1つ目は現状把握です。自社が属するバリューチェーン全体の中のどのビジネスドメインが、どの程度の市場規模・収益性・成長性を持っているか。おのおのがどのような種類・性質のリスク要因を持っているか。またそのリスクが顕在化した際の収益等へのインパクトはどの程度のものか、そして自社グループがこのバリューチェーンの中でどのようにリスクマネーを投入しているのか等の情報をタイムリーに収集し活用できるようにするために、例えばデータレイクやBIツールを応用して、ダッシュボードのイメージで可視化し全体俯瞰できるようにすることが、「攻め」のリスク管理に向けた第一歩になります。
ここでのポイントは「全体俯瞰」であり、現在自社グループが事業を展開しているビジネスドメインのみではなく、自社にとってホワイトスペースとなっている上流事業、下流事業を含めて俯瞰できることが重要です。
2つ目は将来予測です。大きな社会変動、メガトレンドによる影響は、自然災害のように突発的に発生することもありますが、多くは5年、10年という長期スパンで顕在化しバリューチェーンに変化を引き起こします。現在見えているトレンドだけでなく、将来のトレンド予測も踏まえて、より長期の視点でバリューチェーンの変化と、その中のリスク要因を捉えて影響をシミュレーションし、事業計画を見直していくことが重要です。
1つ目で俯瞰したバリューチェーンの全体像が今後どのように変化するか。またバリューチェーンの中に内包するさまざまなリスクが顕在化した際に、どのようなインパクトを与えるか。それに対して自社がどのようにリスクマネーを投入すると、どういう長期的損益となるか。これらをシナリオ別にシミュレーションするには、多くの変数とモデル式の処理が必要であり、デジタル技術の活用が必須です。
3つ目は投資モニタリングです。新たなリスクマネーの投入にあたっては、当然ながら一定の予測、シミュレーションに基づく投資回収計画が策定されます。その回収状況を財務的な結果のみではなく、重要なドライバーとなる先行指標を含めて定期的にモニタリングし、また外部要因に基づく変数の大きな変化が予測される際には、それに応じた追加投資や撤退を含めた適時の軌道修正を行い、さらには各案件の投資回収結果を踏まえて、予測・シミュレーションのモデル式自体を見直し、ブラッシュアップします。そのためのモニタリングの仕組みを整備するには、1点目と同様にデータレイクやBIツールの活用が必要になります。
最後の4点目は、戦略と資金のアラインメントです。最適な戦略に基づき事業投資を行うには資金の裏付けがあることが重要です。巨額のマネーを必要とする大型M&Aや、新規の工場建設といった場合、必要な資金をその時の自社のアベイラブルキャッシュだけで賄えるとは限りません。そのため、バリューチェーンとリスク要因の変化に関する長期予測を立て、それに対応するための自社グループの事業計画を策定し、いつどれくらいの資金が必要になるか資金の需要計画を持った上で、その需要に対して不足する資金の調達をどのような手段で行うのか、長期の資金計画を立てておくことが重要です。また逆に、長期で発生するまとまった余剰資金を事前に予測することで、その使い道として長期的な投資判断の検討材料とすることが可能です。
さらにいうと、どのような性質、程度のリスクを抱える領域に投資するかによって許容される資金のハードルレートも変わってきます。そのため、リスクが低く安定的な収益が見込める投資には借入金を充て、ハイリスクハイリターンの投資には自己資本を充てるなど、資本政策へも影響を与えることになります。
いずれにせよ、このような戦略と資金の中期的なアラインメントのためには、Ⅲで述べたトレジャリー管理システムを含む、資金観点での包括的なプラットフォームの構築が必要になります。