2. クオリティに関連する課題と解決策
課題の1つとしてデータの精度が確保できないことがあります。企業において、一般的な表計算ソフトを用いた作業は欠かせないものになっていますが、こちらは非常に便利なツールゆえ、時に負の連鎖に陥ってしまうことがあります。個人個人でカスタマイズを繰り返し、結果として、膨大なデータを扱いながら関数によるセル間の複雑怪奇なリレーションが構築されます。さらに新しい業務が増えるたびにシートは追加され、数値間、シート間の連携はブラックボックス化されるため、担当者が不在の際、他の誰もメンテナンスができないような強烈な属人的業務を作り上げます。このようにして計算された製品ライフサイクル損益は到底精度の高いものとはいえません。
もう1つの課題として、仮説検証の深度があります。バリューチェーンを横断する損益は、各機能を横断して作成されるものですが、それぞれの業務特性、業務の成熟度が異なるため、データを収集することに多大な時間を要します。また、データ間の粒度が異なっていることや、容易に加工可能なデータ構造になっていないことにより、集計作業に時間がかかり、ひとまず計算したというレベルの製品ライフサイクル損益をまとめる作業までで時間切れとなってしまい、シミュレーションや分析するための時間が確保できないことが往々にしてあります。この状態では仮説検証を実施することができず、予測シミュレーションや動的損益コントロールによるアクションを生み出すことができません。
前述した通り、EPMシステムは直接のウェブブラウザ入力およびシステム内部での連携、バージョン管理により脱表計算ソフト依存を可能にし、また、インメモリデータベースと組み合わせることによって、劇的なシステムレスポンス向上が期待できます。そのため、システム上のボトルネックが解消され、VCFのための業務プロセスも大きく変化させることが可能となります。
3. コストに関連する課題と解決策
各機能においてそれぞれの目的・状況が異なるためデータの粒度やタイミングが異なることは致し方ないことなのかもしれません。例えば、製品マスター1つを取っても、企画開発段階と製造販売段階では保持できる粒度は異なるのが通例かと思われますし、製品直課できるコストが多い製造コストと比べて、一般管理費の多くは製品マスター上、最も粒度の粗い「全製品」・「共通」レベルでしかデータが持てないのが一般的です。一方、バリューチェーンで損益管理を行うためには、データの粒度やタイミングをそろえる必要があります。そのため、製品ライフサイクル損益を計算するためには、配賦計算が必要になります。しかし、多段階配賦や仮想値を使用した配賦といった複雑な配賦計算は、プログラムを作成する必要があり、システム開発コストの肥大化を招くことがあります。
一方で、EPMシステムに限らず、最近のシステムトレンドとしては、プログラムを作成して開発するというよりは、いわゆる設定ベースでの開発を主体とし、プログラムによるコーディングを極力避ける傾向にあります。そのため、システム開発の生産性向上とそれに連動する導入コストの削減・開発期間の短縮化といった効果が見込まれます。
4. デリバリーに関連する課題と解決策
バリューチェーン全体を俯瞰(ふかん)した目線で管理していくため、VCFを実現するプラットフォームを構築することは果てしなく長い道のりのように捉えられたかもしれません。確かに、企画、開発、製造、販売、アフターサービス、そして終売までの一連のバリューチェーンで損益管理する全体のプラットフォームを構築するのは、開発期間の短縮が可能だとしても一定の時間が必要であり、その間、目に見える効果を伝えることができないのであれば投資判断の承認を得ることも難しいものになります。
しかし、VCFのブループリントやマスター整理など初期段階でクリアしておくアイテムは幾つかあるにせよ、VCF実現プラットフォームは個別での導入が可能です。そうすることにより、早い段階での成果が確立され、プロジェクト進行の堅実感とステークホルダーへの説得力を高めることができます。