「引当金に関する論点の整理」のポイント

2009年9月10日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計監理レポート 福山伊吹

企業会計基準委員会が平成21年9月8日に公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は平成21年9月8日に、「引当金に関する論点の整理」(以下、論点整理)を公表しました。

論点整理では、引当金に関する会計基準の見直しを検討するに当たり、引当金をどのような場合に計上するか(認識要件)、金額をどのように決定するか(測定)という論点を中心に、引当金の定義と基準の適用範囲、開示などの論点を示し、議論の整理を図ることを目的としています。

なお、平成21年11月9日(月)までがコメント募集期間とされており、寄せられる意見を参考に、今後、会計基準の取りまとめに向けた検討が続けられる予定です。

1. 目的および背景(第1項~第5項)

論点整理は、引当金に関する会計基準の見直しを検討するに当たり、引当金をどのような場合に計上するか(認識要件)、金額をどのように決定するか(測定)という論点を中心に、引当金の定義および基準の適用範囲、開示などの論点を示し、議論の整理を図ることを目的としています。

わが国では、引当金の認識要件および具体例が企業会計原則注解18(以下、注解18)に示されており、それに基づく監査上の取り扱いとして、日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会報告第42号「租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い」等があります。

国際財務報告基準(IFRS)においては、国際会計基準(IAS)第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」(以下、IAS第37号)があり、国際会計基準審議会(IASB)は、2005年6月にIAS第37号の改訂案の公開草案(以下、IAS第37号改訂案)を公表し、認識要件および測定について新たな提案を示しています(IAS第37号改訂案に基づく改訂が2009年中に確定される予定とされていましたが、平成21年8月現在の計画表では、年内に基準を確定するかまたは公開草案を再度公表する予定とされています。)。

IASBとの東京合意に基づき、会計基準のコンバージェンスの取り組みが進められており、2011年6月30日後に適用となる新たな基準を開発するIASBの主要なプロジェクトにおける差異に係る分野については、新たな基準が適用になる際に日本において国際的なアプローチが受け入れられるように両者が緊密に作業を行うこととされています。

このような状況をかんがみ、ASBJにおいて、引当金に関する論点について検討を重ね、論点整理を公表し、広く意見を求めることとされたものです。

2. 論点1 定義と範囲(第6項~第18項)

わが国の会計基準の取り扱い 国際的な会計基準の取り扱い
注解18で引当金の計上要件が定められ、引当金に該当する項目が例示列挙されているが、定義と範囲については定められていない。
注解18に例示としてあげられていない引当金として、実務的には役員退職慰労引当金、ポイント引当金、リストラクチャリング引当金などがみられる。
IAS第37号では、引当金を時期または金額が不確実な負債と定義している。他の基準で取り扱われているものは範囲から除外されている。
負債については、概念フレームワークの定義に基づき、「過去の事象から発生した現在の債務で、その決済により経済的便益を有する資源が企業から流出する結果となることが予想されるものである。」とされている。
IAS第37号改訂案では引当金の用語を使用せず、定義していない。負債の定義はIAS37号と同様である。
今後の方向性

会計基準の対象については、IAS第37号のように引当金を定義するアプローチと、IAS37号改訂案のように引当金を定義せず金融負債以外の負債(非金融負債)を対象とするアプローチが考えられますが、いずれも負債に該当するかどうかに着目して対象を決定することとなります。

また、他の会計基準で取り扱われる項目については、基準の適用範囲から除外することが考えられます。

3. 論点2 認識要件(第19項~第53項)

論点2-1 認識要件の見直しおよび個別項目への当てはめ(第19項~第48項)

国際的な会計基準における取り扱いおよびその動向を踏まえ、引当金の認識要件の見直しの要否の検討を行っています。

IAS第37号およびIAS第37号改訂案と同様の負債の定義を用いる場合は、修繕引当金のような将来において自らの行動により回避することが可能なものは、負債に該当しないこととなると考えられます。

引当金の認識要件の比較

  注解18 IAS第37号 IAS第37号改訂案
(1) その発生が当期以前の事象に起因 企業が過去の事象の結果として 負債の定義を満たしており(1)(2)の要件についてはIAS第37号と実質的に差はないと考えられるが、(3)の要件は削除が提案されている。
(2) 将来の特定の費用または損失 現在の債務(法的または推定的)を有している
(3) 発生の可能性が高い 当該債務の決済のために、経済的便益を持つ資源の流出が必要となる可能性が高い
(4) 金額を合理的に見積もることができる 当該債務の金額について 信頼できる見積もりができる 信頼できる見積もりが可能
偶発事象 発生可能性が低ければ引当金計上不可。偶発債務等は注記。 偶発負債は引当金計上不可。発生可能性がほとんどない場合を除き、開示される(注解18の考え方と基本的に差はないと考えられる)。 偶発負債の用語を削除。
上記の要件を満たしていれば非金融負債として計上し、発生可能性は測定に反映する。

