エグゼクティブサマリー
経済協力開発機構(OECD)は2021年12月20日、OECD/G20税源浸食・利益移転(BEPS)包摂的枠組みが合意した第2の柱のモデルルール(モデルルール)を公表しました。このモデルルールは、「所得合算ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)」を含む「GloBEルール」として、第2の柱のグローバルミニマム課税ルールの範囲と主なメカニズムを定義しています。
モデルルールと共に、OECDは、ルールのサマリー(The Pillar Two Model Rules in a Nutshell)、GloBEルールの主な運用条項の概要(Fact Sheets)とFAQ(Frequently Asked Questions)も公表しています。
10月に公表されたスケジュールによれば、第2の柱ルールの2023年発効に向けて2022年に各国・地域の国内法が改正されることとになります(2024年に発効となるUTPRを除く)。GloBEルールは共通アプローチとして設計されており、包摂的枠組みの加盟国はGloBEルールの採用を求められてはいませんが、採用すると決めた加盟国は、モデルルールと首尾一貫した方法でGloBEルールを施行し運用しなければなりません。包摂的枠組みの加盟国はまた、他の加盟国によるGloBEルールの適用を容認する必要があります。
OECDのプレスリリースによると、モデルルールのコメンタリーが2022年初旬に公表される予定です。このコメンタリーは米国のGlobal Intangible Low-Taxed Income(GILTI)ルールとGloBEルールとの相互作用についての説明も含まれる予定です。また、包摂的枠組みでは、第2の柱のグローバルミニマム課税ルールの第三の要素である課税対象ルール(STTR)のモデル条約の規定を検討中です。OECDは2022年半ばまでに、モデル条約の規定とSTTRの実施に関する多国間協定を公表する予定です。第2の柱の執行、申告納税、国際協調に関する実行上の枠組みについての公聴会は、2022年2月に実施されます。
欧州委員会はすべてのEU加盟国に対して、GloBEルールの実施を義務付けるEU指令を設ける方針であることを明らかにしていましたが、20221年12月22日にモデルルールを、EU指令の提案に反映する指令草案が公表されています。
本アラートにおいては、背景及びモデルルールの第1章から第5章までを解説しています。なお、モデルルールの第6章から第10章につきましては、1月下旬に発行されるアラート後編において解説を予定しています。
背景
2015年のBEPSの15の行動計画に関する最終報告書に基づき、OECDは2019年に経済のデジタル化による税務上の課題への対応に特化した新たなプロジェクトを立ち上げました。BEPS 2.0と呼ばれる現行のプロジェクトはOECD/G20包摂的枠組みを通じて実施されており、現在は141の国や地域が参加しています。
2019年1月、OECDは再開した国際協議が2つの重要な柱に重点を置くことを伝えるポリシーノートを発表しました。その第1の柱は経済のデジタル化によって生じる幅広い課題に対処し課税権の配分に重点を置くこと、そして第2の柱はそれ以外のBEPSに関する懸念に取り組むことです1。
2019年5月、OECDは下記の2つの柱を反映する、「経済のデジタル化から生じる税務上の課題を解決するコンセンサス構築に向けたワークプログラム」を公表しました2:
- 第1の柱:市場国により多くの課税権を配分するための新たなネクサスと所得配分の策定
- 第2の柱:新たなグローバルミニマム課税ルールの策定
2020年10月、OECDは第2の柱に関する詳細なブループリントをを公表しました3。2021年1月、OECDは第1の柱と第2の柱のブループリントに寄せられた利害関係者からの膨大なコメントに関連して、オンラインでの公聴会を実施しました4。
2021年7月1日、OECDは2つの柱に関して包摂的枠組み加盟国130ヵ国が合意した主要なパラメータを反映した、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するための2本の柱から成る解決策に関するステートメント」(7月ステートメント)を公表しました。その時点で、包摂的枠組み加盟9カ国(バルバドス、エストニア、ハンガリー、アイルランド、ケニア、ナイジェリア、ペルー、セントビンセント及びグレナディーン諸島、スリランカ)は、7月ステートメントに参加しませんでした5。バルバドス、ペルー、セントビンセント及びグレナディーン諸島はその後、合意に参加しました。2021年8月末には、トーゴが包摂的枠組みと7月ステートメントに参加しました。
OECDは2021年10月、包摂的枠組みが経済のデジタル化に伴う税務上の課題に対処する2つの柱に関するソリューションに合意したこととその実施スケジュールを示すステートメントを公表しました6。包摂的枠組み参加140カ国の内の136カ国がステートメントに合意しました。7月ステートメントに参加しなかったエストニア、ハンガリー、アイルランドは、10月ステートメントに参加しました。7月ステートメントに参加したパキスタンは、10月のステートメントに参加しませんでした。ケニア、ナイジェリア、スリランカはどちらのステートメントにも参加しませんでした。モーリタニアは包摂的枠組みの加盟国になってから10月ステートメントに参加し、合意に参加した加盟国は合計で137カ国になりました。
詳細な考察
第2の柱は、多国籍企業に対して合意された15%の税率を課す新たなグローバルミニマム課税ルールを採用しています。ミニマム課税は財務会計基準に基づいて計算され、利益と納税額の2つの主要な構成項目に依拠しています。一般的に、同ルールは年間売上高が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業グループに適用されます。
第2の柱には、GloBEルールを構成する2つの相互に連動するルールが含まれています:すなわち、1)支配下にある海外子会社の所得を親会社に上乗せする形でトップアップ課税を課す所得合算ルール(IIR)と;2)多国籍企業グループ内の低課税事業体の所得が、IIRによるトップアップ課税の対象とならない場合に、損金算入の否認あるいは他の調整を通じてトップアップ課税を課す軽課税支払ルール(UTPR)です。また、第2の柱にはSTTRも含まれており、これはミニマム税率を下回る課税しか受けていない関連会社に対する特定の支払いに対して、源泉地国が源泉徴収税を課すことを認める条約に基づいたルールです。
