2024年8月22日
生成AI2.0時代の到来 ~AIとの協働の時代に我々はどうするべきか~(2024年6月19日開催)

生成AI2.0時代の到来 ~AIとの協働の時代に我々はどうするべきか~(2024年6月19日開催)

執筆者 山本 直人

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ パートナー

クライアントやビジネス関係者の方々を新しい価値や発見で驚かせ続けたい。座右の銘は「1日1Wow」。

2024年8月22日

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生成AIの登場から約2年が経過する今、市場の予想を上回る速度でその技術は進化を続けています。この急速な技術進展に対し、どのようにビジネスに活用するべきか、悩む企業は少なくありません。

EYが開催したセミナー「生成AI2.0時代の到来~AIとの協働の時代に我々はどうするべきか~」では、AIに関する最新の技術、先端論文などの情報を独自の視点で分析し、来るべき生成AI2.0時代への対応策について解説しました。

要点
  • 生成AIをビジネスで活用し、差別化を図るための重要なポイントは、AIの本質を踏まえた応用にある。応用することにより基盤モデル自体の価値が向上し、従来とは異なる枠組みでビジネス戦略を構築することが可能となる。
  • AIを活用する際、最終的なアウトプットを確認することはもちろん重要だが、その思考の過程に着目することで新しい観点や根拠を得ることができる。
  • AIに自律性が生まれることで、ビジネスにおける応用性が一層広がる。人間だけでは到底考えつかないような独自の発想によって、生産性の向上という次元を超えた、大きな価値創出につながる。


生成AIの応用性を、ビジネスにおける新たな競争力の源泉へ

ChatGPTやGPT-4は、今や広く認知される存在となりました。これらの基盤モデルの多くは、AIとの一問一答で情報を引き出す用途にとどまっています。しかし、一部の企業は生成AIを自社ビジネスの中核要素として、効果的に活用することに成功しています。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング デジタル・イノベーション AI&データ パートナーの山本直人がその一例として挙げたのが、LLM(Large Language Model)を用いた日本のスタートアップ企業の自動運転に関する取り組みです。

「通常は、人間が入力したプロンプトをLLMが解釈しますが、こちらの企業では周囲の状況(映像)をAIが解釈し、それをプロンプトとしてLLMにインプットすることで、自動車の自動運転技術を構築しようとしています。単純なLLMの機能活用の枠を超えた、事業の競争力として昇華できている事例と言えるでしょう」(山本)

生成AIを活用し、差別化するために重要なもの、それが応用性です。この自動運転の例では、外部から得られた映像を言語モデルが解釈できるように応用しています。

「基盤モデルの上に応用層を加えることでAIの価値が向上し、さまざまな要素に応用可能となります。それにより、AIの思考や行動に深みを持たせ、従来とは異なる枠組みでビジネス戦略を描けるようになります」(山本)
 

自律エージェントにより“物知り博士”からビジネスパートナーへ

AIは基本的に受け身であり、人が何らかの問いかけを行って初めて答えてくれる存在です。具体性の高い答えを得るためには細かな指示が必要であり、長大化した指示が「プロンプトお化け」と揶揄(やゆ)されることもあります。また、聞き手が誰であっても同じ答えを返すステートレス性もあり、便利ではあるものの“物知り博士”の域を出ないというジレンマがあるのも事実です。

AIを“物知り博士”から人間のビジネスパートナーとして進化させるために重要なのが「AIに自律性を持たせること」です。

「自律エージェントやマルチモーダルAIといった技術要素を組み合わせることにより、新しい競争力を生み出すことができれば、AIは人間にとってのパートナーになるでしょう。そのような位置付けにまで成長させることこそが、まさに我々が考える生成AI2.0の未来なのです」(山本)

では、自律エージェントとはどのようなものなのでしょうか。通常のAIは投げられた問いに対して考え、答えを返します。しかし、自律エージェントはまず問いに答えるためのステップを考えます。その実行計画に基づいて、それぞれの役割を持ったエージェントが動き、最終的な答えをアウトプットします。

