これまで述べてきたように、社内の業務データを使った分析を行う際にはデータの意味を理解するということが非常に重要になります。先ほどの例では変動係数を部署ごとに計算しましたが、担当者ごとに区切って計算、比較した方が見つけたい異常により詳細に迫ることができるかもしれません。この判断はデータと業務の関係をきちんと理解することで可能となります。
業務としてデータ分析をしていますと、PCのモニター画面にずっと向かって難しい計算や分析をしているのではないかとよく誤解されるのですが、データが生成された背景にある業務内容や内部統制の理解に時間を費やすことが多いのが実情です。分析対象となるデータの源泉である企業のITシステムはあくまでも業務ツールであり、そこには業務担当者の方々の考え、動き、日々の業務活動の過程がデータという形で写像として残っていきます。データ分析をするということは、その業務活動の写像であるデータを通じて、元の業務がどのように行われていたのかを推測する作業と言い換えることができるのかもしれません。
また、データ分析のためのITスキルや統計学の知識、内部統制や業務の知見などを一人の分析官だけで担うことは難しいのも実情です。より感度の高いデータ分析を行いたいと考えた場合、データ分析は複数の専門知識を持ったメンバーから構成されたチームで行うことが望ましく、例えば、データの処理に長けたIT専門家と社内の業務やルールに詳しい実務担当者の混成チームであれば、目的に合致した分析成果が期待できるのではないかと考えられます。
殊に現場担当者の知見はデータ分析に非常に大きな影響を与えることがあります。私が経験した事例ですが、販売データの分析で現場担当者の知見を得ずに進めていたため、分析作業が途中で頓挫したということがあります。分析対象としていた販売データは、販売担当者情報、承認者情報、入力担当者情報といった承認情報がとてもきれいに整備されたデータでした。業務システムのマニュアルや規程類、業務フロー文書などを確認すると、IDは個人ごとに付与されICカードによる認証システムも整備されるなど、非常に高度な職務分掌も存在していました。この情報を使ったデータ分析を行うことになったのですが、とある地方でのデータ入力現場を視察した際にこの分析は見直しを余儀なくされることとなりました。データ入力担当者が職員IDを兼ねたICカードを首に2枚かけていたのです。聞いてみると、そのうちの1枚は承認権限を持っている所長のカードで、毎朝出勤すると入力担当者がICカードを預かり、ノーチェックで承認行為を代行しているというのです。
こんなことは当然どのドキュメントを探しても載っていません。しかし現場をよく知る担当者に聞いてみると、「昔はよくあった」「地方だとまだやっているかもしれない」という情報をすぐに提供してくれました。現場を一番よく知っているのは現場の担当者です。空振りとなるデータ分析をしないためにも、業務や内部統制に詳しいメンバーの知見は非常に重要です。