2021年12月20日、OECDと包摂的枠組みは第2の柱モデルルールを公表しました。このモデルルールはGloBEルールの範囲とメカニズムを定義しています。モデルルールは10の章から構成されています:
第1章:適用範囲
第2章:IIRとUTPRの適用及びトップアップ課税の配分方法
第3章:所得(又は損失)
第4章:対象税金
第5章:実効税率とトップアップ税
第6章:企業買収・売却とジョイントベンチャー
第7章:課税中立性と分配時課税制度
第8章:情報申告義務とセーフハーバー
第9章:移行ルール
第10章:用語の定義
本アラートでは、第1章:適用範囲、第2章:IIRとUTPRの適用及びトップアップ課税の配分方法、第3章:所得(又は損失)、第4章:対象税金、第5章:実効税率とトップアップ税、について解説しています。第6章:企業買収・売却とジョイントベンチャー、第7章:課税中立性と分配時課税制度、第8章:情報申告義務とセーフハーバー、第9章:移行ルール、第10章:用語の定義につきましては、2022年1月中旬に発行予定のアラート後編をご参照ください。
第1章 – 適用範囲
第1章では、GloBEルールの適用範囲に含まれる多国籍企業グループを決定するためのルールを規定しています。また、特定の投資型企業や各国地域で特別な地位を有する組織に対する適用除外についても定めています。
適用対象
検証対象年度の直前の4事業年度のうち2事業年度において、最終親事業体(UPE)の連結財務諸表上の年間売上高が7億5千万ユーロ以上であれば、多国籍企業グループとその構成事業体はGloBEルールの適用範囲に含まれます。モデルルールには明記されていませんが、10月の声明では、各国地域は、自国地域に本社を置くグループに対してIIRを閾値を設けずに適用することもできるとしています。
多国籍企業グループとは、2つ以上の国地域に所在する事業体で構成されるグループを指します。グループとは、所有又は支配を通じて関連し、以下のいずれかに該当する事業体(すなわち、個別の財務諸表を作成する法人又は組織)の集合体を指します。
- 最終親事業体の連結財務諸表に含まれている
- 規模又は重要性のみを理由として、あるいは事業体が売却目的で保有されていることを理由として、連結財務諸表から除外されている
また、単体の事業体(本店)が少なくとも1つの恒久的施設を他の国地域に有している場合、多国籍企業グループとされます。
構成事業体とは、グループに含まれる事業体、又は本店の恒久的施設です。
最終親事業体とは、所有・支配の連鎖の最上位に位置し、他の事業体に所有されていない事業体です。
連結財務諸表は、(i)国際財務報告基準(IFRS)又は特定の国の一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)に準拠して作成された財務諸表、(ii)(i)の基準に沿って作成されていないが、IFRSからの乖離を防ぐために7千5百万ユーロを超える項目や取引の調整を反映した財務諸表、又は(iii)事業体がIFRS又は特定のGAAPに準拠した財務諸表の作成が要求された場合に作成されたであろう財務諸表です。
除外事業体
モデルルールでは、特定の事業体について、GloBEルールの適用除外を定めていますが、多国籍企業グループの判定や、多国籍企業グループがGLOBルールの適用範囲となる収益の閾値を満たすかどうかの判定においては、除外されません。
最終親事業体であるかどうかに関わらず除外される事業体は以下の通りです。
- 政府機関7
- 国際機関8
- 非営利団体9
- 年金基金10
多国籍企業グループの最終親事業体である場合のみ除外される事業体は以下の通りです。
- 投資ファンド11
- 不動産投資ビークル12
上記の1つ又は複数の除外事業体によって所有されている事業体も、所有に関する閾値及び活動条件が満たされる場合は除外されます。
また、5年間の一貫性を要件として、ある事業体を除外事業体として扱わないという選択も可能です。
第2章 – IIRとUTPRの適用及びトップアップ課税の配分方法
第2章では、どの事業体がトップアップ税を支払う義務があるか、また、その事業体に課されるトップアップ税の配賦分を決定するためのルールを定めています。具体的には、IIRとUTPRのメカニズムについて説明しています。
IIRのメカニズム
IIRは、GloBEルールによる実効税率(ETR)が最低税率を下回り、低課税と判定された国地域にある構成事業体(低課税構成事業体)に関するトップアップ税の配賦分を親事業体が支払うことを要求しています。IIRには、最終親事業体から始まるトップダウン方式の順序付けルールがあります。最終親事業体がIIRを実施している国地域に存在しない場合、IIRを実施している国地域に存在する所有権連鎖の最上位の親事業体がトップアップ税の配賦分を支払います。親企業の国地域外にある低課税構成事業体へのIIRの適用は明記されたルールにより制限されています。
トップダウン方式の例外として、split-ownership(分割所有権)の場合があります。部分的に所有されている親事業体に、部分的に支配している親事業体よりも優先してIIRを適用します。これにより、親事業体が完全に所有していない所得に対してIIRを適用せずに、低課税構成事業体の所得をIIRの対象として扱うことが保証されます。
IIRの下でのトップアップ税の親事業体への配賦分は、低課税構成事業体の親会社による所有権によって実質的に決定されるInclusion Ratio(包含率)に基づいています。親事業体が当該事業体を直接(又は間接的に)100%所有している場合、その事業体の包含率は通常100%となります。分割所有の場合、包含率は按分して決定されます。
連鎖内の複数の事業体が低課税構成事業体に対してIIRを適用する場合、IIRオフセット・メカニズムが適用されます。例えば、部分的に所有されている親事業体が2つの親事業体によって所有されており、そのうちの1つの親事業体のみが適格IIRを適用している場合が該当します。この場合、IIRを適用している最終親事業体に配賦されるトップアップ税から、部分的に所有されている親事業体のトップアップ税のうち最終親会社に配賦される金額を、差し引きます。
