前述の通り、デジタル戦略とは、自社の発展に必要な新たな価値創出を行うために、また、自社が魅力的な企業となるために必要な中長期の視点に立った戦略です。デジタル戦略では、CEOを含むすべての役員がその内容を十分に理解し、本当に自社の発展につながっているのか、真に顧客観点での新たな価値創出に寄与するものになっているのかをしっかりと見極める必要があります。では、デジタル戦略を考える上で何が重要かを考えていきます。
1. 経営トップのオーナーシップとデジタルリテラシー
デジタル技術を用いた変革では、顧客目線での目に見える変革を伴う必要がある以上、経営トップが献身的にリーダーシップを発揮する必要があります。
デジタル化による自社の変化をステークホルダーに伝えていく必要があり、また、変革に伴うさまざまな社内の障壁を打ち破る必要があるからです。そのためには、経営トップからの明確な社内外へのメッセージが不可欠です。
しかし、経営トップが十分なデジタルリテラシーを有しているケースはまれであり、世界的に見ても、取締役会がデジタルリテラシーを備えた企業は多くはありません。そのため、デジタル戦略の作成を、デジタル部門やIT部門に任せ、自社のデジタル戦略がビジネスの変革に本当に効果があるのかを経営トップが十分に理解できていないというケースが少なくないのではないかと思います。
顧客目線という観点では、そのような企業の在り方が顧客からどのように見えるのかを強く意識する必要があります。
2. 顧客目線での商品・サービスの変革
デジタルトランスフォーメーションの目的が、「デジタル技術を用いた顧客視点での新たな価値創出」であることから、デジタル戦略では、顧客接点の改革、ビジネスモデルの改革、自社の改革をどのようにデジタル技術を用いて実現するかを具体化する必要があります。各社によって顧客接点の形態もビジネスモデルも自社の状況も異なりますので、デジタル技術を効果的に活かせる可能性をいかに見いだすかということが重要になります。
デジタル活用の可能性を経営トップが理解し、自社が目指すゴールに対してどのようなデジタル技術が貢献するのかをしっかりと把握してそれを明確に伝えていく必要がありますが、経営トップのデジタルリテラシーを考えた場合、社内外の有識者・専門家を活用して、企業のビジョンやビジネス戦略とデジタル技術がしっかり結び付いた骨太なデジタル戦略を構築することが必要となるでしょう。
3. 企業風土の変革への意識
自社の企業風土が旧態依然としていると顧客から見られた場合、どれほど素晴らしいデジタル戦略を描いて発信したとしても、その実現性は疑いの目でみられることでしょう。
デジタル技術を用いたさまざまな変革に対して、自分たちがその変化を受け入れることができる企業風土に変革するための戦略を考え、それを内外に発信していく必要があります。ここは、従来のIT戦略との最も大きな違いかもしれません。ビジネスや業務の変革を起こすためには、企業文化の変革が伴わなければならないということです。
つまり、企業文化という観点から、自社のビジネスモデルやオペレーティングモデル変革に対してどのような障壁があり、その障壁を打破するために具体的に何をしなければならないのかということをしっかりと分析して計画化する必要があります。企業文化、従業員の意識といった障壁にぶつかりDXが進まず、他社に先を越され、顧客からデジタル化が進んでいないというレッテルを張られるリスクを避ける必要があります。
4. 顧客目線で変化を伝えているか
最後に、デジタル化による変革が進んでいることを明確に顧客に伝えていく必要があります。デジタル戦略策定時に顧客を含むステークホルダーへの進捗(ちょく)共有をどのように実施するかということを盛り込んでおく必要があります。
3年間の中期計画で決めたことをやり続けるという旧態依然とした管理を行っているようでは、変化に対応できず、顧客からDXが進んでいないというレッテルを張られる恐れがあります。戦略策定時には、企業として変わらない・変えてはいけないもの(ビジョン・ポリシー)と、状況に応じて柔軟に変化をしていくもの(戦略・戦術)を明確に分け、その考え方を基にした進捗状況を伝えていくことが必要になります。