小此木 今回の環境報告書で出したTNFDのβ版に関しては、これまでの活動の切り口を変えて開示をした形です。従ってLとEの部分が十分に検討できているかというと、まだまだやり残していることがあるという認識を持っており、今まさにその部分を改めて深堀りしています。TNFDもSBTN(Science-Based Targets Network)も考え方としてはかなり似ており、両方とも広く事業に対する影響依存を確認した上で自社の事業を切り口として、重点すべき課題を評価し、次の目標設定につなげます。ガイドラインでは、TCFDと同様、TNFDも5年がかりで最終版を作っていくように指示されていますが、できるところから着手し、5年を待つことなく早めに最終版を完成したいと考えています。
茂呂 TNFDの技術ガイドライン、テクニカルガイドラインでも、まずは優先セクターなどやれるところから着手し、そこから徐々に広げていくことを推奨していますね。LとEはある程度そろっているとおっしゃっていましたが、ポートフォリオが地球上のどこにあるかを確認し、それがどういった形で自然界と接点がありそうかというのがLになる。また、そこのセクターでは自然界にどのような影響を与えているか、もしくはどのようなインプットがあって依存しているかの整理は、現状のスナップショットを取るようなものです。オペレーションを正しく理解した上で大きくポートフォリオを持っていれば、俯瞰しながらどこが危険なのかしっかり確認しておくのがLとEになると思います。この点は、御社が各ポートフォリオの上で、各工場、拠点、世界中のロケーションですでに収集していて、ある程度現状が見えていたからこそできると思うのですが、そのような理解でよいでしょうか。
小此木 厳密に言うと、例えば原料を調達する農園レベルまで把握しているかというとそこまでできていない部分もあります。ただ、現在進行形で、今年の原材料の調達において農園レベルまで確認可能かどうかを、メインサプライヤーに問い合わせています。商社を経由して農産物を購入しているため、国はある程度固定されていても農園は固定されていないのが実情です。そこをどう捉えていくかは今後の課題の一つです。
茂呂 商社が原料を集めて御社に卸すので、仕入先の農園は年によって変わってくるということでしょうか。
小此木 当社からクオリティをリクエストするので、クオリティに合致した農園から調達してもらう形になります。同じ農園が、毎年クオリティの基準をクリアできるか保証できないため、場合によっては農園が変わることもあるのです。
茂呂 そうすると、自社のオペレーションだけではなくバリューチェーンの上流までさかのぼるという課題が出てくるのですね。その点も踏まえて、網羅的に見た時、次の開示に何が足りないのかということを抽出していらっしゃるということで、やはり、とても進んでいるなと感じます。
最後になりますが、御社はすでにたくさんの取組みを先進的に行っていますが、これまでの開示内容から見えてくるリスクや機会を踏まえ、今後新たに取り組んでいくアクションについても、ぜひお聞かせください。
藤川 今、小此木が申し上げた原材料の深掘りをするというのが一つと、もう一つは地域の拡大です。現在、紅茶葉に関してスリランカの現地保全に取り組んでいますが、今度はコーヒー豆に関して、ベトナムでも同様にレインフォレスト・アライアンス認証取得支援に取り組んでいきたいと考えています。いずれにしても、これまで社風や文化として環境問題に対する感度が高かったおかげで、こうしたTNFD開示にもスムーズに着手することができました。今後も過去の評価に甘んじることなく、先進的な取組みも含め、全社員一人ひとりが社会的な課題を見つけ、自律的に取り組める組織にしていきたいと思います。
小川 御社の取組みは他の企業の指針として今後も高い関心を集めると思いますし、当法人としても大いに学ばせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。