UTPRの仕組み
UTPRの適用により、構成事業体は、費用の損金算入が認められず(又は同等の調整を求められ)、その結果、その国地域に配賦されたUTPRトップアップ税額に相当するキャッシュベースの税金費用が追加で発生します。この調整は、課税年度に可能な範囲で適用されます。調整額がその年のUTPRトップアップ税の全額をカバーするのに不十分な場合、その差額は次の課税年度に繰り越されます。
UTPRトップアップ税の総額は、IIRと同様のメカニズムで決定されます。IIRとUTPRの特筆すべき違いは、UTPRには低課税構成事業体に対する制限がないことです。UTPRトップアップ税の合計は、低課税構成事業体ごとに計算されたトップアップ税と等しくなります(一定の調整が必要)。ただし、UTPRに基づいて配賦された低課税構成事業体のトップアップ税は、適格IIRに基づいて課されるトップアップ税によって減額されます。多くの場合、IIRが実施されている国地域の実効税率が15%未満でない限り、UTPRによって追加のトップアップ税が発生しないことを意味しています。
UTPRが実施されている国地域(UTPR国地域)に配賦されるUTPRトップアップ税の額は、UTPRトップアップ税の合計額に国地域のUTPRパーセンテージを乗じて算出されます。各国地域のUTPRパーセンテージは、UTPR国地域毎における多国籍企業グループの相対的な実体を反映する2つの要素に基づいて決定され、各要素には等しい重みが与えられます。
- 従業員係数は、すべてのUTPR国地域の合計に対するUTPR国地域の従業員の数です。
- 有形資産係数は、すべてのUTPR国地域の合計に対するUTPR国地域の有形資産の正味帳簿価額です。
特定のカーブアウトルールに基づいて、前年度にその国地域に配賦されたUTPRトップアップ税額が対応するキャッシュベースの税金費用を追加で発生させなかった場合、その国地域はこの計算から除外されます。そのような国地域の翌年度のUTPRパーセンテージはゼロとみなされ、当該国地域に所在する構成事業体の従業員及び有形資産は計算から除外されます(ただし、すべての国地域のUTPRパーセンテージがゼロの場合は、このルールは適用されません)。
第3章 - 所得(又は損失)
第3章では、各構成事業体のGloBE所得(損失)を計算するためのルールを規定しています。この計算は、GloBEルールの中心的な要素であり、ETRの計算において重要な役割を果たします。財務会計上の純利益(損失)(妥当とされる会計基準に基づいて決定)が計算の起点となり、本章で説明するルールに基づいて調整がなされます。
GloBE所得(損失)
GloBE所得(損失)の計算は、最終親事業体の連結財務諸表の作成に使用されたグループ内取引を消去する連結調整前の純利益(損失)から始まり、最終親事業体が当該財務諸表で使用した会計基準に基づいて決定されます。
ただし、次の条件をすべて満たす場合は、異なる会計基準を使用することができます。
- 構成事業体の財務諸表がその会計基準に基づいて保持されていること
- 当該財務諸表に含まれる情報が信頼できるものであること
- 100万ユーロを超える永久差異が最終親事業体の会計基準に準拠していること
この出発点からGloBE所得(損失)に至るには、以下の項目についての調整が必要です。
- 一定の税金費用(税額控除を含む)の純額
- 配当金の除外
- 株式損益の除外
- 再評価法による損益
- 一定の資産及び負債の処分による損益
- 非対称の為替差損益
- 政策上認められてない費用
- 過年度誤謬及び会計原則の変更
- 未払年金費用
GloBE所得(損失)を計算する目的のために、申告を行う構成事業体は、特定の条件の下で、各国の税法上認められている株式報酬の控除額を、財務諸表に含まれていた額の代わりに用いることを選択することができます。この選択は5年間適用され、同じ国地域にあるすべての構成事業体に対して一貫して適用されなければなりません。この選択には経過措置が適用されます。
異なる国地域に所在する構成事業体間の取引は、独立企業原則に則ったものでなければならず、同じ取引額をそれぞれの勘定に計上する必要があります。同一国地域内の構成事業体間での資産の売却又はその他の移管による損失は、GloBE所得(損失)に含まれる場合、独立企業原則に基づいていなければなりません。
公正価値会計又は減損会計の対象となる資産及び負債の場合、申告を行う構成事業体は、GloBE所得(損失)の計算のために、実現主義によって損益を認識することを選択できます。この選択をした場合には、当該国地域におけるすべての構成事業体に対して、5年間強制的に適用されることになります。
ある国地域の構成事業体が第三者に対して現地の有形資産を売却し、全体として利益が発生した場合、4年間の遡及期間をもって調整を行う年次選択が可能です。この選択をした場合には、前事業年度の実効税率及びトップアップ税金(ある場合)を再計算する必要があります。
最終親事業体は、税務上の連結グループに含まれる同一国地域内の構成事業体間の取引について、連結会計処理により、収益、費用、損益を消去することを選択できます(強制適用期間は5年間)。
低税率事業体のGloBE所得(損失)から、グループ内融資契約の期間中に、高税率の相手方の課税所得に含まれないと合理的に予想されるグループ内融資にかかる費用を除きます。
保険会社が支払った税金のうち保険契約者に課されるもの、及び規制対象の事業体におけるTier 1資本に関連する自己資本の増減については、特定のルールが適用されます。
企業再編の場合及び分配時課税制度に関しては、財務会計上の純利益(損失)に対する特別な調整が必要となります。
国際海運業所得
国際海運業及び付随的活動から得られる一定の所得は、GloBE所得(損失)から除外されます。適格国際海運業所得は、国際交通による旅客又は貨物の輸送に関するもので、タイムチャーターによる船舶のリース(又は裸用船、ただし他の構成事業体にリースする場合のみ)などが含まれます。付随的活動とは、主に国際交通による旅客又は貨物の輸送に関連して行われる特定の活動をいいます。ある国地域にある全ての構成事業体の付随的活動から稼得される適格純所得は、国際海運事業から稼得された適格純所得の50%を上限とします。
