2022年9月30日
物流業における収益認識会計基準開示分析

物流業における収益認識会計基準開示分析

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2022年9月30日

収益認識会計基準適用後の物流業における開示について、2022年3月期に開示された有価証券報告書の49社の調査結果に基づき解説します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 モビリティセクター 公認会計士 川越 靖彦

主に物流会社、公益法人の監査業務やアドバイザリー業務に従事する他、当法人モビリティセクターメンバーとして、物流業に関する書籍の執筆等を行っている。


EY新日本有限責任監査法人 モビリティセクター 公認会計士 伊藤 ゆかり

主に物流、建設、サービスなど多くの上場、非上場会社の監査に従事する他、当法人モビリティセクターメンバーのLTV(Long-term value)担当として気候変動に関する開示動向分析など、企業の長期的価値向上に関する仕組みを推進する活動に取り組んでいる。

要点
  • 2022年3月期の上場企業のうち物流業49社の有価証券報告書の開示事例を分析した。
  • 「収益認識に関する会計基準」の適用により、収益認識注記等において各社の実態に応じてさまざまな開示の工夫が見られる。
  • 収益を理解するための基礎となる情報、収益の分解情報、当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報について物流業のビジネスの特徴を表すものとなっている。

Ⅰ はじめに

本稿では、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、基準)適用後の物流業における開示について、2022年3月期の有価証券報告書の事例調査に基づき説明します。

調査は、22年3月31日決算の上場企業で、SPEEDA企業分類がトラック(企業物流)、トラック(低温物流)、トラック(引越)、宅配便、倉庫、港湾運送に分類される49社を対象としています。

なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 開示事例調査結果

1. 収益を理解するための基礎となる情報

基準では、収益を理解するための基礎となる情報(契約及び履行義務、取引価格の算定、履行義務への配分額の算定、履行義務の充足時点に関する情報、本会計基準の適用における重要な判断)を注記すること(基準80-12項~80-19項)が求められています。

(1) 契約及び履行義務

物流業は、輸送、保管、入出庫作業、検品、関税代行業務等のサービスを提供するという契約を顧客との間で締結しています。履行義務である当該サービスは顧客である荷主との間で、貨物の性質や、輸送場所、保管期間に応じた取り決めがなされるため、個別性の高いものとなります。そのため、開示されている履行義務の事例を「貨物輸送」「倉庫保管」「物流作業」「3PL」「国際物流」の5つに分類したものが<表1>となります。複数の分類を開示している会社はそれぞれの分類に社数を集計しています。

表1 履行義務の分類

(2) 取引価格の算定

物流業においては、サービスの提供の都度顧客に請求、代金の回収が行われる場合が多いということが特徴として挙げられます。今回の調査対象でも、通常の支払期限が1年以内であり、契約に重要な金融要素が含まれていない旨を記載している事例が見られました。

また、会計方針の変更の事例のうち、本人と代理人の区別について、基準の適用により、従来は、総額で収益を認識していたものを、代理人に該当する取引(国際運送取扱業務等)については純額で収益を認識する方法に変更した事例が多数見られました。

(3) 履行義務への配分額の算定、履行義務の充足時点に関する情報

履行義務への配分額については、履行義務の充足に係る進捗(ちょく)度を明記している会社は24社あり、契約の経過期間や、作業の実施期間、サービスの提供度合い、物量、見積総原価に対する実際原価の割合などを考慮した旨を記載している事例がありました。

また会計方針の変更の事例のうち、履行義務の充足時点について、従来は貨物の受託、出荷日、発送日等のサービスのスタート時点において収益を認識していたものを、基準の適用により、履行義務の充足につれて収益を認識する方法に変更した会社が13社ありました。

2. 収益の分解情報

基準では、顧客との契約から生じる収益を分解して注記すること(基準80-10項)、収益の分解情報とセグメント情報の売上高との関係について財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記すること(基準80-11項)が求められています。

今回の調査対象では、次のように記載している事例が複数見られました。

① セグメント別に「顧客との契約から生じる収益」の合計額と「その他の収益」を記載

② セグメント別に「顧客との契約から生じる収益」の内訳(地域別、事業別等)および合計額と「その他の収益」を記載

なお、「顧客との契約から生じる収益」の内訳(地域別、事業別等)を分類するに当たり、有価証券報告書における「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」等との記載の整合性がとられている事例が複数見られました。

また、「その他収益」については、不動産賃貸事業における賃料収入を、リース会計基準に基づいて計上している旨を記載している事例が複数見られました。

3. 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

基準では、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、①契約資産及び契約負債の残高等を注記すること(基準80-20項)②残存履行義務に配分した取引価格を注記すること(基準80-21項~80-24項)が求められています。

(1) 契約資産・契約負債

今回の調査対象では、収益認識注記において契約資産の金額を開示している会社は49社中24社(49%)、契約負債の金額を開示している会社は49社中29社(59%)でした。

契約資産の金額を開示している会社においては、顧客との契約から生じた債権残高に比して、契約資産残高金額が小さいという傾向が見受けられました。

契約資産の内容として、物流サービス(主に貨物輸送サービス)において履行義務の充足に係る進捗度に応じて合理的に見積もられる収益に関するものであるという記載がありました。

一方、契約負債の内容として、顧客との契約に基づいて顧客から受け取った前受金に関するものであるという記載が複数見られました。

また、契約資産の残高がない、もしくは金額的重要性が乏しく開示を省略している事例が複数見られ、前述のとおり、サービスの提供の都度顧客に請求が行われる物流業の特徴が表れています。

(2) 残存履行義務に配分した取引価格

当初に予想される契約期間が1年を超える重要な取引がなく、金額の記載を省略している旨を記載している事例が複数見られました。

物流業においては、主にモノを運ぶサービスを提供しており、スピード感が求められるため、契約期間が長期に及ぶ取引は生じにくいものと考えられます。

Ⅲ おわりに

収益認識会計基準が適用され、物流業においては各社の実態に応じてさまざまな開示の工夫が見られました。

今回の調査結果が今後の開示充実に向けての一助になれば幸いです。

※ 経済情報プラットフォーム「SPEEDA」(jp.ub-speeda.com/

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サマリー

収益認識会計基準適用後の物流業における開示について、2022年3月期に開示された有価証券報告書の49社の調査結果に基づき解説します。

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