OECD、暗号資産に係る情報交換制度の枠組みおよびCRS改正案の公表

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EY 税理士法人

2022年4月1日
カテゴリー OECD FATCA/CRS

※こちらのアラートにはOECDの最終公表文書を反映したアップデート版があります。本アラートと併せてこちらもご覧ください。

2022年3月22日、経済協力開発機構(OECD)は暗号資産に係る情報交換制度の枠組み(Crypto-Asset Reporting Framework : CARF)および共通報告基準(Common Reporting Standard : CRS)の改正に係る公開諮問文書(Public Consultation Document 以下、「本文書」)を公表しました。

CARFおよびCRS改正案は2022年4月29日まで公開討議に付され、10月に新ルールの提案が行われる予定です。その後、参加国による採択を経て、2024年1月1日から適用される可能性があります。

本文書の概要を以下のとおり解説します。

I. CARFの概要

近時の技術的進歩により、投資や決済手段に暗号資産を用いた新たな取引が登場しています。また、暗号資産の保管や移転サービスを提供する暗号資産取引所やウォレットプロバイダーなどのこれまでの金融機関が提供するサービスと類似したビジネスが行われている一方、従来の金融機関に適用される規制の対象外となっています。そのため、OECDは、暗号資産やその保有者の透明性が確保されておらず租税回避に利用されるリスクについて懸念を表明しています。

CRSでは、金融機関にその顧客の金融資産に関する情報を各国の税務当局に提供することを義務付けていますが、暗号資産は現行制度では金融資産の定義に含まれず運用が行われているのが一般的となっています。そのため、CARFにおいて、現行のCRSと同様の情報交換を暗号資産についても確実に実施されるようその枠組みが示されています。

CARFの主な内容および影響は以下のとおりです。

1. 対象となる暗号資産

CARFでは、原則、暗号資産を従来の金融機関を介することなく分散型金融の形式で保有および移動可能な資産と定義しています。

2. 対象となる仲介事業者

原則として、顧客に代わって暗号資産交換取引を事業として行う仲介事業者が該当するとしています。暗号資産取引所、ブローカーおよびディーラー、暗号資産ATMの運営業者などが含まれ、CARFでは、報告暗号資産サービスプロバイダー(Reporting Crypto-Asset Service Provider)として取扱われることとされています。

報告暗号資産サービスプロバイダーに該当する事業者は、顧客の本人確認書類を取得の上、所定の確認手続を行い、暗号資産の価値を把握するなど各種対応を行うことが求められています。報告暗号資産サービスプロバイダーは、設立場所・事業内容・税務申告・経営管理・取引などを考慮の上、判定が行われることが想定されています。

3. 報告要件

報告暗号資産サービスプロバイダーは、以下4種類の暗号資産取引に関する報告が求められています。

・暗号資産と法定通貨との交換
・暗号資産同士の交換
・報告可能な決済取引(Reportable retail payment transaction)
・暗号資産の移転

暗号資産取引は暗号資産の種別ごとに報告を行い、取引内容によって追加情報が求められることとなります。

暗号資産は、取引の種類によって異なり、交換される法定通貨の金額、暗号資産の取得や処分の際の公正市場価値などにより評価額が決定されます。報告対象となる顧客情報には、氏名・住所・税法上の居住地国・納税者番号・生年月日・出生地・一定の事業体の実質的支配者などが含まれています。

OECDは、顧客のために暗号資産を保存するウォレットプロバイダーや、暗号資産を商品やサービスの対価として受け入れる小売業者が行う取引など暗号資産の保有および取引が仲介事業者の関与がない状態で行われることについても認識しており、CARFにおいて手当てがなされています。

例えば、暗号資産を顧客のウォレットアドレスに転送するビジネスを行う報告暗号資産サービスプロバイダーの場合、ウォレットアドレスの報告を求めるとしています。また、購入した商品やサービスの対価として暗号資産で支払われる場合、当該小売決済取引の透明性を確保するために、報告暗号資産サービスプロバイダーは小売業者の顧客をその顧客として扱い、当該顧客とその暗号資産取引の価値を報告することを求めています。

4. デュー・デリジェンス手続

報告暗号資産サービスプロバイダーは、顧客との関係を確立した時点において、顧客を特定し、税法上の居住地国および報告に要する関連情報を取得するために自己宣誓書類を取得するなど所定の確認手続を行うことが求められています。CARFにおける顧客属性には、個人・法人・法人である暗号資産ユーザー(Entity Crypto-Asset User)の実質的支配者が含まれています。

既存顧客の場合のデュー・デリジェンス手続は、CARFの有効日から1年以内に完了する必要があります。加えて、報告暗号資産サービスプロバイダーは顧客に事情変更が生じ税法上の居住地国への影響の有無をモニタリングすることが求められています。また、自己宣誓書類を取得できなかった顧客との取引は不可とされています。

自己宣誓書類の有効期限は3年とされており、再取得が求められています。さらに、有効期限経過後の自己宣誓書類や事情変更などにより有効な自己宣誓書類が未取得の場合、口座を凍結することも求められています。

II. CRS改正案

デジタル通貨や電子マネーなどのデジタル金融商品は、従来の預金口座に類似する保管・管理・決済機能を有している一方、CRSの対象外とされています。そのため、適切に申告納税が行われているか補足することが困難とされています。

CRS改正案では、CARFを反映し、これら金融商品および関連事業者をCRSの対象とすることで各種要件全般の改善を図ることに主眼が置かれています。

主な改正案の内容は以下のとおりです。

  • 中央銀行が発行するデジタル化された法定通貨である中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency: CBDC)およびデジタル化された貨幣である特定電子マネー商品(Specified Electronic Money Product、電子マネー)は、いずれもCRS報告の対象とすること
  • CRS上の預金機関には電子マネープロバイダーが含まれ、預金には顧客に代わって保有されているCBDCおよび電子マネーが含まれること

さらに、CRSの枠組みで税務当局に報告される情報の質と有用性を改善するための改正案が織り込まれています。これまでCRS報告の主な目的は口座保有者を特定するための情報および口座情報を提供することとされていますが、加えて以下の関連情報が報告項目として含まれています。

  • 法人を含む事業体の実質的支配者が果たす役割(例:所有権・支配・受益権による実質的支配者、あるいは、経営者・代理人・受託者などの管理的立場としての実質的支配者)
  • 既存口座または新規口座の区別
  • 自己宣誓書類の取得の有無
  • 共同口座への該否/共同口座保有者の数
  • 預金口座・カストディ口座・資本債券持分・キャッシュバリューのある保険契約などの金融口座の種別

今後の流れとして、本文書に修正が加えられた後、国内法制化に向けた動きが想定されますが、当局動向を注視の上、実務への影響について初期的な検討を行う必要があるものと思われます。

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