この除外の適用を受けるためには、構成事業体は、すべての船舶に関連する戦略的又は商業的管理が、当該構成事業体が所在する国地域内において効果的に実施されていることを示さなければなりません。
恒久的施設への配賦
GloBE所得(損失)を恒久的施設(PE)とその本社(本店)の間で配賦する場合、特別なルールが適用されます。
この目的のため、PEには次のような事業を行う場所が含まれます:(a)適用される租税条約に従ってPEとして扱われ、所得と資本に関するOECDモデル租税条約第7条に類似する規定に従って課税される;(b)帰属する所得が、国地域の国内税法に基づいて純額で課税される(みなしPEを含む);(c)法人所得税制度がない国地域に所在し、所得と資本に関するOECDモデル租税条約においてPEとして扱われ、OECDモデル租税条約第7条に基づいて帰属する所得に対して課税される;(d)(a)~(c)に記載されていない場合、本社の国地域外で事業を行っているが、その国地域がその事業に帰属する所得を免除している
一般的には、PEの個別財務諸表に反映された純利益に従う必要があります。個別財務諸表が存在しない場合は、PEが最終親事業体の会計基準に従って単独で財務諸表を作成した場合に反映されるであろう額を純利益とすることになります。
PEの財務諸表は、必要に応じて、実際に課税された所得にかかわらず、租税条約、国内法又は(恒久的施設の種類による)OECDモデル租税条約に基づいて、PEに帰属する所得(損失)のみを反映するよう調整されます。
PEの純利益(損失)は、通常、本店のGloBE所得(損失)に含まれません。ただし、PEに損失があり、それが本店の法人税計算において費用として扱われ、PEの国地域と本店の国地域の両方で課税対象となる所得項目と相殺されない場合には、例外として扱われます。この場合、恒久的施設にその後発生した所得には、再認識のルールが適用されます。
透明事業体への配賦
透明事業体の所得(損失)の配賦には特別なルールが適用されます。本OECDのルールではフロースルー事業体という言葉を用いています。透明/フロースルー事業体とは、設立された国地域において、その収益、費用、損益に関して、税務上透明である事業体のことです。ただし、他の国地域において税務上の居住者でありその所得及び利益について対象税金が課される場合を除きます。透明/フロースルー事業体には、持分保有者の国地域において税務上透明でない透明/フロースルー事業体であるリバース・ハイブリッド事業体も含まれます。
これらの事業体の所得又は欠損は、まず、多国籍企業グループに属さない事業体の持分を考慮して減額されます。次に、PEを通じて事業を行っている場合には、所得又は損失をフロースルー事業体のPEに配賦します。残りの所得又は損失は、一般的に持分保有者の持分に応じて持分保有者に配賦されます。計算は所有持分ごとに個別に行われます。ただし、フロースルー事業体が最終親事業体又はリバース・ハイブリッド事業体である場合、残りの所得は最終親事業体又はリバース・ハイブリッド事業体に配賦されます。
第4章 - 対象税金
第4章では、各構成事業体のGloBE所得(損失)に帰属する税、つまり「対象税金」について定めています。これは、実効税率の計算における2つ目の構成要素となります。この章には、GloBEルールの目的のみに適用される対象税金の定義が含まれています。また、構成事業体間の対象税金の配賦に関する特定のルール及び一時差異に対処するためのメカニズムが含まれています。
調整後対象税金の計算方法は、ブループリントから大きく変化した項目です。ブループリントからの主な変更点としては、財務諸表において発生した当期税金費用を計算の基礎に用いること及び一時差異への対応として税効果会計の考え方を用いることが挙げられます。
調整後対象税金
ある事業年度における構成事業体の調整後対象税金は、対象税金について財務会計上の純利益(損失)上発生した当期税金費用に次の額を調整して計算されます。
- 対象税金に対する加算・減算調整に関する純額(下記を参照)
- 合計繰延税金調整額(下記を参照)
- GloBE所得(損失)の計算に含まれた額に関連する、資本に直入された又はその他包括利益に計上される対象税金の増減
構成事業体の対象税額への加算調整は、次の合計額から構成されます。
- 財務諸表において費用として税引前利益に含まれる対象税金の額
- GloBE欠損繰延税金資産の使用額
- 過年度において減算調整として取り扱われた不確実な税務ポジションに関連する税額として、対象事業年度において支払われた対象税金の額13
- 当期税金費用の減額として計上された適格還付付き税額控除に関連する控除又は還付を受けた額14
構成事業体の対象税額への減算調整は、次の合計額から構成されます。
- GloBE所得(損失)の計算において除外される所得に関する当期税金費用
- 当期税額費用の減額として計上されていない非適格還付付き税額控除に関する控除又は還付15
- 適格還付付き税額控除を除く、当期税金費用の調整として取り扱われない構成事業体に還付される対象税金
- 不確実な税務ポジションに関連する当期税金費用
- 対象事業年度終了後3年以内に支払われる見込みのない当期税金費用
対象税金の定義
対象税金は次の4つのカテゴリーに分類されます。
- 構成事業体の所得若しくは利益、又は当該構成事業体が持分を有する構成事業体の所得又は利益の割合に関する、構成事業体の財務諸表において記載された税
- 適格分配時課税制度の下で配当された利益、みなし利益配当又は非事業費用に課された税
- 一般的に適用される法人所得課税の代わりに課された税
- 利益剰余金又は自己資本を参照して課された税金(所得と自己資本に基づく複数の構成要素に課される税も含む)
適格IIRによって発生したトップアップ税、適格国内最低トップアップ税は対象税金から除かれます。適格UTPRの適用の結果、構成事業体において発生したトップアップ課税、非適格還付付インピュテーション税、保険会社が保険契約者の申告の観点から支払う税金についても除かれます。
対象税金の配賦
GloBE所得(損失)に対応させる観点から構成事業体間の対象税金の配賦に関する特定のルールが設けられています。
- PEの対象税金をPEに配賦
- 税務上の透明事業体の持分保有者において発生する対象税額は、透明事業体の持分保有者に配賦
