2023年4月28日
自動車業界における気候変動関連の開示動向
情報センサー2023年5月号 業種別シリーズ

自動車業界における気候変動関連の開示動向

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2023年4月28日

気候変動に関する開示への関心が高まる中、自動車業界では気候変動に伴うリスクや、今後の成長につながる機会をどのように識別し、開示を行っているかについて、各企業の動向を分析しました。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 自動車セクター 公認会計士 松原 充哉

自動車部品製造業や海運業、食品業などの上場・非上場会社の会計監査に従事するとともに、自動車セクターにおける気候変動対応プロジェクトメンバーとして活動。また、国内外で日本企業の海外事業展開をサポートしてきた経験を踏まえ、ジャパン・ビジネス・サービス・アシュアランスデスクのEMEIA地区担当パートナーを務める。

要点
  • 自動車業界における先行企業を中心に気候変動関連開示のトレンドを分析
  • 先行企業では企業価値向上のため、単なる規制対応にとどまらず積極的・戦略的に開示

Ⅰ はじめに

2021年のコーポレートガバナンス・コード(企業統治方針)の改訂や、23年の企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正でもサステナビリティに関する開示の拡充が図られており、中でも、近年、気候変動に関する開示への関心が高まっています。自動車業界は温室効果ガスを排出する側として着目されますが、各企業は、それらに伴うリスクがある一方で、今後の成長につながる機会もあることを積極的に外部へ説明を行っています。

Ⅱ 自動車業界における気候変動関連の開示動向

気候変動に関する開示においては、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示が行われています。

1. 完成車メーカーとサプライヤー

一般に、自動車(四輪車)は2万~3万点の部品から構成され、自動車産業に関する会社は完成車メーカーと、素材や部品の供給を行うサプライヤーとに大別されます。

気候変動に関する「リスクと機会」(<表1>参照)および「シナリオ」については、完成車メーカーとサプライヤーとの間に大きな違いはありません。ただし、両者の立場の相違により、重視される項目にはばらつきがあります。

表1 自動車業界において識別されている気候変動に関するリスクと機会

(1) リスクの識別における特徴

車両の電動化をはじめとする大きな変化を背景として、識別されているリスク項目はおおむね同じです。なお、完成車メーカーは自動車に対する規制対応についての責任を負う立場にあることから、規制対応を重視する傾向にあります。一方、サプライヤーは完成車メーカーからの要請に応えるための技術力に関する言及が多くなっています。また、部品等の供給責任への意識から異常気象等によるリスクに関する言及も多い傾向にあります。

(2) 機会の識別における特徴

完成車メーカー、サプライヤーのいずれにおいても、低排出量商品・サービスの開発・拡張を機会として捉えています。さらに、サプライヤーでは一歩踏み込み、気候変動への対応を経て開発された製品・技術により新市場への参入の機会が生まれると捉えている例も見られます。

(3) 両者の開示における特徴

両者を比較した場合、完成車メーカーの開示の方が充実している傾向にあり、特に①気候関連のリスク・機会がビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響の説明②気候関連リスクを管理するプロセスの説明および③自らの戦略とリスク管理プロセスに即して気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標の開示の3領域での差異が顕著となっています。

また、サプライヤーでは開示媒体もさまざまで、統合報告書やサステナビリティレポートではなく、従来の形式のままウェブサイトに直接記載しており、一覧性に欠ける開示となっている会社も多数あります。


2. 先行企業における開示動向

先行企業における直近2年間の開示動向として、TCFD実務ガイドに照らして開示が充実してきている傾向にあります。TCFD提言における4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)ごとの開示動向は次の通りです。

(1) ガバナンス

気候関連の業績指標が、経営陣・管理職・従業員の報酬体系と連動していることを示す開示拡充がなされています。具体的な評価指標及びその測定方法やインセンティブへのウエートについても開示されています。

(2) 戦略

各企業ともシナリオ分析を経て識別したリスクと機会、これらへの対応策の関連性がより明確化されています。リスクと機会の重要度の整理と、それが具体的な戦略にどう組み込まれているかが示されています。

(3) リスク管理、指標と目標

中長期的な目標とそれに関連する指標を明示した上で、直近の実績が開示されています。目標と実績の比較開示を行うことにより、会社の取組みの進捗(ちょく)について説明しています。ただし、識別したリスクに対する優先順位付けや、財務諸表に与える影響の定量的評価はまだ限定的であり、改善の余地があります。


3. CDPへの回答と統合報告書等での開示の関係

各企業の気候変動対応においては、CDP(英国で設立された国際環境NGO)による質問書に対する回答が行われ、回答内容についてCDPによる評価が行われています。CDPへの回答においては、シナリオ分析を踏まえて識別されたリスク及び機会について、想定される金額的影響も含め詳細に記載すればするほど評価が高くなるため、各企業の回答内容は充実する傾向にあります。

一方、統合報告書やサステナビリティレポートに関しては、現状、各企業でマテリアリティがあると想定される領域に関しても、定量情報を含めた具体的な開示がCDPへの回答と比べると控えめである傾向があります。

今後、企業価値測定のための情報に関する外部からの期待に応えるためには、企業のサステナビリティに関する現状及び課題に関して十分な定量的・定性的な情報を提供し、それが企業の経営戦略にいかに組み込まれ、企業活動に反映されているかを、独自の統合報告書やサステナビリティレポート、もしくは有価証券報告書において明瞭に開示していくことが必要と考えられます。

Ⅲ おわりに

気候変動対応を通じ、自社のリスク及び機会を的確に識別した上で、経営戦略との関係をいかに整理・開示できるか。その成否によって、利害関係者に与える印象は大きく変化します。単なる規制対応で終わらせず、全社を挙げて組織横断的に連携し、自社の持続的な成長のための経営戦略に落とし込んでいくチャンスと捉えて対応を進めることが肝要と考えます。

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サマリー

気候変動に関する開示への関心が高まる中、自動車業界では気候変動に伴うリスクや、今後の成長につながる機会をどのように識別し、開示を行っているかについて、各企業の動向を分析しました。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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