「自律エージェントの課題に対するプロセスは、人間の組織とよく似ています。AIの組織を作ることができれば、AIが人にとってのビジネスパートナーになる日もそう遠くはないでしょう」(山本)

山本は自律エージェントの動きを理解するため、シニアリサーチャー、ライターのペルソナを定義し、実験を行いました。その結果、アウトプット以上にプロセスにおいて、以下のような非常に興味深い動きが見られました。

(1) 「AIと医療について」まとめるという課題を与える。

(2) シニアリサーチャーがライターに「ヘルスケアにおける最新のAIトレンド」の調査を指示。

(3) 並行して、シニアリサーチャーは「AIを使った画像分析がトレンドなのではないか」と考え、それをまとめライターに共有。

(4) ライターが、自身の調査結果とシニアリサーチャーの考えを併せ、最終的な結果としてまとめた。

複数の専門的な役割を持ったエージェントが連携することで、より高品質なアウトプットを得られることがわかりました。

 

より人間に近づいたマルチモーダルAI、そして生成AI3.0の世界─

続いて山本が取り組んだのは、現実世界からペルソナ像を取得する未来的な実験です。
従来の自律エージェントでは事前に定義したペルソナを使用しますが、この実験では現実世界からペルソナを作成するという新しいアプローチを試みました。

ここで登場するのが、マルチモーダルAIです。
「従来のAIはそのほとんどがシングルモーダルAIであり、スパムメールのフィルターなどがこれに当たります。一方、マルチモーダルAIは、視覚や聴覚、センサーから得られる情報を統合し、認知空間に合わせて推論する仕組みを持っています。これは人間の思考の流れと酷似しており、メガテック企業は汎用AIを実現するための手法として研究を加速させています」(山本)

山本はこのマルチモーダルAIを用い、スマートフォンに保存した動画から自身や家族のペルソナログを取得し、それぞれのモデルを作成。「夏休み、どこに旅行に行く?」というトピックを与えて対話をさせた結果、「米国イエローストーン国立公園」という最終回答が得られました。

(1) スーパーバイザーから「夏休みにどこに行きたいのか、見解を述べよ」と山本モデルに質問。
(2) サラダを食べている画像により“健康志向”のペルソナを持つ山本モデルは、キャンプやビーチなどのアクティビティを希望。
(3) 家族モデルから「ハイキングやサイクリングを楽しめるイエローストーン国立公園がいいのではないか」という、山本モデルの“健康志向”を踏まえた意見が出る。
(4) 山本モデルからライターに「イエローストーン国立公園で楽しむためのアクティビティを調査せよ」と指示。

その後もスーパーバイザーが問いかけを行い、結果をライターがまとめ、最終回答がアウトプットされました。

「AIに自律性が生まれることで、生産性の向上を超えた、大きな価値を創出することにつながります。機能を単純利用するだけでも作業の効率化には非常に大きなメリットがありますが、そこから脱却し、AIとどのように向き合い、組み込むのかという観点が、今後のビジネスにおいて重要なポイントになるでしょう。

技術が日々進化する中で、現在から未来を予測するのは困難です。しかし、今あるテクノロジーの本質を捉えることで、この先に生まれてくる世界観を予測することはできます。大切なのは、未来は描くものであるという認識を持ち、その未来を実現するために今ある道具をどう組み合わせるのか、それを検証することです。それこそが、未来を創り出す上で最も重要なポイントだと我々は考えています」(山本)

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サマリー

生成AIを自社のビジネスにどう活用していくかは、今や多くの企業にとって喫緊の課題となっています。しかし忘れてはならないのは、目指すべき未来を先に設定し、それに対してAIの力を活用するという姿勢です。このアプローチこそが、AIが人間にとっての良きビジネスパートナーとなる未来への鍵となるでしょう。

この記事について

執筆者 山本 直人

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ パートナー

クライアントやビジネス関係者の方々を新しい価値や発見で驚かせ続けたい。座右の銘は「1日1Wow」。