- CFC税制による対象税額はCFCに配賦
- パススルー税制によりハイブリット事業体の持分保有者において発生する対象税額は、ハイブリッド事業体に配賦
- 構成事業体からの分配に対して、直接的な構成事業体の持分保有者において発生する対象税金は、分配を行った構成事業体に配賦
上記のCFC及びハイブリッド事業体に関する特定のルールにより受動的所得に関して配賦される対象税金は、構成事業体の持分保有者によって当該受動的所得に関して課された対象税金を含めず計算した構成事業体のトップアップ税率に、CFC税制又はパススルー税制において算入される構成事業体の受動的所得の額を乗じた額を超えない範囲で配賦されます。
本制限は、構成事業体の受動的所得にかかる実効税率が最低税率15%を上回らない様にすることを目的としています。構成事業体の受動的所得にかかる実効税率が最低税率15%を上回ることにより、構成事業体のその他の所得及び同一国地域にある構成事業体の所得が、配賦によって引き上げられるのを防止するためです。
一時差異への対応メカニズム
モデルルールでは、財務諸表に計上された対象税金に関する繰延税金費用に一定の除外及び調整を行った合計繰延税金調整額によって一時差異に対応することとされています。財務諸表上の繰延税金費用は、適用税率が最低税率を上回る場合、最低税率15%にて計算し直す(recast)ことが求められます。繰延税金費用の額は、特定の除外や調整の対象とされています。
次の額は、合計繰延税金調整額から除外されます。
- GloBE所得(損失)の計算上除外された項目に関する繰延税金費用
- 発生税金費用の否認及び未請求発生費用に関する繰延税金費用16
- 繰延税金資産に関する評価性引当もしくは会計認識調整により生じた調整額
- 国内において適用される税率の改正によって再計算された繰延税金費用
- 税額控除の発生及び使用により生じた繰延税金費用
さらに、合計繰延税金調整額は次の様に調整されます。
- 発生税金費用の否認及び未請求発生費用に関して対象事業年度において支払われることになった税額の加算
- 当該事業年度に支払った、過年度に計上していた再認識繰延税金負債の加算
- 当期の税務上の欠損に対する繰延税金資産が、会計上の認識基準を満たさなかったことにより認識されなかった場合において、もし認識された場合には合計繰延税金調整額を減算したであろう額の減額
最低税率15%を下回る税率で記帳されている繰延税金資産は、納税者がGloBE損失に帰属する繰延税金資産であることを示した場合、繰延税金資産を記帳する事業年度において、最低税率により再計算をすることが可能です。
繰延税金負債の計上により認識された税金費用の引当が、5年以内に実際に支払われない場合には、当該繰延税金負債に再認識ルールが適用されます(再認識対象外引当を除く)。再認識額は当初計上した事業年度の対象税額の減算として扱われ、当該年度の実効税率とトップアップ税は再計算されます。
再認識対象外引当とは、次の項目に関連する繰延税金負債の変動により発生する税金費用の引当です。
- 有形資産の減価償却費
- 不動産の使用又は有形固定資産への重要な投資を要する天然資源の採掘に関して、政府から受ける使用許諾等に係る費用
- 研究開発費
- 廃炉及び除染に関連する費用
- 未実現純益に対する公正価値会計
- 純為替差益
- 保険準備金及び保険契約に関する繰延取得費用
- 構成事業体によって同一国地域に所在する固定資産に再投資された、同一国地域に所在する有形資産の売却による譲渡益
- 上記に関連して発生した会計基準の変更の結果発生した追加額
GloBEロス選択
申告を行う構成事業体は、上記の一時差異への対応メカニズムに代えて、GloBEロス選択を行うことが認められています。本選択は国地域毎になされます。
GloBEロス選択が行われた場合、申告を行う構成事業体は、国地域毎にGloBE純損失となる各事業年度において、GloBEロスに係る繰延税金資産を計算します。GloBEロスに係る繰延税金資産は、ある年度におけるGloBE純損失に最低税率15%を乗じることにより計算されます。国地域のGloBEロスに係る繰延税金資産は、当該国地域の対象税額を増加させるために取り崩される後続事業年度まで繰り越されます。
申告後調整及び税率の変化
過去の事業年度に関する財務諸表上の対象税金に対する調整について、詳細なルールが設けられています。ある国地域の対象税金が増額となる場合には、調整が行われた事業年度の対象税金の額の調整として取り扱われます。一方で、その国地域の対象税金の額が減額となる場合には、対象となった過去事業年度の実効税率とトップアップ税を再計算することが求められます。
ただし、申告を行う構成事業体は、対象税金の重要な減額ではない(当該国地域における減額が1百万ユーロよりも少ない)場合、調整が行われた事業年度の対象税金の額の調整として取り扱う、年次選択を行うことができます。
国内適用税率の変化に伴う取扱いについても、詳細なルールが設けられています。国内適用税率の引下げに伴う繰延税金費用は、その引下げによって税率が最低税率より低い税率になる場合、構成事業体の過去事業年度に対する対象税金の納税義務の調整として取り扱われます。一方で、国内適用税率の引上げに伴う繰延税金費用が実際に支払われた場合において、その支払い額が当初最低税率15%未満の税率にて計上されていた場合、過去事業年度の対象税金の納税義務の調整として取り扱われ、最低税率で再計算された繰延税金費用を上限として調整されます。
構成事業体の過去の事業年度において当期税金費用として認識され、当該事業年度の調整対象税金に含まれていた1百万ユーロ超の未払い税額が、当該事業年度の終了後3年以内に支払われなかった場合、当該事業年度の実効税率とトップアップ税は、実際に支払われなかった額を除いて再計算しなければなりません。
第5章 - 実効税率とトップアップ税
第5章では、9つのステップに分けて、実効税率とトップアップ税の計算方法を定めています。
- ステップ1:各構成事業体のGloBE所得(損失)を、同一国地域内にある他の構成事業体の所得(損失)と合算
- ステップ2:各構成事業体の調整後対象税金を、同一国地域内にある他の構成事業体の所得(損失)と合算
- ステップ3:国地域の合算調整後対象税金を合算GloBE所得(損失)で除算して、国地域の実効税率を決定
