杉山 私たちEY Globalが毎年実施している「グローバル・インフォメーション・セキュリティ・サーベイ」(GISS)の2021年度版によると、確かに多くの企業が「サイバー攻撃の増加」を感じており、特にランサムウェアによる破壊的な攻撃に対して全回答者の3/4が大きな脅威と受け止めています。一方で、多くの企業では危機対応やリスク軽減に対して「自信がない」と回答している実情があります。サイバー攻撃には私たちが関わる会計監査にも多大な影響が出る事案も発生しています。またリモートワーク下でインターネットから直接アクセスできる社内システムを狙う攻撃や在宅勤務者を狙ったフィッシング詐欺なども増えてきました。
加藤 それらのサイバーインシデントは企業経営に大きな被害や影響を与えますね。
杉山 その通りです。会計監査の視点で見ると、無形資産の破壊や不正送金による直接的な毀損だけでなく、データ侵害による多額の罰金や訴訟リスク増大も大きな問題です。プライバシー関連の規制違反や契約違反など多様なリスクをはらんでおり、組織として保険の補償範囲と賠償費用を考慮した予測と対策を立てる必要があります。
川勝 データガバナンスの観点から考えますと、まずDX化の進展によりデータ量が増大していることに注目したいと思います。現状、少なからぬ企業で自社の膨大なデータを管理できていないケースが見受けられます。そのため組織横断的にデータを活用する場合も、データの統合や更新のタイミングの齟齬(そご)から効果的に利活用できないケースがしばしば見られます。社内システムのどこに、どのようなデータが存在しているかを把握しきれていないことが大きな要因となっているため、データの利活用どころか、セキュリティ面でも危険な状態にさらされ続けることになります。
杉山 インターネットから直接アクセス可能なVPNやクラウドサービス、特にVPNが起点となっているサイバー攻撃が目立っています。日本ではシステムを運用に合わせて構築していく企業が少なくはなく、その結果として社内システムの脆弱(ぜいじゃく)性が後手に回っていることがあります。そうした脆弱性管理の隙を突かれて盗まれたID、パスワードなどの認証情報は、いわゆるダークマーケット等で売買され、攻撃に悪用されています。
加藤 お二人のお話を伺い、サイバー攻撃は事業展開や事業継続にとどまらず、財務報告の観点でのリスクでもあるということをあらためて感じています。企業内の膨大なデータが管理されない状態で散らばって、それを外部から狙う侵入者がいる。そうした状況において、攻撃は具体的にどのように起きるものでしょうか。
杉山 特に被害件数が多いのはランサムウェアです。かつては暗号化による業務妨害が主でしたが、現在はそれに加えて企業の重要データを不特定多数の人々に晒すという脅迫が行われています。“身代金”として金銭(多くの場合は暗号資産)を要求されるわけですが、支払いを拒否した場合にはその情報を使って別の組織を脅すなど、二重三重の攻撃の手を繰り出してきます。
加藤 ダークマーケットでは、データがお金になるという認識が定着しているわけですね。
杉山 はい。データの盗取にとどまらず「企業活動の継続」を人質に取ることによって、莫大な“身代金”が手に入ることが周知されています。こうしたサイバー犯罪の手口の巧妙化が、企業へのサイバー攻撃の大きな背景になっているといえるでしょう。