organizations build their integrity agenda so they better anticipate and mitigate risk.

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