- ステップ4:どの国地域が低税率の(実効税率が最低税率15%を下回る)国地域であるかを特定
- ステップ5:各低税率の国地域の(最低税率と国地域の実効税率との正の差に等しい)トップアップ税率を計算
- ステップ6:事業実態に基づく所得控除額の計算
- ステップ7:低税率国地域のGloBE純所得から事業実態に基づく所得控除を減算することにより、その国地域の超過利益を決定
- ステップ8:トップアップ税を決定;そして最後に
- ステップ9:トップアップ税を低税率国地域の各構成事業体に配賦
また、第5章では、デミニマス除外(小規模国地域の除外)や、少数所有親事業体に関する実効税率の計算に関する特別なルールも含まれています
実効税率の決定
多国籍企業グループの各国地域の実効税率は、以下のとおりに決定されます:
事業年度における国地域のGloBE純所得は、次の計算結果として生じる正の額となります:
国地域内の全ての構成事業体のGloBE所得 - 国地域内の全ての構成事業体のGloBE損失
投資事業体の調整後対象税金とGloBE所得(損失)は、国地域の実効税率の決定及びGloBE純所得の決定から除外されます
トップアップ税
各構成事業体に係るトップアップ税の計算は、事業年度の国地域のトップアップ税率の決定から始まります。トップアップ税率は、最低税率15%と実効税率との間の正の税率差を指します。
このトップアップ税率は、その事業年度のGloBE純所得から事業実態に基づく所得控除額を除外した国地域の超過利益に適用されます。事業実態に基づく所得控除額とは、以下で説明する給与カーブアウトと有形資産カーブアウトを指します。
最後に、事業年度の国地域のトップアップ税は、(i)トップアップ税率に超過利益を乗じたものに、(ii)加算当期トップアップ税を加算し、(iii)国内トップアップ税を減算したものとなります。
加算当期トップアップ税は、(i)過年度の実効税率を調整したことによるトップアップ税額、又は(ii)GloBE純所得はないが、調整後対象税金がゼロ未満であり、かつ期待調整後対象税金(Globe所得(損失)に15%の最低税率を乗じたもの)を下回る場合には、調整後対象税金と期待調整後対象税金の差額となります。
国内トップアップ税とは、事業年度の国地域の適格国内最低トップアップ税に基づいて支払われる額です。適格国内最低トップアップ税とは、国地域の法律で実施され、国内企業に対するGloBEトップアップ税の影響を模するミニマムタックス課税制度を指します。
最後に、トップアップ税は、その国地域内のすべての構成事業体のGloBE所得の合計に対するその構成要素事業体のGloBE所得の比率に基づいて、GloBE所得を有する各構成事業体に配賦されます。
事業実態に基づく所得控除額
国地域の事業実態に基づく所得控除額は、トップアップ税を計算するために考慮される超過利益を決定するために、GloBE純所得から除外されます。この除外を適用しないことを年次選択することが可能です。
国地域の事業実態に基づく所得控除額は、その国地域内の各構成事業体(投資事業体を除く)の給与カーブアウトと有形資産カーブアウトの合計額です。
国地域に所在する構成事業体の給与カーブアウトは、当該国地域において多国籍企業グループのために活動を行う適格従業員の適格給与コストの5%に相当しますが、以下のような適格給与コストは除きます:
- 資産計上され、適格有形資産の帳簿価額に含まれるもの
- 除外された国際海運収入及び適格な補助的国際海運収入に帰属するもの
国地域に所在する構成事業体の有形資産カーブアウトは、当該国地域に所在する適格有形資産の帳簿価額の5%に相当します。適格有形資産とは:
- 国地域内に所在する不動産、工場、機械器具
- 国地域内の天然資源
- 国地域内に所在する有形資産の賃借人の使用権
- 不動産の使用又は有形固定資産への重要な投資を要する天然資源の採掘に関して政府から受ける使用許諾等
適格有形資産の帳簿価額の計算は、最終親事業体の連結財務諸表の作成目的で記載された報告事業年度の期首と期末の帳簿価額(減価償却費、償却費又は減耗費の累積を控除し、給与費用の資産化に起因する金額を含む)の平均に基づいて行います。
PE及び透明/フロースルー事業体の適格給与コスト及び適格有形資産の計算には、特別なルールが適用されます。
10月の声明で述べられているように、移行ルールでは、5%の税率は、給与カーブアウトでは10%に、有形資産カーブアウトでは8%に引き上げられ、スケジュールに基づいて10年かけて5%に段階的に引き下げられます。
加算当期トップアップ税
過年度の実効税率及びトップアップ税が、実効税率の調整に従って再計算される必要がある、又は再計算が認めれる場合に備えて、ルールが設けられています。
デミニマス除外
国地域に所在する構成事業体のトップアップ税は、年次のデミニミス除外の選択により、次の場合に事業年度において税額ゼロとみなされます:
- 当該国地域の平均GloBE収入が1千万ユーロ未満、かつ
- 当該国地域の平均GloBE所得(損失)が損失又は100万ユーロ未満
これらの平均値を算出するために、過去2年間のGloBE収入及びGloBE所得(損失)が、当年度のGloBE収入及びGloBE所得(損失)とともに考慮されます。
少数所有構成事業体
少数所有サブグループ(GloBEルールが別個の多国籍企業グループであるかのように適用される)及び少数所有サブグループの一部ではない少数所有構成事業体(単独でGloBEルールが適用される)には、特定のルールが適用されます。
トップアップ税の計算例:
以下の簡略化した例では、ETRの計算方法を段階的に説明しています。
ステップ 1 - GloBE所得(損失)の集計
ステップ 2 - 調整後対象税金の集計:
国地域AB | GloBE所得 | 調整後対象税金 |
A社 | 100 | 30 |
B社 | 200 | 0 |
合計 | 300 | 30 |
ステップ3 – 実効税率(ETR)の計算
ステップ4 - 低税率国地域の決定:
国地域AB ETRが15%(= 10%)未満である場合、国地域ABは低税率国地域
ステップ5 - トップアップ税率:
トップアップ税率 = 15% - 10% = 5%
ステップ6 - 実質ベースの所得除外額の計算
国地域AB | 給与費用 | 給与カーブアウト(10%) | 有形固定資産の帳簿価額 | 有形固定資産 カーブアウト(8%) |