注解18で例示されている引当金について(貸倒引当金を除く)、およびわが国における実務慣行や国際的な会計基準とのコンバージェンス等の観点から検討に含めるべきと考えられるその他の引当金について、IAS第37号およびIAS第37号改訂案と同様の定義を採用した場合に負債に該当するかどうかについて個別に検討しています。

論点2-2 蓋然(がいぜん)性要件(第49項~第53項)

わが国の会計基準の取り扱い
IAS第37号の取り扱い IAS第37号改訂案における提案
蓋然性要件に当たる発生の可能性が高いということが注解18の計上要件の一つとなっている。また、発生の可能性の低い偶発事象に係る費用または損失については、引当金を計上することはできない。 「当該債務を決済するために、経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高い(probable)」ことを引当金の認識要件の一つとしている。 'probable'は'more likely than not'(起こらない可能性よりも起こる可能性の方が高い)と解釈するとされている。 非金融負債の認識要件から蓋然性要件を削除することを提案している。
これは、負債の定義を満たす現在の債務が存在する場合、資源の流出が発生する蓋然性にかかわらず負債として認識すべきであり、将来の事象に関する不確実性は負債の測定に反映すべきと考えることによる。

IAS第37号とIAS第37号改訂案との関係

IAS第37号での引当金と偶発負債の分類 IAS第37号 IAS第37号改訂案
現在の債務(present obligation)

・発生の可能性が高い(probable)もの
・発生の可能性が低いもの
・信頼性をもって測定できないもの

・引当金
・偶発負債(注記開示)
・偶発負債(注記開示)

・非金融負債
・非金融負債
・非金融負債(注記開示)
潜在的債務(possible obligation) 偶発負債(注記開示) 該当なし

4. 論点3 測定(第54項~第99項)

論点3-1 測定の基本的な考え方(第54項~第67項)

わが国の会計基準の取り扱い
IAS第37号の取り扱い IAS第37号改訂案における提案
引当金全般に関する測定の基本的な考え方は明記されていない 「期末日における現在の債務の決済に要する支出の最善の見積り」による。 期末日において現在の債務の決済または第三者への移転のために合理的に支払う金額(現時点決済概念)により非金融負債を測定する。

論点3-2 現在価値への割引(第68項~第86項)

わが国の会計基準の取り扱い IAS第37号の取り扱い IAS第37号改訂案における提案
退職給付引当金や資産除去債務について現在価値への割引を行う定めが個別に設けられているが、引当金の現在価値への割引に関する包括的な定めは存在しない。
資産除去債務会計基準では、見積もった割引前将来キャッシュ・フローの割引価値で算定するとされ、その割引率は無リスクのものを使用し、割引前の将来キャッシュ・フローに見積値から乖離(かいり)するリスクを勘案するとされている。
貨幣の時間価値の影響が重要な場合に現在価値への割引が求められる。使用される割引率には貨幣の時間価値以外に、その負債に特有のリスクを税引前で反映させることが定められているが、当該リスクが将来のキャッシュ・フローの見積もりの中で調整されている場合には、割引率には反映させない。 非金融負債を将来キャッシュ・フローの予測を含む見積もり方法を使用して評価する場合に現在価値への割引計算を提案している。負債に特有のリスクに関する市場の評価を反映させる方法は、キャッシュ・フローの見積もりまたは割引率の調整による反映方法の両方を認めている。

論点3-3 期待値方式(第87項~第99項)

わが国の会計基準の取り扱い IAS第37号の取り扱い IAS第37号改訂案における提案
引当金の測定に関しては合理的な見積もりを基礎とすることが示唆されているのみで具体的な測定方法に関する定めはない。
資産除去債務会計基準では、資産除去債務を現在価値により見積もる際には、最頻値方式、期待値方式のいずれを使用することもできるとしている。
測定対象の引当金が母集団の大きい項目に関係している場合には、債務はすべての起こり得る結果をそれぞれの関連する確率により加重平均して見積もるとし、このような場合には期待値方式により測定を行うものとされている。一方、単一の債務が測定される場合は,原則として見積もられた個々の結果のうち最頻値が負債に対する最善の見積もりとなるとされている。 引当金の測定値を見積もる方法を生起し得る複数のキャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額(期待値)による方法に一本化し、最も生起する可能性が高い単一の金額(最頻値)による方法を削除することが提案されている。

*期待値方式のみとすることについては、測定の信頼性や実行可能性等の観点から懸念があるとする意見もある。

5. 論点4 開示(第100項~第114項)

わが国の会計基準の取り扱い IAS第37号の取り扱い IAS第37号改訂案における提案
以下の注記が求められる。
・重要な会計方針としての引当金の計上基準
・引当金明細表
・偶発債務の注記
引当金の種類ごとの注記のほか、偶発負債の注記、開示が実行不可能な場合の開示、企業の立場を著しく不利にする場合で開示する必要がない場合の定めがされている 認識した非金融負債を種類ごとに開示し、不確実性に関する情報の開示も求められている。

本稿は「『引当金に関する論点の整理』の公表」の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。

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