財務省・総務省の各ホームページに、令和5年度税制改正に係る各府省庁からの要望事項が公表されました。
ブロックチェーン技術を活用したデジタル資産の普及・拡大など金融サービスのデジタル化が加速する中、経済産業省や金融庁の要望事項をみると、ブロックチェーン分野のイノベーションや事業開発の促進、デジタル化への投資による産業競争力の強化、持続可能な社会の実現などの政策目的の観点で、主に次のような要望が出ています。
1. わが国のスタートアップ・エコシステムの抜本強化に資する税制措置の検討
- スタートアップ・エコシステムの抜本強化のために、わが国のスタートアップ・エコシステムの課題(人材、事業、資金量、出口戦略)に対応した所要の措置を講じること
- 大きなリスクを取った出資者を支援する観点から、エンジェル税制1 についての必要な見直しも含め、個人のリスクマネーがスタートアップ・エコシステムに循環することを促す税制措置を検討すること
2. 研究開発税制2 の拡充及び延長
企業が研究開発投資を増加させるインセンティブのさらなる向上を図るため、投資インセンティブが効果的に働くよう見直しを行うともに、大企業とスタートアップのオープンイノベーションの促進を図るため次のような制度の見直し等を行うこと
- 一般型のインセンティブ強化
- オープンイノベーション型3 におけるスタートアップ企業の定義の見直し及び控除率の引上げ
- サービス開発の要件4 の見直し
- 試験研究費割合が10%超の場合及び中小企業者等の試験研究費が9.4%超増加した場合における上乗措置の適用期限延長(令和6年度末まで)
- 一般型の控除率の上乗措置の適用期限の延長(令和6年度末まで)など
3. DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制5 の拡充及び延長
DXの必要性を認識しつつもレガシーシステムが足かせと考える企業が多く、人材不足や設備投資のコスト面から本格的なDXに向けたデジタル投資を後押しする観点から以下の拡充及び延長を行うこと
- 適用期限の2年間延長(令和6年度末まで)
- より一層効果的なDXにつながるデジタル投資を支援するため税制認定要件6 等の見直しを図ること
4. 暗号資産の期末時価評価課税7 に係る見直し
- ブロックチェーン技術を活用した企業等への阻害要因を除去し、Web3推進に向けた環境整備を図る観点から、法人が発行した暗号資産のうち、当該法人以外の者に割り当てられることなく、当該法人が継続して保有しているものを対象として、期末時時価評価課税の対象外とすること
5. サステナブルファイナンス分野における所要の措置
- ESG投資額やグリーンボンド等ESG投資資金が脱炭素をはじめとする持続可能な社会の実現に貢献する企業等の取り組みに活用されるよう、税制上の措置を講じること
6. 申告・納税手続に関する制度及び運用に係る所要の整備
- 経済のデジタル化等を踏まえ、企業の事務負担軽減及び生産性向上に資するよう、申告・納税等に係る税務手続について、一層の電子化の推進も含め、利便性向上等を図るための所要の見直しを講ずること
例年与党が年末にまとめる税制改正大綱に向けて税制改正に関する議論が始まっていますが、公表された上記の改正要望項目の全てが反映されるわけではなく、政府税制調査会での議論や省庁間での協議等を通じて検討が進められていきます。
「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)で掲げる新しい資本主義に向けた重点投資分野と社会課題の解決に向けた取り組みにおいては、DX/GXへの投資や分散型のデジタル社会の実現といった点が含まれていますが、そのような方針を進めていく中で上記の税制改正要望がどのように議論されていくのか注目が集まります。
(注)上記は、令和5年度税制改正に対する各府省庁の要望に関する解説であり、EY税理士法人その他EYメンバーファームの要望や意見を示すものではありません。
巻末注
- 租税特別措置法第37条の13、第37条の13の2及び第41条の19
- 租税特別措置法第10条及び第42条の4
- 企業が研究機関や大学、民間企業などと共同研究や委託研究などを行った場合に要した研究開発費(特別試験研究費)に係る税額控除制度
- 対価を得て提供する新たなサービス開発を目的とした①大量データ収集、②収集したデータの分析、③データ分析結果を利用した新サービスの設計、④設計した新サービスの効果検証に係る業務等が行われることとされています。
- 税制認定要件を満たした場合、ソフトウェア、器具備品、機械装置等の設備投資額について一定の税額控除又は特別償却が認められる税制です(租税特別措置法第10条の5の6及び第42条の12の7)。
- デジタル(D)要件と企業変革(X)要件で構成されています。このうちデジタル要件の内訳は①データ連携、②クラウド技術の活用、③情報処理推進機構が審査するDX認定の取得からなり、一方企業変革要件の内訳は①一定の生産性向上又は売上上昇が見込まれること、②計画期間内で商品の製造原価が8.8%以上削減されること等、③前者の意思決定に基づくもの、となっています。
- 法人税法第61条第2項3項