A社 | 50 | 5 | 93.75 | 7.5 |
B社 | 25 | 2.5 | 125 | 10 |
合計 | 7.5 | 17.5 |
合計:25(7.5 + 17.5)
ステップ7 - 超過利益の決定
超過利益額 = 300 - 25 = 275
ステップ8 – トップアップ税額の決定:
トップアップ税 = 275×5% = 13.75
ステップ9 - トップアップ税の配賦:
国地域AB | GloBE所得 | GloBE所得の割合 | 配賦されたトップアップ税 |
A社 | 100 | 33.33% | 4.58 |
B社 | 200 | 66.66% | 9.17 |
合計 | 300 | 13.75 |
次のステップ
実行計画と目標スケジュールを含む10月ステートメントによれば、第2の柱は2022年に法制化され2023年に発効されますが、UTPRは例外として2024年に発効される予定です。
2022年末までには、行政手続きをカバーする実施枠組み(提出義務、検証プロセスなど)やGloBEルールの協調的な実施を円滑にするセーフハーバーの策定が予定されています。実施枠組みに関する公聴会は2022年2月に開催される予定です。
また、ルールの目的と運用を説明するコメンタリーによって補完されるSTTRを実施するためのモデル条約の規定も策定されます。さらに、包摂的枠組みは関連する二国間協定におけるSTTRの迅速で一貫した実施を円滑にするために、2022年半ばまでに多国間協定を策定します。STTRに関する公聴会は2022年3月に開催される予定です。
企業への影響
モデルルールは、2020年10月に公表された第2の柱のブループリントを大幅に改定しています。モデルルールにはブループリントの概念から大きな変更が加えられており、企業にとってはこのことを念頭にモデルルールを慎重にレビューすることが重要と考えられます。加えて、OECDが2022年前半に公表することが見込まれるコメンタリーは、モデルルールの解釈と運用に関連する追記情報であり、グローバルミニマム課税パッケージの重要な構成部分になることから、注目を要します。
モデルルールは、グローバルミニマム課税の複雑さと、新たなルールの対象となる企業がルール発効時に備えて大規模な投資が必要となることを示唆しています。これに関連して、包摂的枠組みは第2の柱のグローバルミニマム課税の協調、運営、コンプライアンスに関するガイダンスを提供するための実施枠組みの策定に取り組んでいます。しかし、10月ステートメントが示すスケジュールは、実施枠組みが2022年末までに公表されず、予想される2023年1月の発効直前になる可能性を想定しています。OECDが2022年2月の開催を予定している公聴会は、手続きとコンプライアンスのメカニズムに関する一定の情報を提供するとみられ、企業にとってはOECDと包摂的枠組みとのコンプライアンスに関する実務的視点を共有できる貴重な機会になることでしょう。また、実施枠組みの公表のタイミングを踏まえると、企業は最終的な実施枠組みが明らかになる前に新たなグローバルミニマム課税への遵守に向けた準備を始める必要があると考えられます。
モデルルールと間もなく公表されるコメンタリーは、各国政府がグローバルミニマム課税を国内の租税法に組み入れるために使用することを目的としています。さまざまな居住地国がモデルルールをどう捉えるかは大きく異なる可能性があり、企業はすべての関連する居住地国での立法活動を注視することが重要です。さらに、他の国地域によるグローバルミニマム課税ルールの導入に伴い、自国の税務構造への影響を検討している国地域は、モデルルールとコメンタリーを考慮すると推察されます。例えば、インセンティブ制度の改正や国内のトップアップ課税の導入が検討されるかもしれません。企業は該当する国地域における動向を注視すべきです。
新たな第2の柱ルールの実施に関する最初の大きな法制立案である、欧州委員会によるグローバルミニマム課税に関するEU指令草案が、2021年12月22日に公表されています。加えて、米国では立法活動が保留中であり、現行のGILTIルールを合意済みの第2の柱アプローチに調和させるための変更が絡んでいます。第2の柱に関する他の国地域における立法活動も本格化すると推測されます。
モデルルールは、第2の柱ルールを策定する初期段階においてOECDが主催した公聴会の際に、企業代表者が指摘したいくつかの重要な点に関する検討事項を反映しています。とりわけ、モデルルールは、特定の課税前利益と課税所得との差異に対応するための特定の条項を含んでおり、繰延税金の会計上の概念が考慮されています。このモデルルールの側面と間もなく公表されるコメンタリーの関連要素は、慎重に検証する必要があります。予測可能性のニーズと簡略化の重要性もまた、第2の柱に関する協議においてビジネスの利害関係者によって強調され、OECDはこれらの課題が作成段階にある実施枠組みにおいて取り扱われると示唆しています。
モデルルール及び各国地域における立法実施に向けて、次の主要論点を考慮する必要があります:
- 各国地域はモデルルールの750百万ユーロの収益閾値に適合しなくとも、自国に本拠を構える多国籍企業にIIRを自由に適応することができます。各国地域がこのアプローチに従えば、国別報告義務の対象ではない企業においても新たに詳細な報告義務が課せられ、かかるIIRによる税務上の大きな影響が出てくるでしょう。したがって、モデルルールの収益閾値に適合しない多国籍企業にとって、母国でのIIRの実施を監視することが重要です。
- GloBEの課税ベースと対象税金の計算は、税務会計ではなく財務会計に基づいていますが、他の目的では使われない新たな測定に至る多くの調整が必要になります。調整後対象税金の計算に関して、モデルルールにおける繰延税金会計の利用は財務会計で計上される繰延税金費用に基づいていますが、同時に調整、最低税率15%に基づく再計算、そして将来的な再計算が必要になります。したがって、IIRとUTPRの適用に必要な計算を行うためには、企業は過去のデータや税務以外のデータを含む追加のデータを収集及び維持する必要が出てきます。
- モデルルールの下での実効税率の計算に伴うこれらの複雑さに加えて、トップアップ課税の計算も複雑であり、GloBEルールの全ての主要な概念への明確な理解が求められます。
