報告書に求められる総覧性と整合性
片倉 開示に関してもう1つご意見を伺いたいのが、各種の報告書についてです。制度としては有価証券報告書がありますが、近年はそれ以外にも、サステナビリティ報告書や統合報告書などのさまざまな報告書があって、正直、私自身も混乱することがあります。しかも、これらは必ずしも同じ部署で作成されているわけではないため、整合性の不一致などが心配されます。このあたりは今後、どのようになるとお考えですか。
古澤 その点に関しては、現場の実務も発展途上だと思いますが、大括りに整理すると、先ほどの取締役会と同じで2つの選択があると思います。その1つは有価証券報告書の総覧性を確保した上で媒体を分散させるやり方、もう1つは海外の会社法に基づくAnnual Reportのように有報に全体を盛り込むやり方です。当面は、開示の担当部署や作業タイミングが分散していることを踏まえると、前者のやり方からスタートするように思いますが、ゆくゆく例えば株主総会前に大事な情報はまとめて開示することが大切だという意見が多くなってくれば、後者のようなやり方が自然だと受け止められるかもしれません。
片倉 個人的な見解としては、全てを有価証券報告書に集約できるかというと、企業は独自に伝えたいこともある。統合報告書など複数の媒体を使いつつ、整合性を図っていく方法も引き続き残るのではないかと思っています。
古澤 金融庁では昨年11月、来年度から、有価証券報告書にサステナビリティに関する基本方針などを記載する欄を作ることなどを内容とする内閣府令改正のパブリックコメントを公表しています。その欄の記載に当たっては、理事長がおっしゃるように、企業のその年の取組みをタイムリーにサマライズし、分かりやすく、矛盾なく開示していただくことが大切ではないかと思います。
片倉 ここまでは、企業や監査の立場からディスクロージャーの在り方を見てきましたが、制度を作る側のこともぜひ伺いたいところです。金融庁の方々と監査法人は定期的にお話をさせていただいていますが、財務諸表の作成主体である企業とはどのようなコミュニケーションをされているのでしょうか。
古澤 制度やルールは、それを使っていただく企業や監査法人の声をお聞きし、実務を踏まえて検討することを心掛けていました。なかなか十分にはいきませんでしたが。現場の皆さんは大変ご多忙ですから、コミュニケーションにおいてはできるだけご負担にならないようにと考えています。特に、企業の声については、例えば、経団連の委員会などの場に呼んでいただけるのはとてもありがたいですし、加えて、個別のお話もできるだけこちらからアウトリーチする形で伺い、いただいたお話をできる限り制度に反映できるよう尽力しています。あとは、心理的安全性ですね。「こんなことを言うと誤解されるんじゃないか」と思われないような雰囲気作りを心掛けています。
片倉 いえいえ、そんなことはないと思いますが。
古澤 ありがとうございます。普段お話を伺っている財務・経理や法務だけでなく、広報や内部監査のように必ずしも普段接していない部門のことも含めて、現場の話は遠慮なく伝えていただけるとありがたいです。