固定資産の減損に関するKAMは、①減損損失を計上した事例、②減損の兆候を識別したものの減損損失の計上には至らなかった点に焦点を当てた事例、③減損の兆候の有無の判断に関連する事例が見受けられました。
減損損失を計上した事例では、「内容及び決定理由」に減損損失を認識した場合の注記を参照し、その金額の見積りの前提となった重要な仮定を記載すると共に、「監査上の対応」にその仮定に対応した監査手続の記載がありました。
減損損失を計上しなかった事例では、減損の兆候を識別した資産グループの名称や残高をKAMの内容に記載している事例が多く見られました。これは、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の適用によって、会計上の見積りに関する開示が拡充され、検討対象の資産グループの名称及び残高が注記で明らかになったことが背景にあると考えられます。
重要な仮定として、将来キャッシュ・フローの見積りに含まれる販売台数(マーケットシェア)、市場成長率及び費用に対する予測(原価率・利益率)に加えて、使用価値の算定に使用される割引率が挙げられています。
監査人のKAMの決定理由として、重要な仮定の見積りに不確実性を伴う経営者の判断がある点や、使用価値、公正価値の算定の評価モデルの検証に高度な専門知識が必要な点が挙げられていました。
前述した重要な仮定や評価モデルの複雑性に対応する手続として、割引率や評価モデルに対して、専門家による評価を利用して監査を実施している事例が多くありました。また、監査人が重要な仮定を評価することを目的として、会社から提供された内部資料を閲覧するだけでなく、顧客からの内示情報や外部調査機関が提供している国別及び車種別の生産台数予測等の外部データと内部資料を比較し整合性を確認する手続きを実施している事例や、過去の業績推移を分析する趨(すう)勢分析や重要な仮定の変動によって見積りの影響度を評価するための感応度分析を取り入れた事例も多くありました。