企業にとって、自社の税務上のポジションとそのデータ、そしてコンプライアンスプロセスとITシステムに関する、グローバルな税制変更による潜在的影響を評価することが重要です。また、企業は国内の課税立法の変化を通じて、グローバルミニマム課税ルールの実施について、関連する国地域の税制改正の動向を注視すべきです。OECDが今後数ヵ月以内に主催する公聴会への参加を検討することも含めて、企業はこれらの提案によるビジネスへの影響に関して、国と多国間レベルでのOECDや政策当局との対話を検討する必要があります。
最後に、実効税率の計算は税務当局への提出のみならず、開示が求められる可能性もあることを認識すべきです。欧州委員会は、第2の柱の手法をベースに計算された実効税率の開示に関するEU指令を2022年に策定する意向を表明しています。
モデルルールと第2の柱に関するその他の展開につきまして、EY Japanでは2022年1月25日に「2022 Japan Tax Update:令和4年度税制改正大綱の解説及び最近の税務トピックス 1日目:第2部 BEPS2.0 Pillar 2の条文案の解説」を開催させていただく予定です。ウェブキャストに登録するには、こちらをクリックしてください。
巻末注
- 2019年1月29日付EY Global Tax Alert、「OECD’s new insights describe growing support on comprehensive changes to international tax policy, beyond digital(OECDの新たな洞察、国際的な税務政策へのデジタルを超える包括的な変化に対する支援の拡大を示す)」をご参照ください。
- 2019年6月3日付EY Global Tax Alert、「OECD workplan envisions global agreement on new rules for taxing multinational enterprises(OECDワークショップ、多国籍企業ヘの課税に関するグローバル合意を予想)」、2019年6月12日付EY Japan税務アラート「OECD、多国籍企業課税に向けた新しいグローバル合意達成のためのワークプランを採択」をご参照ください。
- 2020年10月19日付EY Global Tax Alert、「OECD releases BEPS 2.0 Pillar Two Blueprint and invites public comments」をご参照ください。
- 2021年2月1日付EY Global Tax Alert、「OECD Inclusive Framework political leaders promote global consensus following OECD’s public consultation on Pillar One and Two Blueprints(OECD包摂的枠組みの政治的リーダー、 OECD主催の第11および及び第2の柱のブループリントに関する公聴会に続いて国際的合意を提唱)」をご参照ください。
- 2021年7月1日付EY Global Tax Alert、「OECD announces conceptual agreement in BEPS 2.0 project」、2021年7月8日付EY Japan税務アラート「OECDがBEPS 2.0プロジェクトに関する大枠合意を発表」をご参照ください。
- 2021年10月11日付EY Global Tax Alert、「OECD releases statement updating July conceptual agreement on BEPS 2.0 project」、2021年10月14日付EY Japan税務アラート「OECD、BEPS 2.0プロジェクトの大枠合意の更新に関する声明を発表」をご参照ください。
- 政府の目的の実現又は資産管理を目的として、政府によって所有され、政府に対して説明責任を負う事業体。解散又は分配された場合、資産又は利益は政府に帰属します。
- 主として政府により構成され、設立された国地域の政府と協定を結んでいる政府間組織又はその100%出資の機関・団体。なお、利益は私人に帰属しません。
- 居住する国地域で設立され、特定の目的のために機能する、又は社会福祉を促進するためにのみ運営されている団体。このような事業体の所得については、所得税が免除されます。その株主又はメンバーは、そのような所得に関心を持たず、後者は私人に分配されることはありません。事業体が解散した場合、資産は非営利団体又は政府に分配されます。
- 退職給付を管理又は提供する事業体で、後者が支払不能に陥った場合は、国の規制等によって保護されます。この事業体は、政府又は地方政府によって規制されています。また、年金サービス事業体とは、主に退職給付を管理又は提供する事業体の利益のために、資金を運用する事業体又は補助的な活動を行う事業体で、共に同じグループのメンバーであるものを指します。
- 投資ファンドの主な目的は、複数の投資家から資産を集め、特定の収益又は利益を得ること、あるいは一定の結果に対する保護を行うことです。投資ファンドは、定義された投資方針に従い規制対象となり、資産管理の専門家によって管理されます。投資家は、特定のリスクを低減又は分散することができ、ファンドの資産又は収益から利益を得る権利を有します。
- 不動産投資ビークルとは、主に不動産を保有する事業体で、自社又は持分保有者の単体レベルで課税されます。
- 不確実な税務ポジションへの対応として計上された税金費用は、後述する「対象税額の減額」のとおり、調整後対象税額の計算において減額されますが、実際に実現(支払)された場合には、本項目において加算されます。
- 適格還付付き税額控除は、GloBE所得(損失)を計算する上で補助金相当の所得として扱われるため、財務諸表上減額されている場合は、本項目において加算されます。
- 非適格還付付き税額控除は、通常の税額控除として扱われます。当期税金費用から控除されていない場合は、本項目において減算されます。
- 発生税金費用の否認とは、1)不確実な税務ポジション、及び2)構成事業体からの分配に関連する、構成事業体の財務諸表上発生した繰延税金費用の変動を言います。